“女流棋士”というちょっと目新しい職業を題材にしながらも、そこに描かれるドラマは“愛”と“仕事”について考えたことのある者なら、誰もが共感せずにはいられないサプリメント・ムービー『とらばいゆ』が、3月23日初日を迎えた。
 この日、本作で恋愛映画の名手という呼称を揺ぎ無いものとした大谷健太郎監督を筆頭に、“女流棋士”姉妹の姉で本作のヒロイン麻美を演じた瀬戸朝香さんとその夫役の塚本晋也さん、麻美のライバルであり妹里奈を演じた市川実日子さんとその彼氏役の村上淳さんという主要キャストが劇場に来場し、初日舞台挨拶が行われた。二組のカップルの人間関係をリアルに丁寧に綴った本作、撮影前にみっちりとリハーサルを重ね息のあった撮影現場だったとのことで、映画が撮了してから約1年ぶりに集結した面々は、満員の観客と久々のメンバー再会に、それぞれ晴れ晴れとした表情で作品について語った。
 テニスのマルチナ・ヒギンスが大好きだという大谷監督、本作のアイデアは監督のもしヒギンズが家庭を持ったとして試合に負けた日など、家に帰ってどんな振る舞いをするのだろうか?…という想像が、スタートだったそうだ。そこから、頑張って生きている女性の姿を描こうという企画がスタートし、女性棋士の物語になった。「でも最初は将棋を指せる人間は誰もいなかったんですよ。撮影を通じて指せるようになるかと思ったけど、むしろ棋界の裏側に詳しくなっちゃって(笑)」(大谷監督)。麻美役として瀬戸さんを起用したのは、彼女の出演しているドラマを見て、その目の力に自分の世界にぴったりだと思ったからだそうだ。
 瀬戸さんは、先頃本作が出品されたフランスのドーヴィル映画祭に参加し、多くの外国のマスコミから取材を受け、また会場のファンの反応を体験し、日本と同じところもあれば違うところもあるその反応は勉強になったそうだ。本作は、台詞がすごくリアルに書かれていて、ちょっとした仕草以外はほとんどアドリブを入れることもなく、脚本どおりに演じたそうだ。なかでも演じて力の入った部分は、やはりクライマックスの姉妹の対局場面。「打ち方はまだまだだと思いますが、二人の対局には拘りが合って、撮影のほうも昼過ぎから初めて夕方日が暮れるまで何度も撮らせていただいたんです」(瀬戸さん)。
 そんな瀬戸さんの夫役の塚本さんは、最近出演作品が立て続けに公開されているが、ご存知のとおり監督である。大谷監督は塚本さんを「監督であり役者でもあるということで、監督にとって俳優がどのポジションに居て欲しいかを判ってくれている」と評したが、舞台挨拶中も終始軽いギャグで場の雰囲気を盛り上げていた。「台本を読んで泣けちゃうくらいだから、泣ける映画になってなければ自分のせいだと、結構プレッシャーでしたね」(塚本さん)。因みに、塚本さんは撮影途中で監督から本作がコメディであると言われるまで、シリアスなものを目指し演技も渋く決めていたそうだ。「途中で判った時は、ちょっと大きな事件だったね」と笑って話した塚本さんだが、数々の情けなくも頷けてしまう夫の姿を演じつつ、最後にさらりと明かすある秘密がなんともかっこよく注目だ。
 「瀬戸さんに負けない目を持っている人」という大谷監督の目に留まって、里奈役を演じた市川さんは、本作が映画出演二本目。「日本将棋連名から盤と駒をおくってもらって、兎に角毎日練習しました。最後の殴り合いのような対局も、練習時間の方が長かったですね。将棋盤がボコボコになるくらい、練習しましたよ」と、迫真のシーンに至るまでの努力を語った。
 大谷監督曰く「すごく男気があって、しゃべるタイプでありながら現場では寡黙で真面目」と評した村上さんもまた、過日行われた本作の試写会の際にも口にしていたが、大谷監督の作品の大ファンだ。「前作『アベックモンマリ』がすごくいい。どこがって?いいに理屈があるか(笑)。監督は今回の作品でも、現場ではすごく楽しそうでしたね」(村上さん)と撮影現場を振り返った。
 舞台挨拶の最後は、挨拶前に観客席で一緒に作品を観ていたという大谷監督のメッセージでしめられた。「皆さん、いい感じに笑ってくれたり楽しんでくれたようで、少し安心しました。映画はお客さんに育てていただいて完成します。面白いと思われた方は、周囲の方に話してください」

なお、『とらばいゆ』はテアトル新宿にてロードショー公開中!。その後、4月中旬より名古屋ヘラルドシネプラザ、5月中旬より大阪・テアトル梅田、福岡シネテリエ天神で上映予定。また、その他の各地でも順次公開予定だ。

□作品紹介
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1024
(宮田晴夫)