“沈黙と無関心”のメタファー『アーメン』舞台挨拶&ティーチイン@第10回フランス映画祭横浜2002
『アーメン』は、『Z』『ミッシング』等の社会派映画の巨匠コスタ=ガヴラスの最新作。ナチによるユダヤ人虐殺を目撃したエリート親衛隊員の抱く正義感や無力感といった普遍的な葛藤を通し、戦争、宗教、歴史、人間の尊厳といった普遍的なテーマを描いた衝撃作だ。22日の上映に際しては、コスタ=ガヴラス監督とプロデューサーのミシェル・レイ=ガヴラスさんが舞台に立ち、ガブラス監督は「映画の中に出てくる出来事は、全て実際に起きた事実。同時に現在にも存在する“沈黙と無関心”のメタファーです」と語り、またミシェルPは、本作の実際上のプロデュースを行い作品完成に尽力したクロード・レヴィン氏への感謝の言葉と、本作がイタリアのジャーナリストが選ぶ欧州映画の最高の賞に輝いたことを報告した。
作品の上映が終わり、ガブラス監督とミシェルプロデューサーが再度舞台に登場すると、会場からは拍手の渦が巻き起こりそれは数分に渡って続いた。作品の力が、観客一人一人に大きな感情の動きを与えたことがひしひしと感じられる。
そんな中で開始されたティーチ・インでは、そのテーマ性故か製作に関する質問が多かった。ここしばらくアメリカで映画を製作してきたガブラス監督だが、ハッピーエンドではない本作は、勿論アメリカでは作りえないものであったと語る。ヨーロッパ特にクロード・ベリのような製作者がいるフランスのような、環境が整った国でしか製作し得ないものだと。同時にこれまでハリウッドで製作した監督作も、自分の気に入った物語を、フランスのスタッフを使い、ポスト・プロダクションはフランスで行うなどあくまで自身の撮りたいものを撮れる環境でという拘りで作ったものであって、ハリウッドの監督であり続けたいと思ったものではないと、力強く答えた。
素晴らしい作品でありながら、欧州各国の人物が登場するドラマでありながら、台詞が全てフランス語であることがリアリティを阻害しているのでは?という問いかけには、リアリティを求めてドイツ人、イタリア人、ルーマニア人、フランス人、イギリス人俳優が参加しているが、全員がコミュニケーションを取ることが可能なのは英語のみだったため、英語で撮影、完成後に製作されたフランス語版が本日上映されたとのこと。
また、歴史的事実と観客を惹きつける魅力をいかに融合させたかとの問いかけには「娯楽性と重々しい内容は矛盾しません。映画は内容があって、しかも娯楽性があるものたりえるのです。最近はエンターテイメントに真実があってはならない、というような風潮があるようですがね。一つ注意したのは、歴史的事実を尊重しながらドラマツルギーを作ること。その点では、ひじょうに苦労したがその結果が今観ていただいた通りです」とティーチ・インを結んだ。
(宮田晴夫)
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フランス映画祭横浜2002
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アーメン