ダフト・パンク、ビョーク、ジェーン・バーキンといった超一流アーティストが心酔する<狂気>の天才ピアニスト/音楽家チリー・ゴンザレスの破天荒な生き様と、繊細で感動的な音楽の魅力に迫る傑作ドキュメンタリー映画『黙ってピアノを弾いてくれ』の特別先行試写会が行われ、音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家として、幅広いジャンルで日本の音楽シーンに欠かせない存在である大沢伸一氏をお迎えして、本作の魅力と見どころを語って頂きました。

≪映画『黙ってピアノを弾いてくれ』特別先行試写会≫
■日時: 9月6日(木)19:00~19:30(30分)                     
■会場 : 渋谷ユーロライブ (〒150-0044東京都渋谷区円山町1-5)
■登壇者:大沢伸一さん

大沢 伸一(おおさわ・しんいち)プロフィール 
音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。リミックスを含むプロデュースワークでBOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEX GOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手がける他、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍。2017年14年振りとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。iTunesアルバム総合チャート1位、オリコンアルバムランキング8位、満島ひかりが歌う「ラビリンス」ミュージックビデオが1400万回以上再生されるなど音楽シーンの話題となった。今年3/21には続編アルバム『Attune/Detune』もリリース。


本編上映前の期待感に包まれた場内に大沢伸一氏が登場すると、客席から自然と拍手が起こった。
まず、MCからチリー・ゴンザレスの魅力について聞かれると、「普段、そのアーティストのCDを買っても、なかなかアーティストの人生まで踏み込んでみたいとは思わないじゃないですが、チリー・ゴンザレスという人は、ちょっと変わった人ですし、非常に多岐に渡る表現活動をしていて、語るべき所がたくさんある興味深い人物なんですよね」。また、かつて大沢氏がチリー・ゴンザレスのアルバム「ソロ・ピアノ2」のリリース時に、彼を「現代のサティだ」と表現したことについて聞かれると、「「ソロ・ピアノ」シリーズはショパンのようなキラキラしたピアノソロ作品とは違って、どこか凛とした家具のような音楽を想起させられますね。それはサティの世界に似ているんじゃないかなと思いました。本人も映画の中で、そう言った事をちらりと言っていましたね。恐らく音楽的にも非常に近いものがあるのではないでしょうか」と語った。また、チリー・ゴンザレスの表現方法について話が及ぶと、「たとえばチリーの場合、いまはピアニストとして知られていますが、そこに至るまでに様々な音楽をやっているわけです。自分の話になってしまうので恐縮なのですが、僕はバンド、プロデュース、DJ、いろんな形態で音楽をやっているのですが、そうするとノンポリというか、本当にやりたいことって何なの?と良く言われるんですけど、僕は一貫して音楽をやっているんですよね。だから、大沢さんはどういう音楽家ですか?と言われたときには、皮肉も込めて、本来の意味ではそうは思っていないですが「音楽的多重人格」と言っているんです。好きなものは、何でも表現したいんです。でも、それはあたり前ですよね。例えば、ジョアン・ジルベルトの音楽が大好きだけど、一生これしか聴かないなんて人はいないわけです。音楽が好きであればあるほど、たくさんの音楽を聴くわけですよね。表現者だったらなおさらです。僕はプロデューサーでもあるので、当然、ひとつの楽器に閉じ込められているわけじゃない。そして、チリー・ゴンザレスも、おそらくそう思っているんじゃないかなと思っています。彼が表現する音楽の表現の幅は、ものすごく多岐に渡っていますし、彼のその姿勢に勝手にシンパシーを感じていました」。続いて映画『黙ってピアノを弾いてくれ』について感想を求められると、「すごく正直な映画だと思います。彼を美化しているわけではなく、彼の通ってきた道、どうして音楽をやろうと思ったのか?がストレートに描かれている。また映画を観ていくと、彼はある種「チリー・ゴンザレス」を演じていて、キャラクターを作って、常に演技をしている。自分を守るために、狂気の自分を演じてみたり、自分と自分の内面と向き合いながら、世間との折り合いをどうやってつけようかと考えているという。とても共感ができますね。そういう意味で、真の表現者なんじゃないかと思います」映画の中で共感したポイントは?という質問には、「彼は精神的にパンクに影響されていますよね。反骨というか、他人と違うということに価値を見いだす精神。これは僕のルーツでもあるので、そこを通過した人が奏でるピアノと英才教育だけでピアノに向き合った人のピアノは、出て来る音色が全く違うと思うのです。そのあたりも、彼の魅力を引き立てている一つのポイントだと思います」
最後に、本作鑑賞後にチリー・ゴンザレスの音楽が聴きたくなったら、どの作品から聴くべきでしょうか?という質問には、「この映画で流れる音楽は、「ソロ・ピアノ」シリーズ以外は、あまりCD化されていない音源ばかりです。彼のルーツは、「ソロ・ピアノ」とは全く真逆のエレクトロとラップミュージックなんですよね。そんな彼が、自分自身を振り返り、辿り着いた地点が、「ソロ・ピアノ」だと語っているので、このシリーズの1~3は絶対聴いて欲しいですね。どれだけ素晴らしいクラシック・プレイヤーでも、なかなかこの「ソロ・ピアノ」シリーズみたいな音楽はつくれないんじゃないかな」と語り、トークは幕を閉じ、映画本編の上映が始まった。

【作品の概要】
挑発的な言動、強烈すぎるキャラクター、そして唯一無二の音楽性で知られる天才ピアニスト・作曲家、チリー・ゴンザレス。90年代後半以降、カナダからドイツへとわたった彼は、クラシックとジャズで培ったピアノ技術とラッパースタイルでアンダーグラウンドシーンから頭角を現し、<異端>の天才として時代の寵児となる。<狂気>とも呼ばれる言動とは裏腹に、奏でられるピアノの音色の繊細な美しさ。人々を魅了してやまないそのメロディの向こうには、人間性に満ち溢れた、知られざる彼の生き様そのものが溢れていた――。

監督:フィリップ・ジェディック 出演:チリー・ゴンザレス、ピーチズ、トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)、ファイスト、ジャーヴィス・コッカー、ウィーン放送交響楽団ほか 2018年 / ドイツ・イギリス合作 / 英語・フランス語・ドイツ語 / 85分 / DCP / カラー / 5.1ch / 原題:SHUT UP AND PLAY THE PIANO / 日本語字幕:額賀深雪 / 提供:トランスフォーマー+パルコ / 配給・宣伝:トランスフォーマー / 後援:カナダ大使館