アメリカのとある郊外住宅地を舞台に、そこで生まれた不可思議な愛の形を若手&実力派キャスト陣の共演で描いた話題作『クライム アンド パニッシュメント』が、現在シネ・リーブル池袋にて好評ロードショー公開中だ。12月8日には、郊外を舞台にした作品を著し、またそれぞれ日本の郊外とでもいうべき土地で生活している作家の島田雅彦さん、佐伯一麦さんを迎えて、本作とも共通するパーソナリティをお持ちのお二人により、作品を読み解く郊外(=サバービア)という単語をテーマにトークショーが開催された。
 この作品はタイトルからも判る通り、ドストエフスキーの『罪と罰』を原作に、アメリカ郊外に住む住人達を主人公に置き換えた、ユニークな映画化作品である。ご自身も、ロシア文学を研究されていた島田さんは、「ドストエフスキーはあまり意識しない方がいいね。ミステリー的にぐいぐいと読ませるドストエフスキー作品に対して、この映画は何も可笑しくないというかむしろつまらないらしい少年、ヴィンセントが終始ニヤニヤと妙な笑いを浮かべているのはドストエフスキー作品には無いもの」と、感想を語る。そしてそのヴィンセントの姿は島田さんが大学生で作家デビューした頃のようだという、佐伯さんは「ヴィンセントによってヒロインのモニカが救われたのかどうか等、簡単に解決を付けずに観客の判断に委ねているのがいい」と、全てを描かず想像力をかきたてるその作劇に魅力を感じたそうだ。
 古くは86年の『リバース・エッジ』から新作『ゴースト・ワールド』まで、多くの作品が作られているサバービア映画の系譜の中で、本作はハリウッド製作作品なりに、現実に近いサバービアンの姿を描いていると島田さんは感じたそうだ。海外旅行などしたことは無く、映画はハリウッド作品しか観もしないで、情報はテレビなどからでしか得られない。そんなサバービアの姿は、絵空事でもなんでもないことをご自身のアメリカ滞在時のユーモラスなエピソードを交えつつ語る島田さん。そこにはノスタルジックなものなどなく、新興住宅街という現実感があると佐伯さんも付け加える。
 それにしても最初に島田さんが少しふれられたが、ドストエフスキーの原作をこんなアメリカ映画に仕上げてしまったということも実に興味深いではないか。「物語とは別に様々な要素や遊びがあり、悲劇のみならず笑いなどいろいろな意味を持つあたりは、原作の映画に通じる部分」(佐伯さん)「原作は主役のカップル以外の登場人物が多く、彼らが一方的にしゃべりまくる。これに対してこの映画は、視線が交錯するのがひじょうに効果的な作品です。登場人物の眼差しに注意し、その先に何が映っていて、またそうして映った相手や風景に奇妙な意味が生じていることに注目して見ると面白い」(島田さん)など、原作との関連を巡る言及もされたトークは、それを念頭において見ると作品の新たな切り口が伝わってくるような、実に興味深いものだった。
 なお、『クライム アンド パニッシュメント』は、12月21日までシネ・リーブル池袋にてロードショー公開中。

□作品紹介
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=82
(宮田晴夫)