(写真左より:渋川清彦さん、大西信満さん、奥田庸介監督)

8月12日、大阪市淀川区の第七藝術劇場にて映画『ろくでなし』の公開に合わせて舞台挨拶が行われた。映画『ろくでなし』は関西では神戸の元町映画館、第七藝術劇場、京都みなみ会館の三館同時公開。初日は元町映画館での舞台挨拶に引き続き、第七藝術劇場の舞台に奥田庸介監督、主演の大西信満さん、渋川清彦さんが登壇した。

 

映画『ろくでなし』は、裏社会に生きる男たちが繰り広げる欲望といびつな純愛の物語。
奥田監督は『青春墓場~明日と一緒に歩くのだ~』(’10)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアターコンペティション部門でグランプリを獲得。その後『東京プレイボーイクラブ』(’11)で商業映画デビューを果たすも、次回作が取れない状況が続き、クラウドファンディングで『クズとブスとゲス』(’15)を制作。

映画『ろくでなし』は、山本政志監督が主宰する“実践映画塾シネマ☆インパクト”のワークショップの企画として始まったが、一般公開の作品としての制作課程でプロデューサーである山本政志監督と脚本・監督を務める奥田監督の意見が合わなくなり決別した。

そんな紆余曲折あった作品『ろくでなし』が、関東圏公開を経て関西へと公開の場を広げた。
主演を務めるのは『キャタピラー』(’10/若松孝二監督)、『さよなら渓谷』(2013大森立嗣監督)などで国際的な評価も高い大西信満さん、『下衆の愛』(’16/内田英治監督)の主演をはじめ、多くの監督から愛され出演数を増やし続けている渋川清彦さん。

福島県出身の奥田監督は、関西を訪れるのは初めてとのこと。トークのペースを掴みかねているところ、すかさず渋川さんが
「監督は修学旅行はイギリスですが、大阪は初めて」と観客を乗せてくる。
大西さんからは「監督はいまいち話が得意でなくて。言いたいことはすべて映画の中にあるという昭和な監督なので、どうかご容赦ください」とフォローが入るという、主演コンビのチームプレイでトークも弾んで来た。

奥田監督は、「何度企画がすっ飛ぶかという間際で逆らいながら、ようやくこうやって上映出来て、関西にまで来ることができたので。硬いですか?(笑)感慨深い思いで一杯です」と心境を語った。

 

“相手役を好きになるか?”

話題は元町映画館でも盛り上がったという、“相手役を好きになるか?”というネタに。映画『ろくでなし』では、裏社会に生きながら以前関係があったヒロインの妹である女子高生(上原実矩)とつきあうという役回りとなった渋川さん。
「役で彼女役となると相手のことをちょっとは好きになるんですよ」

今回に関しては相手が女子高生役ということもあって、そういう気持ちにはなれなかったと語りつつ、
「大西くんは大好きになってましたよね」とパス出しする。大西さんはヒロイン・優子役の遠藤祐美さんとほとんど毎晩のように飲んでいたと、渋川さんが飄々と明かす。

「コミュニケーションを取れば画に映ると信じておりますので」と大西さん。新人、ベテランに関わらず俳優陣にそれぞれの緊張があれば、奥田監督は繊細さからナーバスになることもある。チームとしてどうまとまって行けるかを大西さんなりに一ヶ月模索していたと当時を振り返る。

「人間関係がスカスカだと、いくら芝居が達者でも隙間が見えちゃうと思っていて」
もちろん人間関係を作る時間がない中で、プロとして結果を求められる現場もあるが、映画『ろくでなし』では、隙間を埋める作業は出来たと語る。

この話に関連して渋川さんが、井浦新さんが気付いたジンクスを紹介。大西さんと共演した女優は賞を取るというものだ。
「多分そうやって全力でぶつかっているから、相手も良いものが出てくるっていう仕組みでしょ」

映画『ろくでなし』のヒロイン・優子を演じた遠藤さんは元々“シネマ☆インパクト”の受講生からのキャスティングとなった。
「大大抜擢だったので、本人もすごく緊張していたみたいなんですね。大西さんの気遣いのおかげで随分リラックスして。感謝してます」と奥田監督。

大西さんは「遠藤さんにしろ上原さんにしろ、この作品にかける思いは相当なものがあったし、自分やKEEさん(渋川さん)が受け止めていい形の作品になればなと思っていたんで。皆さんの心にどう届くかわかりませんが、少しでもいいと思って頂いたら、彼女たちのことを広めて欲しいなって思います」と観客にアピールした。

大西さんと渋川さんは十年以上前からの友人だが、初めての共演となった。
「そういう古い付き合いの 空気感みたいなものが、バディ感というか連帯感のようなものが自然に写っていたら嬉しいなと思います」

 

大和田獏さん、踊る!

