12月14日、「第4回 NHKアジア・フィルム・フェスティバル」記者会見がNHK放送センターで行なわれた。NHKとの共同製作で新作映画を発表したアジア四ヶ国の映画人がズラリ勢ぞろい。出席者は次の通りだ。

*インドネシア「囁く砂」 監督/ナン・アハナス 女優/クリスティン・ハキム プロデューサー/シャンティ・ハルマィ
*イラン「グレーマンズ・ジャーニー」監督/アミル・シャハブ・ラザヴィアン 
*カザフスタン「ザ・ロード」監督/ダルジャン・オミルバエフ プロデューサー/エリーズ・ジャラドゥ、リマラ・ジャクセンバエヴァ
*台湾「美麗時光」監督/チャン・ツォーチ 俳優/ファン・チィウェイ、ガオ・モンジェ
*日本 NHKエンタープライズ21 上田信

 まずは、NHKエンタープライズ21 上田信氏から挨拶。
「アジアフィルムフェスティバルも今年で4回目。1995年に“映画100年&NHK放送開 始70年”を機会に、映像文化への貢献と、映画を通じての世界との交流を目指して始まったもので、隔年に実施しています。今までにアジアの15の国と地域で17作品を共同製作してまいりました。
 近年、ハイビジョンがより美しく鮮明な音と映像を再現できる時代が到来。今回は特にこれを映画のスクリーンで楽しんでいただこうと、作品自体はフィルムで撮られているものですが、ハイビジョンで上映してご覧いただきます」
 続いて、4ヵ国についての上田氏からの紹介、それぞれの国の映画監督からの挨拶があった。

 1、インドネシア「囁く砂」
上田氏「映画製作が苦しい状況の中“映画の火を絶やさぬように”という情熱から生まれた作品です。本年度、映画はこれを含めてインドネシア全体で二本しか作れなかったとか。そんな状況の中で、若い監督や若いプロデューサー…これからの才能を発掘して支援しようというベテラン女優のハキムさんの考えにNHKも共鳴。『囁く砂』が完成しました」
アハナス監督「私たちがこの映画を作り上げる道程は長いものでした。インドネシアの経済的・政治的状況の変化とともに製作をしてきたと言えます。この映画の製作中にインドネシアでは、四人の大統領が交替しました。スハルト、ハビビ、ワヒド…私たちの映画が上映された本年はメガワティ大統領の時代に入っています。その間、インドネシアで“映画は死の淵にある”と言われてきました。この映画を作るのに四年かかりましたが、その間にこれを含めてたった二本しかインドネシアの映画は生まれなかったのです。8年前の100本の映画が作られた時と比べると大きな違いがあります。このたったひとつの映画だ けで、インドネシアの映画環境を変えるのはまず困難でありますが、今年は4本の映画の製作予定があるとのこと、とてもうれしく思っています」

 2、イラン「グレーマンズ・ジャーニー」
上田氏「数々の素晴らしいドキュメンタリーフィルムを作ってきたラザヴィアン監督。その一本を見たのがきっかけで今回の共同製作になりました。ラザヴィアン監督は“老人”を深く考えるということに強い思いを持っていらっしゃって、数々の老人を主題にしたドキュメンタリーを作ってきた方です」
ラザヴィアン監督「’99年にキアロ・スタミ監督がイランの6本短編を選びまして、それ を東京で上映させていただいたんです。私の作った短編『グレーマン・ソング』もその中に入っていて、それで来日したのが今回の映画をつくるきっかけになりました。
 僕はとても老人に興味があって、10年前から老人について書き物をしたり映画を作ったりしてきました。ですから長編デビューになるこの作品も、老人の一瞬一瞬を大事にして撮りたいと思ったんですね。今まで私を支えてくれた尊敬する日本の監督は、小津安二郎監督と黒沢明監督です」

 3、カザフスタン「ザ・ロード」
上田氏「今回の『ザ・ロード』は、本年5月のカンヌ映画祭に招待された作品です。プロデューサーのエリーズさんがダルジャン監督と『Killer』を作り、続いて『ザ・ロード』を作るにあたり“一緒に作りませんか”と言われたのが共同製作のきっかけでした。カザフスタンでも映画を作るのが困難で、今年は『ザ・ロード』と、もう一本くらいしか作られていないそうです」
ダルジャン監督「日本に来たのは二回目です。最初に来た時には『kardiogramma』を東京国際映画祭に持ってきました。今回NHKとの共同製作が実現したのは、フランスのアルカンという会社のエリーズというプロデューサー、私の妻であるカザフスタン側のプロデューサーのふたりのおかげです。『8と1/2』とか『アメリカの夜』のような映画人が登場する作品が、今までのカザフスタンには無く、それが残念でなりませんでした。ですから今回の『ザ・ロード』には映画監督が登場いたします。私はぜひとも自分の作品に映画監督を登場させたいなあと思っていたんです」

 4、台湾「美麗時光」
上田氏「チャン・ツォーチ監督は、去年の東京国際映画祭で賞を総ナメにした映画『最愛の夏』の監督です。台湾はすぐれた監督がたくさんいるし、製作は容易に成り立つ…と思っていらっしゃる方もいると思います。でも、台湾もなかなか厳しい映画製作状況らしく、監督も“映画を作れなくて大変なんだ”とのこと。それならばこの優れた力量を持つチャン監督と映画を製作するのも意義のあることだなあと…。ここにいるふたりの俳優の青年と1、2年くらい合宿生活のような、運命協同体的なハードな映画製作をなさったそうです。最後のシーンの水中撮影は、常識を超えたものになっています」
チャン・ツォーチ監督「NHKと一緒に仕事をさせてもらったことを、とてもうれしく思います。上田さんの忍耐力と包容力に感謝しています。もうひとり、僕の俳優に対して。撮影の準備から水泳の訓練などいろんなものを含めて、一年近くの準備の時間を費やしました。その間、俳優たちは僕に付き合ってくれましたが、せっかく頑張ってくれたのに、編集でカットしなければならなくて、結局映画に出てこなかった俳優がいます。非常に申しわけなく思っています。彼の忍耐強さにも感謝したいと思います」

 このあと質疑応答。4カ国の映画人と記者とのあいだで“映画のテーマをどうやって見つけるか”“『アジア』をどうとらえているか”など、活発にやりとりがなされた。
                                   
                      取材・構成/かきあげこ(書上久美)