『どうすればよかったか?』が韓国でヒット、その背景は?

『オデュッセイア』などの大作がスクリーンを席巻する夏の韓国で、日本のドキュメンタリー映画が話題となっている。藤野知明監督が自身の家族にカメラを向けた『どうすればよかったか?』だ。
韓国映画振興委員会の統計によると、7月29日の公開から約1カ月後となる8月30日時点の累積観客数は9万3,000人。興行収入は9億ウォン(約1億460 万円)を超えた。たった9万人と思われるかもしれないが、「低予算のインディペンデント映画は動員5,000人でも大成功」と言われる韓国で、この数字は奇跡だという関係者もいるほどだ。
■20年間の家族の記録
藤野監督の8歳年上の姉は、医学部進学後に統合失調症を疑わせる症状を見せ始める。しかし医師で研究者でもある両親は娘の病気を認めない。監督が適切な治療を受けさせるべく説得しようとしても両親は聞き入れようとしない。
そして18年後。東京で映像制作を学び始めた監督は、帰省するたびに家族の姿を記録し始める。家族そろっての外出、両親との対話、姉に話しかけた際の反応などを20年にわたり撮り続ける。その間にも姉の症状はますます悪化していき、ついに両親は玄関に南京錠をかけて姉を家に閉じ込めることになる。
本作は冒頭で、統合失調症について解説する映画ではないことが示される。監督が、何が正しいのかについて饒舌に語ることもない。映し出されるのはただ、家族であっても分かり合えない相手との果てしない対話だ。観客には「どうすればよかったか?」という正解のない問いが残り続ける。
■国境を越えた共感

日本の上映館はミニシアターが中心だったが、韓国ではミニシアターのほかに一部のシネコンでも上映されている。8月末にソウルのシネコンで本作を鑑賞した。平日の日中とあって満席ではなかったが、観客は学生と思われる若い女性や社会人、年配の男女まで幅広かった。
監督は公開当初と8月末にソウルを訪れて観客と対話した。そのほかインディペンデント映画の監督や医療関係者、病気の当事者によるトークイベントも数回にわたり開催されている。いわゆる“重い”テーマのドキュメンタリー映画が、なぜ韓国で多くの観客に支持されているのか。
ポータルサイト「Naver」の観客レビューでは「愛と責任の境界を考えさせられた。“果たして両親は娘を本当に愛していたのか”という問いに簡単には答えられない」「どの家にも似たことがあるだろう」「人間の普遍的な物語」など、多くの人が「自分にも起こりうること」として受け止めたことが読み取れる。
評論家のオ・ドンジン氏は本作を「問題に直面した者の選択を扱う映画。人生はどのような選択をしながら生きるべきか、その選択が果たして最善なのかを問う実存の哲学」と評した。ヒットの理由については、インターネットの口コミが広がったことを挙げ、その背景として「映画の中の家族の姿に自分の家族を重ねる人が多いため。各家庭にはそれぞれ事情や隠したい秘密があり、皆が心の底に暗いものを抱えて生きているからではないか」と指摘。そのような人々が「映画という共感の場で同じく傷ついた人と出会い、その傷を癒したいと考えている」と分析している。
(レポート:芳賀恵)
*参考記事
https://www.kgnews.co.kr/news/article.html?no=907940
(オ・ドンジン評論家コラム 2026年8月18日付『京畿新聞』)