初日の4月29日には映画の公開を記念して、新宿シネマカリテにて、上映後に、レネ・レゼピ氏とも親交の深い、「レフェルヴェソンス」生江史伸シェフと、「フロリレージュ」川手寛康シェフ、「世界ベストレストラン50」の評議委員でもあるコラムニストの中村孝則さんによるトークショーを実施。レネを知るシェフならではの視点で本作について語っていただきました。

■日程 4月29日(金)16:50〜17:20 ■場所 新宿シネマカリテ  
■ゲスト 生江史伸(レフェルヴェソンス・シェフ)/川手寛康(フロリレージュ・シェフ)/
     中村孝則(コラムニスト・「世界ベストレストラン50」日本評議委員長)      

本作は、ミシュラン並ぶ世界的なランキング「世界ベストレストラン50」で4度に渡り、世界の頂点に立ったデンマークの「ノーマ」の、レストランの舞台裏と、美食界に新風を巻き起こした天才シェフ、レネ・レゼピの知られざる人生の裏側に迫った密着ドキュメンタリーです。

29日に公開初日を迎えた本作、満員の客席から拍手で迎えられ、天才シェフ、レネ・レゼピをよく知る、生江シェフ、川手シェフ、中村さんの3人が登場し、上映後の興奮に包まれた中トークイベントがスタートしました。

中村さん:映画にも出てくる2014年「世界ベストレストラン50」の表彰が行われたロンドンの会場で、1位に返り咲いたレネのスピーチを実際に会場で見ていたんですが、10分くらいの長いスピーチで、どうして彼が、こんなに熱い話をしているんだろうとその時思っていました。この映画を見て、これまでにこんなプレッシャーがあったのかと、改めて感じました。

生江さん:スクリーンに映ったレネは、全く普段の彼そのままです。好奇心旺盛、なおかつ、料理以外のことも色々考えていて、常に頭の中、火花が散っているなと感じました。会って握手した瞬間にエネルギーの大きさに、圧倒された最初の出会いを思い出します。

昨年、大きな話題となった「ノーマ」の東京期間限定出店時、「ノーマ」チームの日本のアテンドを担当し、レネと共に各地を共に回った生江シェフ。その際レネから事前に3つの明確なリクエストがあったそう。
そのリクエストは、①日本の森を歩きたい ②お寺で食事をしたい ③現代の日本の洗練された日本食を知りたい という3つだったという。

生江さん:「お寺で食事をしたい」というのは、精進料理に日本料理の源流があり、その原点を知りたい、ということを知って彼はリクエストしていて、この人は普通じゃないなといました。

また、レネを中心に、70人を超える国際色豊かな料理人が働く「ノーマ」のスタッフたちの絶妙なチームワークについて、

川手さん:一人じゃいい料理は作れない。チームワークは、それぞれがちゃんと考えながら自由にやらせる中で、良い料理が湧き上がってくる。「ノーマ」はそういうレストランだと思う。

さらに「ノーマ」の代名詞とも言える個性的な食材について話はおよび、

中村さん:「ノーマ」ではアリの料理が有名ですが、僕の周りでもプロのシェフの方でも賛否が分かれるんです。そもそも、なぜアリなんでしょう?

生江さん:限られた階級の人だけが美食を楽しめていたという歴史があるとすると、それに対して反旗を翻しているメッセージを感じます。先進国からするとアリを食べるとはなんたることやと思われますが、東南アジアとか、アマゾンでは昆虫食は普通に行われている、むしろ、鶏をしめてさばくより、昆虫を食べた方が栄養素も豊富だし、簡単じゃん、という民族の人たちもいる。

川手さん:僕も小さい時はイナゴも食べましたし、タイに行った時はちっちゃい芋虫も食べました。いろんな昆虫を食べてきました。レネさんは、むしろ、いろんな文化を知った方がいいんじゃないかという、メッセージをアリから発信しているんじゃないかと思う。
メッセージをどう発信するか、それがたまたまアリだった。

中村さん:レネにインタビューした時に聞いたんですが、アリとエビの組み合わせには意味があって、アリを気持ち悪いっていう人もいれば、エビだって気持ちわるい、という人もいるはずだ。それは民族性とか社会的文化によって違う。その多様性をお皿の中で表現したいと言っていました。美味しいってなんだろう?っていう多様性を、地球規模でシェアして行きたいって話をしていましたね。

「ノーマ」の代名詞とも言えるアリの料理から、映画だけでは描ききれないレネが料理に込める“世界へのメッセージ”へと及んだ話は、今、世界が注目する次の「世界ベストレストラン50」の開催地について。

中村さん:次の「世界ベストレストラン50」が、6月13日ニューヨークでの発表なんですが。2017年の開催地もそこで発表になるんです。候補地は、シドニーか東京のどちらか。当日発表になるんです。僕自身どちらかになるかは、まだ本当に予想できない。

川手さん:世界のシェフたちと交流も持てるので、東京になったらとても嬉しいですね。

尽きないお話は、シェフのプレッシャーについて、フードロス、未来の食についてまで話はおよび、
ここでしか聞けない興味深い話の数々に、映画を観たばかりのお客さまも身を乗り出して耳を傾けていました。