関心を持つことが虐待の抑止につながる。人間の絆を描いた映画『ひとくず』上西雄大監督、古川藍さん、徳竹未夏さん、楠部知子先生舞台挨拶(テアトル梅田)
10/16(金)、大阪市北区のテアトル梅田にて映画『ひとくず』の公開初日舞台挨拶が行われた。当初は東京に続き関西でも春に公開予定であったが、コロナ禍で上映延期となっていた。
窃盗犯のカネマサ(上西雄大)は、空き巣に入った先で、少女・鞠(小南希良梨)と出会う。鞠は母親・凛(古川藍)から虐待を受け、電気を止められ食料がない部屋に閉じ込められていた。自身も幼少時に虐待を受けて育ったカネマサは、社会の規範を外れたやり方で鞠を救おうと動き出す。
監督・脚本・主演を務めた上西雄大監督。劇中では、人とのコミュニケーションの術を知らず、女性に対して暴言を吐き続けるカネマサが変化していく様を熱演した。
「カネマサの人格になって演じたので、僕は普段から暴言を吐いたりしません。女性に対してはすべての女性は美しいと思っています」と観客を笑わせた上西監督。制作にあたり手厚くサポートを受けたという関係各社、人々に感謝の言葉を述べた。
「世の中にはたくさんの温かい良心が溢れていて、良心が社会を支えていることをこの映画を通して実感しました。僕らが生まれ育った関西で、たくさんの方に来て頂けたことに感謝しています。今日はありがとうございました」
「僕らが何か世の中の役に立てることがあるだろうか。それを自問した時に自信を持って答えることがなかなかできません。だけどこの映画の中に世の中に対して何か力添えできるものが生まれていれば、僕らが役者として生きていく意義があると思います」
映画『ひとくず』制作のきっかけとなったのは、上西監督と児童精神科医の楠部知子先生との出会いだったという。楠部先生から虐待の現状について話を聞き、行き場のない怒りが溜まり、救いにたどり着きたいと、一晩で脚本を書き上げた。
「あの時に楠部先生が僕に手渡された言葉一つ一つに、今思い返しても深い意味があったなと思います。僕はカネマサとだけ名乗りましたけど、上西雄大です」
舞台挨拶の場に立った上西監督が名乗りを忘れていたほど感無量であったことが伝わり、観客から笑いと拍手が起こった。
児童精神科医として児童相談所、教育センター、福祉施設で子どもたちの支援に務めてきたという楠部知子先生は、
「30年ほど仕事をしている中でなかなか虐待が減らない、どんどん増えています」と虐待の現状について語った。
「テレビで報道されても可哀そうにとか、うちはそんなことはないよって見過ごされてしまう子ども達やお母さん達の事を皆さんにもっと知ってもらいたい。周りの方がちょっと声をかけたり、気をつけてあげることで防げること、早く救えるケースがたくさんあるんじゃないかと思っています」
楠部先生が虐待の話をした翌日には、上西監督からメールで脚本が届いたという。
「あれが3年前。いろんな方のご尽力の元、こうやって関西で上映できて良かったと思っています。ぜひ色々な方に伝えいただいて、知って考えていただく機会にして頂ければと思います」
上西監督より劇団テンアンツの「かけがえのない仲間」として紹介されたのは、少女・鞠の母親である凜を演じた古川藍さんと、カネマサの母親役を演じた徳竹未夏さん。
古川さんは観客に感謝の言葉を述べた後、外で上映が終わるのを待ちながら、見終わった後の観客の表情がどんなものかドキドキしていたと語った。
「皆様のお顔を拝見すると涙を流している方が多かったので、私たちがこの作品を作った意味があったなと思いました。虐待をメインに置いてはいますけど、家族の暖かさや絆を表現している作品です」
「虐待について先ほど代表も楠部先生も仰っていましたけど、見て見ぬふりをしてはいけないということ。関心を持つことから抑止につながります。皆さん何か心に留めていただけたらなと思っています」
徳竹さんは、海外の映画祭に参加した際のエピソードを披露。気になる観客の反応は、
「笑う場所も一緒だし、感動するところも一緒で。国や人種関係なく、人の心というのは、万国共通と言うか、そういうものがあるのだなと思って」
上映後にはスタンディングオベーションが起こったという。
「授賞式の時に“この作品が賞を取らなかったらおかしい”と思うと言ってくださった方々もいらっしゃいました。本当にこの作品に携われたことを幸せに感じております」
「この映画は人生を入れ込んだような作品」と語る上西監督は、感想のSNS発信を呼びかけた。
「僕らがここに立てているのは本当に温かい方々のお力添えです。感謝の思いしかありませんが、その上に立って僕らこれからも頑張って参ります。どうぞお力添えよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました」
劇場は大きな拍手に包まれた。
映画『ひとくず』は、関西ではテアトル梅田、京都みなみ会館にて上映中。
11/13(金)よりイオンシネマ茨木、12/12(土)~12/18(金)元町映画館
にて上映予定。その他の地域の情報はこちらから。ぜひ足をお運びください。