2016 年 5 月 13 日(金) 15:10(現地時間)、カンヌクラシック上映会場 Salle Bunuel にて、日本初の長編アニメーション「桃太郎 海の神兵」(瀬尾光世監督、1945 年公開、英題:MOMOTARO, SACRED SAILORS)がワールドプレミア上映されました。上映前に、 高橋敏弘(松竹株式会社 映像副本部長 取締役)と中村謙介(株式会社 IMAGICAアーカイブグループ レストレーションスーパーバイザー)が登壇し、200 人以上、ほぼ満席に近いお客様を前に、舞台挨拶しました。お客様の反応は非常に良く、大きな熱気に包まれ、盛況のうちに上映は終了しました。

〇舞台挨拶内容

(高橋)
本日は、瀬尾光世(せおみつよ)監督の「桃太郎海の神兵」デジタル修復版のワールドプレミア上映にお越しくださり、ありがとうございます。
2012 年より、木下惠介監督の「楢山節考」、小津安二郎監督の「秋刀魚の味」、大島渚監督の「青春残酷物語」、溝口健二監督の「残菊物語」、そして本年、「桃太郎 海の神兵」まで、5 年連続でカンヌクラシックスに松竹作品を選んで頂き、大変光栄です。
特に日本映画にも造詣の深いディレクターThierry FREMAUX(ティエリー・フレモー)さん、クラシック担当の Gerald Duchaussoy(ジェラルド・ドゥシュソワ)さんに感謝いたします。
松竹は、昨年、松竹 120 周年と終戦 70 周年を機に、第二次世界大戦末期、海軍省の依頼で製作し、1945 年 4 月に公開された日本初の長編アニメーションであるこの映画のデジタル修復に着手し、本日を迎えました。
戦時下の国策映画ですが、手塚治虫さんをはじめ、その後の日本のアニメーションに大きな影響を与えた歴史的に非常に重要な作品です。
尚、映像監修には「母と暮らせば」「家族はつらいよ」など山田洋次監督作品のキャメラマンで、小津作品や大島作品のデジタル修復に携わった近森眞史さん、映像監修協力に、「紅の豚」や「もののけ姫」などスタジオジブリ作品の撮影監督で知られる奥井敦(あつし)さん、音響修復は世界的に実績がある米国の Audio Mechanics にお願いし、アニメーション映画特有の撮影環境を考慮、想像し、今回の修復にあたりました。
詳しくは、映像修復を手掛けた日本を代表する現像所でもあるイマジカの中村さんから、修復の概要をお話いただきます。ありがとうございました。

(中村)
IMAGICA Restoration Supervisor 中村です。まず、「桃太郎 海の神兵」という日本のアニメーションの歴史に残る作品に携われたことを感謝いたします。
我々IMAGICA は、1935 年から続く日本でもっとも歴史のある商業現像所としてレストレーション事業にも力をいれており、先ほど高橋さまがおっしゃられた4作品をはじめ、現存する日本最古のアニメーション「なまくら刀」や日本最古の動画「紅葉狩」など数多くの日本映画の修復を手がけてきました。今回は画の部分のみを担当しましたが、日本初の長編アニメーションであるこの作品は我々にとって、得意な分野でありつつも非常に挑戦的なものでした。
本作は、松竹さまが保有されていたマスターポジ(※)から4Kスキャンを行い、2Kで修復をいたしました。マスターポジの状態は良かったものの、複製元に起因する画の状態は非常に悪いものでした。キズ、汚れ、フリッカー、裂け、明らかにコマが欠損している箇所も多くありました。
また、現代の日本アニメで主流の画の一部分のみを動かす手法ではなく、それぞれ独立してキャラクターを描く手法が用いられていました。その点では実写のような動きの難しさと、アニメーション特有のセルに付着したゴミやゆがみといった症状が混在し、より修復を困難なものにしていました。
そのため、我々は自動処理ではオリジナルの画を損なってしまう可能性が高いと判断し、手作業に多くの時間を費やしました。フィルムがひどく裂けている箇所では、1 秒分を作業するのに3時間を要する箇所もありました。
しかし、ただ現代的で見やすいものにするのではなく、当時の制作環境、意図を考慮し、あえてそのまま残したところもあります。70 年前、当時の人々が劇場で見たはずのイメージを再現しました。1945 年の日本に思いをはせながらご覧頂ければ幸いです。ありがとうございました。

※「マスターポジ」は和製英語のため、英語では Inter Positive と訳しています。なお、日本語で「インターポジ」としますとまた別のものを指すことが一般的です。

【特別コメント】
〇カンヌ国際映画祭カンヌクラシックス担当 ジェラルド・ドゥシュソワさん
我々、カンヌクラシックは、松竹が修復作品のワールド・プレミア上映のために払っている努力に対し、深く感謝します。毎年、感銘を受けるのは、質の高さに加え、松竹と修復チームの真摯なプロフェッショナルイズムと情熱です。
2016年の作品選択は、大胆にも、1945年のアニメーション映画でした。興味深く、多様性があり、しかもプログラムの幅を広げてくれる作品ですし、歴史的、文化的あるいは芸術的特質は言うまでもありません。

〇お客様のコメント
・ 「とにかく面白そうだったから夫と来てしまった! “桃太郎”という言葉にまず関心を持ったわ」(60 代女性/フランス)
・ 「日本最古のアニメ作品が修復される、この貴重な映画を絶対に見逃してはいけないと思い、商談中だったが足を運んだ。ドキュメンタリー専門の配給会社で働いていてアニメの配給はしないが、滅多にないチャンスなので観に来た」(30 代男性/フランス)
・ 「とにかく素晴らしい。アニメ史において最も重要な作品を、現代の素晴らしい修復技術で見事に蘇らせたと思う。僕はアメリカの映画学校の学生だが、ストーリーも十分楽しめた。アニメーションでありながら、時代的背景も感じ取ることができて大変興味深かった。作品の質の高さにはもちろん、その向こう側にあるストーリーにも感動した。世界の手塚治虫、そして宮崎駿の作品にも通ずるものがあり、彼らが『桃太郎 海の神兵』にインスパイアされたのだということがありありと分かった。いつか日本で働きたいという思いが、さらに強まった」(20 代男性/アメリカ)
・ 「これは反戦映画だと思った。戦闘シーンにも凄みがあったが、当時のアニメーターたちが本当に描きたかったのは、故郷のシーンではなかったか。その意味で、『桃太郎 海の神兵』はむしろ先鋭的な映画であると感じた。
いつか世界の戦争を終わらせたい。この映画を観てそう思った」(40 代女性/イἀリス)
・ 「日本アニメのすばらしさを感じました」(20 代女性/フランス)