2/25(木)から2/29(日)の日程で北海道夕張市にて開催中のゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016。2/28(土)に行われた閉会式でファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門の受賞作品が発表された。

グランプリに輝いたのは、25歳の小林勇貴監督。受賞作『孤高の遠吠』は、小林監督の友人が不良少年に拉致されリンチを受けた事件を元に制作された、4人のバイクに乗りたい少年たちが理不尽な暴力の連鎖で反抗を貫く者と脱落していく者に引き裂かれていくバイオレンスアクション。
制作には小林監督の故郷・静岡県富士宮市の不良少年たちが全面協力し、本物の無軌道な迫力と計算されたユーモアが絶妙なエンターテイメント性溢れる作品となっている。

閉会式後の囲み取材に審査委員長の柏原寛司監督と小林勇貴監督が登場した。

柏原監督は『孤高の遠吠』について、「既成の映画にない素の魅力」と評価。機材やカメラの性能が良くなった現在、誰もがきれいに作品を作ってしまう傾向にある中で、
「荒削りのところがすごく作品の内容にあっている」
鈴木清順監督『けんかえれじい』や、那須博之監督『ビー・バップ・ハイスクール』といったタイトルを挙げつつ、不良を描くのは映画の中でも普遍的な分野と語る。
「これだけストレートに、プロが大人の事情で出来ないことをやってしまう向こう見ずさ、それが忘れていた青春を思い出してもう一回やろうかなという気にさせる」
と、柏原監督自身が刺激を受けたことを明かした。

小林監督についてはエンターテイメントの映画になっている点を評価したとし、
「非常に将来を期待している」
周りに助けられたこれまでの制作体制から、今後どんな作品を撮って行くかが課題で、いずれプロの役者やプロのスタッフを使ってどれだけのものが出来るようになるかだと期待を寄せた。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭については2度目の参加という柏原監督。映画祭については、
「若手でもエンタテイメントの面白い作品を撮る監督を選んでいる価値ある映画祭」と評価。
「機会があればまたゆうばりに来たい。今年の作品はアウトロー的なものが多く、9本ともとても面白かった」と語った。

『孤高の遠吠』を含めて計6本の作品を撮ってきた小林監督。『孤高の遠吠』では被害者となった友人、加害者双方に取材し脚本に生かした。3作目から不良少年に出演してもらい撮るようになった訳について、役者が不良を演じる場合にイメージで演じがちだと語る。
「それってほとんど差別だと思う。本当の人にやってもらったほうが、真に迫って恐ろしいものが撮れると思って出てもらうようにしました」

 
小林監督は広告のグラフィックデザイン業でアシスタントを務めており、平日は働いて土日に映画を撮るというスタイルを続けている。好きな監督は深作欣二監督で、好きな映画は『バトルロワイヤル』。自身は不良の道にそれたことはなかったが、弟が暴走族の副総長だったという。閉会式の壇上で凄んで見せたのは演技かと聞かれ、
「みんなメンチ切ってたんで(笑)」と記者たちの笑いを誘った。

グランプリの賞金である二百万円については、
「(現在撮っている作品に)ちょっと使ってとかそういう感じですね(笑)」
分けて各作品に投入しようという計画的な面も見せた。

不良モノ以外で撮ってみたい作品については、
「屈しない人。普通の目で見たら邪であっても、やり遂げようとしたい人に物凄く興味がある。反抗者に焦点を当てたい。別に不良じゃなくても、そういう人物と映画は相性がいいと思う」
とこだわりを語った。

グランプリという結果について、
「取れないと思っていました。あげずれぇかなと(笑)」
賞金が出る映画祭に幾つか行ったことがあるという小林監督。作品の良し悪しよりあげやすい映画に賞金が行ってしまう印象があったという。
「(ゆうばりファンタは)反逆してていいね!喧嘩してるね!(笑)」と笑顔を見せた。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の印象については、元々結婚式などセレモニーが苦手という小林監督。ウエルカムパーティは形式張っていて合わないと思ったが、
「映画祭なんで映画が始まると映画好きや映画に興味がある人が集まる瞬間なので、その時の熱気は本当にいいなと思いましたね」

他の監督の作品については、
「やばい!怖いとなる瞬間が物凄く好きで、そういう映画が幾つかありました」
と、フォアキャスト部門で上映された中村祐太郎監督の『雲の屑』を挙げた。
「怖すぎて見てる人が20人退場したんですけど、客が入り過ぎて“帰る、すぐ補充”。プヨプヨとかテトリスみたいな(笑)。感動しましたね!中村祐太郎には喧嘩しようぜって言いました」
とライバル意識を見せた。

次回作も本物の不良少年が出ているとしながらも、
「方法論は違います。『孤高の遠吠』は取材して脚本を書いてたんで、今度は引き出しから出すんじゃなくて、俺が思いついたことを不良に投げてその反応を映画に生かす。方法論は変えます」と、次なる挑戦を語った。

『孤高の遠吠』は3/26(土)より渋谷アップリンクにて公開予定となっている。

(Report:デューイ松田)