香港で犯罪組織の大物の連続殺害事件が発生。薬物を使い犯罪者を殺害する連続殺人犯人、事件を基に実録犯罪小説を書く新聞記者、そして事件を追う刑事。3人は微妙にニアミスを繰り返しつつ、しだいにその運命は重なり合ってくる。そんな3人のドラマを、時制を入れ替えたりしつつ編み上げられた犯罪ドラマが第2回東京フィルメックスの1本目のコンペ参加作品となった『天有眼』だ。
 映画の終映後には、デレク・チウ監督が舞台に登場、「生活環境や習慣が異なっても、映画はお互いを理解しやすくするものだと思う」と挨拶したのに続き、ティーチ・インが行われた。

この映画は原作ものですが、この原作を選んだ理由と、主演の3人のキャスティングについて教えてください。
——香港映画では、マフィアをヒーローのように描いた作品が非常に多く、そうしたマフィアを美化したような映画に私自身疑問を持っていまして、そうした流れを変えるということが一番大きな動機です。原作を読み闇の社会を片付けるヒーローこそ、本当のヒーローカと思いました。三人の起用に関しましては、マフィアをやっつけるのが普通でありながらヒーロー的な存在ということで、スターと言うよりはそれ程知名度の高くない人を起用した方が効果的だと思ったんです。

ジョニー・トウさんのミルキーウェイ・イメージで製作された経緯と、彼との仕事のコラボレーションはどのような感じなのでしょうか?
——ジョニー・トウさんとは、これまで二度ほど仕事をし、楽しい経験をさせていただいてきました。それで今回、僕の方からテーマを提案し、それなら一緒にやろうということになりました。彼は、なんでも自由にやらせてくれて、現場の方で指図をするようなことは決してありません。シナリオの最終稿も私の方で書きましたし、テーマさえ決めれば後は任せてくれます。ただ、これは撮り終わってから出た話なんですけど、今回の作品に関しては二人の志向は違っていたようです。彼は、普通のハリウッド映画に近い刑事ものを撮りたかったようですが、私はむしろ構成やストーリーの流れを複雑にし観客の関心を喚起する方向でやりました。

幻想場面で3人が毒の入ったお椀を持って回転する場面があり、一人は『グリーン・ホーネット』の扮装をしていましたが、他の二人の扮装にもそうしたモデルがあったのでしょうか。
——3人は、それぞれ独立した存在で、やっと最後に再会を果たすわけですが、それぞれの気持ちは全く別だったと思うのです。一瞬の気持ちの交流の後それぞれ別の方向にすすんでいく3人は、平凡な人間でありながら、映画の中の台詞にあったように「頭の中で殺し屋になれる」という、そこに一種のポイントがあったと思うんです。
それで3人の役者の幻想場面ですが、どんな格好をするのかはそれぞれの役者が考えたんです。サニー・チャンがチョウ・ユンファの格好をしたりとか。ただ、監督の立場で言えば、そうした超現実的な映像は一種のブリッジ的な役割として観客の皆さんに想像の余地を残すという意味で必要だと思います。

監督の以前の作品『三個受傷的警察』は、本作に比べると比較的普通のアクション作品ですが、やはり本作のような作品の方がやりたかったのでしょうか。
——監督としては、様々なスタイル・ジャンルの作品に挑戦してみたい。それは他の監督さんも同様でしょう。だから僕自身どちらが好きということではなく、どちらも撮りたいと思いますよ。ただし、いずれにしても人間の気持ちや感情の表れ・交流を描くことは、私にとって命のようなもので、必ず力を入れたいと思っています。

 チウ監督が現在新作として企画を練っている作品は、ネタ切れ気味のライターが取材のために香港から日本にやってきて、そこで失われた自分を探す物語だそうだ。現実面ではこれからということだが、日本を舞台にどんな自分探しを見せてくれるか、実現を楽しみにしたい。

 なお、『天有眼』は11月20日の15時40分からも、朝日ホールで再度上映される。
□第2回東京フィルメックス
http://www.filmex.net/
(宮田晴夫)