本日 5 日(土)新宿 K’s cinema にて香港映画『十年』の第 4 話「焼身自殺者」キウィ・チョウ監督のスカイプイベントが行われた。

Q&Aが行われたのは、14 時 30 分の上映回終了後。今日は本当に暑い、という香港から、配給会社のデスクにいるキウィ監督の画像がスクリーンに映し出された。「こんにちは、第 4 話の監督をしたキウィ・チョウです。」と、一言挨拶をした後、映画を見終わったばかりの観客との質疑応答が始まった。
5 本のショートフィルムがそれぞれ香港の現在抱える不安、問題を描いているが、第 4 話だけドキュメンタリータッチなのはなぜか、と問われると、「ドキュメンタリータッチではあるが、本当のドキュメンタリーではありません。すべてお芝居です。芝居とドキュメンタリー風の部分とを合わせることによって、共産党が嘘をついているという部分を強調したかったのです。もうひとつ、香港の映画は政治についてあまり扱われないので、ドキュメンタリータッチにすることで少しリアリティを持たせたかった訳です」
最近のニュースで中国政府が中英共同声明を破棄するという報道を見たのですが、この映画を作っていた時から、そういう事を危惧されて作っていたのか、香港の人々はどう受け止めているのか、という質問には「この作品を撮る前から、香港政府は中英共同声明を裏切るような事を続けてきていました。特にこの 5 年は状況はひどくなっています。だからそのように感じるのではないでしょうか。香港人としては、中英共同声明の破棄、1997 年以降続いてきているこの声明を裏切るような事に対して暴力的だと感じています。雨傘運動という大きな運動を起こしたけれど失敗に終わりました。わかっている人はなんとかしよう抵抗しようとしていますが、一体どういう風にしてこの暴力に対抗すればいいのかわからない状況です。5 話「地元産の卵」にも「慣れちゃいけない」というセリフがりますが、4 話「焼身自殺者」にも「正しいか正しくないか」というセリフがあります。これが現在の香港人の状況だと思います。間違っていると思っても、どういう風に対抗していけばいいのかわからない、失望感を持っているのが香港人の状況だと思います。」
また、映画の中でジャーナリスト、作家が語っていますが、これは実際モデルがいるんですか?という質問には「全部俳優で、セリフは全部私のオリジナルです。みんな香港が大好きで、セリフに感情をこめているので、お芝居とはいえリアルに近い。女性教授が語るシーンがありますが、彼女の感情がこみあげてしまいました。手を振ってカットカットと言っているのは本当に「撮り直して」という意味だったのですが、監督としてはあの芝居の方がリアルに感じたので、そのまま使いました。」
今後も香港を中心にした作品を作っていくのですか?という今後の予定に関しては「『十年』を撮る前に撮った作品は、政治とは関係のない作品です。今アイデアがいくつもあって、政治と関係があったりなかったり、様々です。ただ、上からの圧力に負けて撮りたいものを撮らない、ということはないようにしたいと思っています。」
静かで知的な語り口で終始日本からの質問に答えてくれたキウィ・チョウ監督だが、自分の信念を曲げない強さを感じるトークだった。観客もまた、日々香港を含む中華圏を勉強している感じで、とてもおもしろいスカイプイベントとなった。