日本のスプラッター映画の草分け的な存在であり、日常にひそむ狂気と倒錯のエロチシズムをハードな映像で描き続け、”ピンク四天王”と称される佐藤寿保監督が、「キャタピラー」で四肢を失くした帰還兵を演じ、「さよなら渓谷」で真木よう子の相手役を務めた大西信満を主演に迎えた最新作「華魂 幻影」。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の“フォービデンゾーン”部門でも絶賛され、現在新宿ケイズシネマで公開中です。

“華魂”とは、俗世の欲望の象徴であり、この花が咲くところでは、人間は欲望の箍が外れて理性が崩壊する。本作は、映画愛に満ちた支配人やスタッフ、そして、個性的な客たちによって支えられてきた映画館の閉鎖が決まり、映画館に欲望の象徴“華魂”が暴走する話です。

5月18日(水) 22:28〜
登壇者:大西信満・川瀬陽太・佐藤寿保監督
会場:新宿ケイズシネマ(新宿区新宿3-35-13 3F)

本作主演の大西信満さんと、本作の劇中映画『激愛』主演の川瀬陽太さんは別日に撮影したため、川瀬が、「俺は劇中に出てくる『風と共に去りぬ』みたいな『激愛』のポスターのこと知らなかったから、それを大西君がLINEでわざわざ送ってきて、『僕こんなことになってるの?』って思って」と言い、「それを理解せず芝居をやったと?」と監督が突っ込むと、「だって理解も・・・すみません。ぐるぐるぐるぐる、ヘリコプターみたいに回りましたけれども。いつもより多めに回っております、みたいな」というジョークで始まった本トークイベント。

<劇中劇の川瀬さんがぐるぐる回るシーンについて>

大西「ネット上では、この映画は“川瀬陽太がぐるぐる回っている映画”になっていますよ」
川瀬「衣裳合わせの時に、衣裳の前に、まずぐるぐる回る装置のチェックされたんだから!(笑)『川ちゃん、これ乗ってみて』みたいな」
佐藤「大西さんは『キャタピラー』で、俺は『乱歩地獄』内の『芋虫』(2005)で一切CGを使わずに大森南朋がやったんだけど、その時も現場がスムーズに進むようにアングルとかの準備を考えとるんですよ」
川瀬「本当にCGじゃないのがいいなって思うんですよね。CG全般がまずいという訳ではないんですけど、ああいうおかしな映画はおかしなまま出ていった方がインパクトあるかなと」
佐藤「回り方も『風の共に去りぬ』のパロディみたいな回り方をしてもらったんだけど」
川瀬「最初はどこまでいったらいいのか尋ねたんだけど、寿保さんを前にして、これはどこまでも行かなきゃいけないなと思ってやってたとこがあって、その後(撮影順の)バトンを大西君とイオリちゃんに渡さなくてはいけないから、すみませんという感じでしたけど」
大西「すみませんっていうか、僕の役は結構まじめな役じゃないですか。まじめな顔して(川瀬さん主演の『激愛』が流れている)スクリーンを観ているわけですよ。川瀬さんがあんな感じで。いかにどう顔を作るかはある意味一番苦労しました。(脚)本は読んでいるんですけれど、本以上に激愛していたんで。初号試写で(完成した作品を)観てみたら、自分がいくらまじめに一生懸命芝居していても、結局最後は川瀬さんのヘリコプターで持ってかれちゃうんですよね」
(会場笑い)
大西「仕掛けでくるくるくるは、生身の人間ができることを超えてしまうんです。自分が関わっていて申し訳ないんですけれど、これはすごい映画だなって本当にそう思います」
川瀬「(寿保監督は)瀬々(敬久)監督の先輩なので、20年前から“抒情がある狂気”という人だという印象で『この人すごいな』と思っていたんですけれど、今回も大友(良英)さんが音楽やっていたり、非常にオルタナティブなことをされる作家で、とにかく“血と暴力”の人。それも寿保さん曰くは“愛”の映画でもあるんだろうけれど、そういうところで、初めてこんな形でご一緒できたので、『あっ今寿保さんの映画に出てるな』というのは感慨としてありましたね」

<本作の公開を待たずに引退した、ヒロイン役のイオリさんについて>

大西「イオリさんは、現場でも掴みどころがなくて、何を考えているのかわからず、役のまんまで・・・」
川瀬「お辞めになられてしまったという」
佐藤「川瀬、現場でなんかやったんじゃないの?」
川瀬「僕は現場で女優に評判がいいんだから」
佐藤「(イオリさんは)初めての映画だから、劇中劇を撮る時に、イオリも千葉に連れて行って、『こういう風に芝居するんだよ』って。ちょうど海があって、『ここでやるか』みたいなね。『ちょっとイオリちゃん、裸やるよ』みたいなね。素の面白さというか、無防備な中の大胆さみたいな、本当に赤子のような感じで、普通の役者にはできない演技だなというのを、俺も映像を観て改めて感じました」
川瀬「そういう、ファム・ファタールみたいな奴だから、そういう意味で言うと、芝居がどうのとかっていうよりも、ああいう雰囲気でいてくれ、ましてや大西君の役というのは見ることしかできない位翻弄されちゃう役じゃないですか。だからああいうふわっとした子が介在したのはよかったでしょうね。本当に辞めちゃったんだから、びっくりしちゃったよな」
大西「本当に“幻影”になりましたね」
佐藤「観る度にスクリーンから出てきますけどね」
川瀬「貞子じゃないんだから」
大西「監督はイオリちゃんに関しては、そんなに追い詰めたりとかいう感じではなかったですよね?」
佐藤「素朴なんですよ。染まっていないというか。田舎からでてきて、最後まで方言が抜けなかったんだけど。完成披露の時はここで元気よく出て、打ち上げも出て、俺の次回作の『眼球の夢』っていうのにもちょこっと出てもらったりしてるんですけど。だから、この映画で逃げたわけじゃないよ!(笑)『また佐藤がやらかした』とかそういうことではないんだが。(笑)」

劇中で三上寛さんがやった万歳三唱で本イベントは幕を閉じた。

<今後のイベントの予定>
5/20(金)21:00〜の回上映後@K’s Cinema
外薗昌也さん(漫画家)×佐藤寿保監督 トークイベント

5/21(土)19:35〜@ニュー八王子シネマ(18:00〜の回、19:55〜の回どちらのお客様もご覧いただけます。)
愛奏さん、生稲恵さん、川上史津子さん、丸山昇平さん×佐藤寿保監督 舞台挨拶