『藍宇(ランユー)』は、ネット上で発表された小説『北京故事』を映画化したスタンリー・クワン監督の最新作。数年間に渡るゲイのカップルの姿を真摯にとらえた恋愛ドラマだ。当初、来日を予定していたクワン監督は、まさに本日から新作の撮影に入ったため、来日できなかったが、俳優出身(本作には出演もしている)で本作が初プロデュース作品となるチャン・ヨンニンさんが11月20日の朝日ホールに来場、上映後にティーチ・インが行われた。原作を読んで涙が止まらなかったと、思い入れの深さを語るヨンニンP。同様の思いの方は観客側にも多いようで、ここでは紹介しきれなかったが、ティーチ・インでは解釈の違いについての質問が飛び出したりと、かなり熱のこもったものになった。

Q.本作の企画の経緯は?
——2年半前に出張で上海に行った時に、友人から『北京故事』という本を渡されました。本を開くとセックスの描写ばかりで、そのまま本を閉じたのですが、その後も友人から読むように強く勧められて読み始めました。すると徹夜をして3度も読み返していました。涙が出てきました。勿論セックスの描写ではなくて、二人の愛の感情にすっかり感動したからです。そして映像が目に浮かんできて、これは映画化しなくてはならないと思いました。しかも、主役は私だと確信したんです。それは、私の美しい肉体をベッドの上で曝したいと思ったからではなくて、この愛に感動したからです。現代社会では、人間関係が持たれているのには理由があり、純粋な愛は少ないのではないかと。それで、この映画を作ろうと思いました。
私自身がハントンと同じく大家族の出身だったということもあると思いますが、インターネットからプリント・アウトした物語を持って資金繰りに回り、スタンリー・クワンを監督に選びました。これには二つ理由がありまして、一つは彼がゲイだからではなく彼が素晴らしい人間であり、非常に心優しく個性的な人間であるから、そしてもう一つは、香港でかなり有名な監督であり、有名な監督を起用したいと思ったのです。そして、香港に行き彼に涙を流しながら内容を説明したのです。私があまりに涙を流しているので、スタンリーは「わかった」と言ってくれたのです。私はそれで映画の半分は出来上がったと思いました。

Q.リュウ・イエさんを主役に抜擢した理由は?
——スタンリーとキャスティングについて話し合った時に、一番ハンサムな男を選ぶのではなくて一番優秀な人を選ぼうという点で一致していました。ゲイのステレオ・タイプを助長させるような人はえらびたくなかったんです。女っぽいとか、可愛らしいとかではなく、普通の人を選びたかった。しかも、彼は非常に演技が巧かったんです。

Q.北京での撮影には制約とかはなかったのでしょうか?
——初めから通り易い内容だとは思わなかったので、初めから当局の方には許可を求めなかったのです。許可を求めると、当局はYESかNOかをださなくてはならないのですから。おかげさまで撮影中は全く問題なく撮影ができました。と言ってもゲリラ撮影ではないですよ。スタンリー・クワンという非常に有名な監督ですから、初めからそういう撮影はしないという条件でしたし、撮影隊は80名いて問題なく行われました。

Q.プロデューサーと役者の二役ということで、現場ではどのように切り替えられていたのでしょうか。また、原作と変わった部分に関しては、脚本家・監督による部分で、プロデューサーは関わっていないのでしょうか?
——私は今回が初プロデュース作品で、プロデューサーに関してはよくわからなかったのが実際です。小切手を切るだけの人にはなりたくない、バジェットをオーヴァーしてはならないということは肝に銘じておりましたが、少なくとも現場では100%スタンリー・クワンの傍に立っていて後ろを支えるような仕事ぶりをしました。役者としてプロデューサーとしての立場が、あやふやだったかどうかは定かではありませんが、作品が完成して私の貢献は大きかったという確信はあります。
二人の男と一人の女の関係性を描いていることは確かですし、100%小説からかけ離れてしまった実感は無いです。物語を映画言語に書き換えると言う脚本家の作業は、オリジナルに沢山の変更を加えなければなりません。その過程では、監督・脚本家・私の三者が緊密な協力関係で作り上げました。

 一つ一つの質問に、丁寧に答えたヨンニンさん。最後に感謝の意とともに、「これはゲイの男の関係性についての映画ですけど、ゲイだけが見る映画ではなく、人生・人間関係の感情といったものを信じている全ての人々にとっては、自分達の人生との共通性を見出してくれるのではないかと思います」と作品をアピールした。

□第2回東京フィルメックス
http://www.filmex.net/
(宮田晴夫)