映画『ろくでなし』の見所のひとつが、人情味溢れる役回りが多いイメージから一転して強烈な悪役を演じた大和田獏さんだ。
その存在感に惚れこんで出演をオファーしたという奥田監督。

「読み合わせの段階からほぼあんな感じで。わリと大和田さんの演技プラン活かしてますね。それを生身な感じに近づけて」
劇中で大和田さんがかけている眼鏡は自身が探して来たという。

「こういう役を演じてみたいというのがあったみたいで、“楽しかったよ”って 言ってくださって監督として嬉しかったです。結構ノリノリな感じで、“俺、古い踊りしかできないけどいいかなー”って (笑)。“それがいいんです!”って」
当初はアース・ウインド&ファイヤー『セプテンバー』をバックに踊る予定が、著作権のクリアが難しく変更になったという裏話も。

キャストの中には、毎熊克哉さんが渋川さんの舎弟役で出演している。第七藝術劇場のスタッフから、映画『ケンとカズ』(16/小路紘史監督)公開の折には、親族が50枚の前売り券を購入したというエピソードも披露され、観客から驚きの声が上がっていた。

 

山本政志監督への真情

丁度1年前の8月にクランクインした映画『ろくでなし』。
奥田監督は「私は色々もめたので、楽しかったこと苦しかったことをたくさんあったのが渦巻いてたんですけど、一年経って客観的に見れるようになりました」

山本政志監督との間に前述したようなトラブルがあったため、大西さんがイベント【山本政志(監督)VS奥田庸介監督☆公開大討論!『おい、ろくでなし!今夜、決着つけようじゃないか』】を企画し、公開前になんとか間を取り持とうとした。

「公開討論会を渋谷でやったんだけど、結局むかつくからやめるって2人違う方向に出ていきました。 1年目が寝かしてみて、どう?」
渋川さんが当時を振り返りつつ現在の奥田監督の心境を尋ねる。

「まあ、笑顔で握手は出来ないですね」
奥田監督の率直な回答に観客から笑いが起こる。
「未だに“この野郎”と思うところはありますけども、彼は彼なりの美学を持って映画にしようと、俺は俺のいい映画を作ろうとしたわけで、お互い足を引っ張ろうと思って動いてたわけじゃない。そこは“許す”ではないけど、少しずつ理解していかないといけないなと思いますけど」

大西さんが「政志さんがいないとこの企画自体がなかったわけだし、色々あった結果、こうやって大阪で我々が舞台上からまた話ができているって事だけでいいじゃないかなと」ととりなす。

「でもねぇ」と奥田監督。「やっぱり許せないと(笑)」複雑な真情を吐露した。

 

最後に大西さんから、映画のタイトルである“ろくでなし”という言葉で検索しても、なかなか映画情報がヒットせず認知度が低いという話が出た。
奥田監督も映画『ろくでなし』をSNSを通じて出来るだけ多くの人に広げて欲しいと、観客に呼びかけた。

「奥田監督はとても不器用な男ですけど、映画って成功しなければ次の機会が得られない。色々あったけどひとつの作品を一緒に作り上げたことで仲間だと思ってるんで、また奥田組の次の作品につながるよう、この作品が少しでもいい成績で終わるようにご協力よろしくお願いします」と大西さん。

最後にマイクを向けられた渋川さんは「もういいでしょ(笑)。大西は結構いいこと言うんで、俺はなかなか言えないんで。今日はどうもありがとうございました」と観客の笑いを誘って舞台挨拶をしめくくった。

 

“映画としてのリアル”へのこだわり

舞台挨拶後に奥田監督に山本政志監督と決別に至った原因を聞いてみた。
「表現をどんどんキワどいというか、極端なものにしようとする。俺は”映画としてのリアル”でいいと思うんです。
これでは松竹映画だって言われたけど、松竹映画の何が悪いんだって思いました」

映画『ろくでなし』を観ると、過激な暴力描写が魅力である奥田監督のもう一つの武器、台詞の面白さが活きている。
急死した父の通夜に実家に戻ったヒロイン優子と、認知症の祖母の世話をする高校生の妹・幸子が対峙する。冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーを無造作にグラスに注ぎ飲み干す幸子に優子が言う。
「あんたコーヒー飲めたっけ」
その一言で姉妹の断絶の時間と、渋川さん演じるひろしを巡る女同士の複雑な感情が透けて見え、緊張感溢れるシーンを紡ぎ出していた。

二組の恋人たちの姿も在り来たりのキスやセックスを介さない仕草や台詞で綴られている。特に大西さん演じる一真と優子のクライマックスとも言えるやり取りでは、優子がポツリと口にする言葉の衝撃は映画の中で一番美しいと感じる顔を伴っており、まさに”映画としてのリアル”を感じた瞬間だった。

奥田監督としては一年経ってもなお葛藤が残るようだが、俳優たちは期待に応え、映画『ろくでなし』の中に各人の代表作と言える姿を刻みつけている。

映画『ろくでなし』の上映は、関西では神戸・元町映画館、大阪・第七藝術劇場、京都・みなみ会館で8月25日まで。その後シアターセブンでも9月9日(土)から上映が決定している。

 

(レポート:デューイ松田)