現在“日本一忙しい映画監督”三池崇史フェアを開催中のHNV渋谷店では、先月の“DOAF”トークショーに続くインストアイベントの第2弾として2月22日に、三池監督の最新作『新・仁義の墓場』の公開製作発表記者会見が開催された。
 『新・仁義の墓場』は75年に深作欣ニ監督、渡哲也主演で映画化された実録ヤクザ映画の傑作『仁義の墓場』のリメイク作品で、舞台を戦後から現代に移し現代的解釈と新たなエピソードを加えた比類なき獰猛なバイオレンス作品として製作が進行中。既に撮影は終了し、現在仕上げ作業が進行中。3月下旬に完成し、今夏ロードショー公開が予定されている。
 この日の会見では、まず冒頭で作品の撮影風景の映像が披露され、その迫力が迸る画面はマスコミや一般観客の視線を釘付けにした。熱い作品が期待される。続いて、三池監督と主人公石松睦夫を演じた岸谷五朗さん、石松と運命をともにする菊田智恵子を演じた有森也実さんが舞台に登場。撮影時のことを振り返りつつ、作品への熱い思いを語ってくれた。
 今回リメイク作品に取り組むに当たって、三池監督はどのような心構えで取り組んだのだろうか?「深作さんの映画をリメイクしたというよりは、同じ原作から出来の悪い危ない弟が生まれたって感じかな(笑)。違うものとして楽しんでいただければと思います。頭で考えてこの時期にということよりも、かつて実在した人物がいて、その生涯を書いた人がいて、東映が映画化して、それを好きな人がいっぱいいて、その流れの中で我々が堰きとめたということではなく、主人公の生まれた時からの流れで自然にできたものだと思います。また、沢山のヤクザ映画が作られているので、自分の中でも同じことを繰り返すよりも、自分自身でこの先は無いと思うものを作りたいと思い、その時に素晴らしいシナリオに出逢ったんです」。
 その脚本を担当した武知鎮典氏と三池監督は、近作『荒ぶる魂たち』(近日公開)でも組んでいる。どちらも死に急ぐ男達の姿を描いた作品だが、これは同じテーマへの拘りの現われ?「『カタクリ家の幸福』もありますから(笑)。確かにジャンルで考えると、ヤクザが主人公で、正直に生きることで落ちていき死に向う、バカ…とそういうところだけは共通点だけど、作品に出てくる一人一人がキャラクターを持っているから、同じストーリーでも全く別の方向に進むし、違う作品ですよ。『荒ぶる〜』は人と人との繋がりを大事にし、生まれてくる間違いを描いた作品で、『新・仁義〜』は繋がることができないんです。二つは正反対の作品なんです。」
 キャラクターの話で出たように、三池監督にとって俳優は非常に重要な要素。そして今回の主演の二人は、三池監督の期待をはるかに上回ったようだ。「自分の映画はあるものを吐き出すのではなく、自分の中に取り込んでふくらませる形です。必要なのは刺激を嗚耐えてくれる出演者とスタッフ。今回は、二人のおかげで凄く加速できましたよ」
 主役を演じた岸谷さんは、今回減量等様々な準備をした上でヤクザの生き様に挑んだ。「監督とこの男を作り上げて行く時、こんな奴はいないだろうと思ったら実話でいたんだと。そうすると、普段生きてる生き方のフラットなレベルを変えていかなければならないんです。だから、頭で考える以上にそうした部分で演技していくとどうなるかというのが多かった。登場人物に近づくためには、自分の持ってるものに合成していく何かを探すんです。それは色んな所に転がっていて、伝説のヤクザということで俺の思うのはこうだとパンチ・パーマに剃りこみ、頬のこけかたといった所をヒントにし、映画的にどうかは監督と話しました。減量は、体力を落としてもまずいので、目つきに出るくらいだから5kgくらいですね。」
 前作は今回の話をもらう直前に、偶然にビデオでみたとのこと。「ちょっと運命的なものを感じましたね。それと、三池監督とは組んでみたかったんですぐにOKしました。三池監督は野獣に近い感じでそれ故の瞬発力や発想力がある。それでいて、獣には無い頭の良さも持ち合わせている。撮影中、ものすごい手応えを感じました。三池監督の渦に全て巻き込まれたという感じがします。」
 同じく三池組初挑戦の有森さんも、そ現場を思い起こして目を輝かせる。「事前に何も決まってないんです。それが途中から楽しみに変わりました。今日は何が出てくるのかなと。台本に書かれたことが、いい意味で裏切られて。面白い刺激を沢山与えられました。」
 そして、これまでとはちょっとイメージが異なる今回の役所は、有森さんの中で非常に重要なものになったそうだ。「女優としても女性としても、智恵子さんというのはとても素敵でした。ここまで人を愛することができるのか、またそうした作品にこれまで出会ってきたのかなと…出会ってたのかも知れないけど、自分では気づいてなかった。そういう意味では、やっとこの作品で達成できたと思います。プライベートじゃだめだけど(笑)。自分が嫉妬するような、永遠に憧れる女性に出会えたんです。絶対にこの役は、他の人にわたしたくなかったです。撮影が終わったら、愛すものがなくなっちゃったって感じで…勿論実際周りには愛する人たちはいるんですけど。」
 3人それぞれの言葉からは、作品への達成感が溢れている。夏の公開までしばし待て!

なお、HMV渋谷では三池崇史フェア第3弾として、3月16日(土)17:00より『荒ぶる魂たち』公開記念トークイベントを三池監督、加藤雅也さんほかの出席で開催する。整理券はHMV渋谷店4Fカウンターにて近日配布予定とのこと。こちらも、お楽しみに!

□作品紹介
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=2746
(宮田晴夫)