大阪市北区のシネ・リーブル梅田にて、井浦新さん主演の『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』が公開されている。72年の沖縄返還時、対米交渉・対沖縄折衝の最前線に立ち「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と称された伝説の外交官・千葉一夫の生き様を描いた社会派エンターテイメント作品だ。

9/1、公開2週目の舞台挨拶が行われ、脚本家の西岡琢也さんが登壇した。
「井浦新改め、西岡拓也です。今日はようこそ。3階ではなく4階に来てくださいましてありがとうございます。これからまた『カメラを止めるな!』やってますので観てください」と映画を観終わったばかりの観客をリラックスさせた。

 

多くの人に届けたいという思いが劇場公開に

この作品は、NHKのディレクターである宮川徹志さんの『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』(岩波書店刊)を原案に、2017年に放送されたNHKのBSドラマ『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』を100分に再編集したものだ。

自ら手がけたこのドキュメンタリー本をドラマ化したいと考えた宮川さんが、NHKのデレクターである柳川強さんに相談を持ちかけた。柳川さんは西岡さんにとって大阪の某府立高校の後輩にあたる。

「僕がサッカー部で彼が野球部という間柄で、これが5本目の一緒に仕事をする作品です。宮川氏から相談を受けた柳川君が僕のところに先輩やりませんかと言って」
西岡さんは二つ返事で引き受けたという。

「BS プレミアムで、それもNHKのドラマ枠ではなく大型報道企画の枠で、原案の宮川氏とプロデューサー西脇氏が報道の人間で、柳川君ドラマ部のディレクター、外部から僕。報道畑とドラマ畑の人間による変則的な形で始まったんです」

出来上がった作品は8月12日にBSプレミアで放送された。
BSドラマとなると視聴できるのがBS契約者、もしくはオンデマンド購入者となり限られてくるため、制作陣は撮影前から映画館での公開を模索していたという。

千葉さんと長女のみどりちゃんとのやりとりのシーンを加え、その他様々なカットを再編集して現在の100分の公開版となった。
「89分だと本当に窮屈で見づらかったんですけど、これで大分ゆったりとして見られるようになりました」
6月30日から東京のポレポレ東中野でスタートし、ミニシアターを中心に全国40館ほどの規模で公開が続いている。

 

現実を踏まえたラストを模索

脚本づくりにあたって一番苦労したことは、
「僕もそんなに詳しい人間ではなくて調べものも山のようにしたんですけども、ラストシーンができなくて。現在の沖縄の状況は、報道されている範囲ですけどもこちらでも分かっていて。千葉さんが動き回った当時とあまり変わっていないんじゃないかって。だからこそ千葉さんやったね!というラストは書けない。ラストがなかなか決まらなかったんですよ」

決め手となったのは資料の中にあった一枚の白黒写真だったという。基地のフェンスの手前で先祖の供養を行う清明祭(シーミー)をやっている様子が写っていた。
「これも別に解決ではないけども、千葉が動くことでドラマの終わりとしてしめることが出来るかなと」

「沖縄については、よくご存知の方が大勢いらっしゃいますが、そうじゃない方にたくさん観てほしい。何か考えるきっかけになれば。明日から辺野古に来なさいってことじゃなくて、考えて自分なりの行動をとっていただきたいんですね。沖縄って我々人間が想像力でしか立ち向かえないように思いますし、想像力を養うきっかけの作品になったらいいなと思っています。ありがとうございます」

 

キャラクターの日常を掘り起こす

女性の観客からスペンサーをはじめとするアメリカ側の俳優はどんな気持ちで演じていたのか気になったという声が挙がった。
西岡さんは自分には分からない、と言いつつ、脚本を書く際のキャラクターの構築の仕方に話題を広げていく。 「千葉さんという人は非常に心のキャパの広い方だったらしくて、様々な国で大使をやられていて、パーティーでよく英語のジョークを言ったらしいんですが、どういう風に言うのかわからない。
日常の素顔はやっぱりドラマにとって一番大事で、宮川氏の原作では交渉事としては非常に丁寧に書いてあるんですけども、どんなものが好きで何を食べた時が嬉しいのか、日常でどんなこと言ったのか。そこを足したり引いたりして想像力で補っていくわけです。千葉さんに限らず一番しんどいのは、亡くなられた方の過去を掘り起こす時の日常の素顔みたいなものがないと、映画としてなかなか魅力的にならないということですかね」

『返還交渉人』は、複雑怪奇な交渉事において、様々な人物が入り乱れてそれぞれの立場で動いた史実を簡略化して、分かりやすく短時間にまとめた作品と言える。
「TVの89分バージョンよりは緩やかに作っているんですけども、非常にテンポが速く情報量が多い映画です。一度じゃわからないと言う人がいらしたら、2度3度観て頂ければ。3度目ぐらいになると良くわかってくるという風な仕掛けになっている映画なんですね(笑)。これは脚本の問題でもあり演出の問題でもあるんですけども」

 

「想像力」が当事者意識を生む

宣伝の岸野令子さんからは、テレビ版と劇場版、両方観た方からの声が紹介された。

「劇場で見ると音が違います。爆音が」
劇場で住民の生活の場にある暴力的な爆撃機の爆音を体感することが、西岡さんの言う沖縄の人々の生活を想う「想像力」につながる。
「皆様、他の方にもお勧め頂けると。時間がある方はまた観に来て頂けたら」

「井浦新君を見れば、キムタクもニノもいいと(笑)」
西岡さんが今ヒット中の作品に言及し、観客からも笑いが起こる。
沖縄の歩んできた道をあまり知らない世代にこそ、「理想を求めずして、何の外交でありましょうや」と説いた千葉一夫さんの姿をぜひ劇場で観て頂きたい。

関西圏では現在、シネ・リーブル梅田(終了日未定)、元町映画館(~9/14)にて上映中。11/3よりシネ・ピピアにて上映予定となっている。