候考賢審査委員長の釜山映画祭レポート “アジア映画の今を語る”
第2回東京フィルメックスも早いもので残すところ3日間となった。有楽町西武A館8Fの“東京フィルメックス情報サテライト”では24日午後1時半よりサイドイベントとして、第2回東京フィルメックスの、また先頃開催された釜山映画祭でも審査委員長を務める候考賢(ホウ・シャオシェン)監督を迎えてのトーク・ショーが開催された。
各地の映画祭にアジア映画が多数出品され、それらが好評を博する昨今だが、候監督の作品は欧州作品が映画祭出品作品の大多数を占めていた頃から、ナント三大陸映画祭で『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』と2年連続グランプリを受賞、『悲情城市』がヴェネチア映画祭で金獅子賞受賞と、逸早く注目を集めてきたのだ。
候監督が映画界入りした頃は、台湾映画界にコマーシャリズムが現存していて、8年間の下積み期間を経て監督デビューを果たしている。デビュー当時の3作品は興行的にも成功を修める「当時は国際マーケットや国際映画祭など考えることもなかったね」。
80年代に入り海外で勉強してきた学生が台湾に戻るなど、撮影所出身でない若手が活動を始め、台湾でもニュー・ウェーヴが始まる。候監督もその頃から、ご自身のスタイルを気にするようになったとのこと。最初に作品が紹介された映画祭は香港映画祭で、そこから欧州でも注目されるようになり、先に挙げたような映画祭に作品が出品されるようになってきた。最初にご自身が映画祭に参加したのは、『冬冬の夏休み』の時からだという。受賞後、監督の様子はどう変わったのだろうか。「私の作品は賞を取ってから、台湾でヒットしなくなってしまったね。『冬冬〜』の時は、フランスの片田舎でまた賞を取ったと報道されましたよ(笑)」。最終的には映画祭での評判と、作品の興行的成功は結びつかない、観客は正直だから難しければ観に来ないと、冷静に状況を語る候監督。そして主流となる映画と映画祭で受賞する作品との交差点が、ますます離れつつあることを。
今年は二つの映画祭で審査員長を務めたこともあり、若いクリエイターの作品を多く観て来られた候監督、そうした作品やクリエイターの印象はどうなのだろう。「私のイメージでは、技術的なレベルでは非常に高いものになっていると思います。しかし、僕らが彼らに期待する新しいものは意外に少ない。どんな映画作家も、他の映画から学んでいくことはノーマルなことです。でも、私自身は独自の世界を作っていきたいと思っていました。新たのクリエイターの作品からは、かって影響を受けた作品の影も見られれば、彼ら自身の力も感じることはできる。彼らの将来に興味もあれば、心配でもあります」。
そして、同時に今の作家は映画祭が終わり本国に戻ると、そこでは主流となる映画の流れと断ち切られてしまっている思いを感じている。「そうした作品が主流に入っていくことにより、主流の作品の硬化を防がなければならないと思います。そしてその為のかけ橋が必要なんです」。しかし、それは同時に難しいことであることは、候監督は百も承知だ。クリエイターは拘って自分のものを作りたいものなのだから。「僕が考えたのは、自分自身を振り返り、今来た以外の方向を探すのも一つの方法です。ただし、それを個人で行うにはおのずと限界があり、そこに興行側がそれを汲み取ってくれることも重要です」。
候監督の近作3作は、俳優というよりもスターともいうべき方が主役を演じている。これも、また一つの方法なのだ。「実は彼らの多くは、スターからプロの俳優への切り替えをしたいと強く思っている。そのあたりのキャストと作家の接点をプロデュースする製作者も重要なんです」。
新しいクリエイターたちの作家性、商業主義と作家主義の接点、等一つ一つの密度が高い話題が展開していったが、トークの残り時間も残り僅か。会場からの質疑応答へと移り、ここでも熱心な質問が寄せられた。アジア映画という一般的な括りがなされる中、その共通点とそれぞれの独自性についてはどのように思われているか。「当然、国が違えば作品も違います。それぞれの民族性が違うのですから。ただ共通しているのは、この国はこの影響を受けてきたんだなぁといったことが垣間見えるということはあります。併せて市場についてお話しますと、私は釜山に行って思ったのは、その国その国で映画のマーケットを巡る状況は異なるのですが、韓国・タイ・香港は非常に一緒にマーケットを作っているのを感じました。ただし、台湾はそれができません。そこに入っていけないのは、台湾に市場が無いからです。年間製作が10本に満たない台湾とは違い、香港は再び市場を回復してきた雰囲気があるし、タイや韓国は映画のマーケットが元気になってきている印象を受けました。私は映画のマーケットに関しましても、何か国を超えてコンセプトがあると、仕事がしていきやすいし、協力しやすいのではないかと思います」。なおこの発言に関連して、今年の釜山映画祭では、香港のピーター・チャン監督、韓国のキム・ジヨン監督、タイのノンスィー・ニミブット監督の共同プロジェクトが発表されたことも報告された。
なお、候監督は、24日15時から同じく“東京フィルメックス情報サテライト”にて開催される第2回東京フィルメックス結果発表先行ミニ会見に、また同日19時から開催される授賞式及び続く『ミレニアム・マンボ』上映後のティーチ・インにそれぞれ出席する。また、“東京フィルメックス情報サテライト”として12時15分から開催が予定されていた『フラワー・アイランド』ソン・インゴル監督Q&Aは、監督来日の都合がつかなくなり、中止となったことを、ご報告いたします。
□第2回東京フィルメックス
http://www.filmex.net/
(宮田晴夫)