1/9(土)、映画『Dressing Up』の関西一斉公開がスタートした。

『Dressing Up』は、映像制作者の人材発掘を行ってきたシネアストオーガニゼーション大阪(CO2)の助成を受け、安川有果さんが企画・脚本・監督を務めた作品。
2012年に大阪アジアン祭でお披露目となったが、当初のバージョンに納得がいかなかった安川監督が再編集し、完成バージョンが第14回「TAMA NEW WAVE」にてグランプリとベスト女優賞を受賞。2015年8月にシアターイメージフォーラムにて劇場公開、3週間の上映後10月にも2週間に渡ってのアンコール上映が行われ好評を博した。同じく東京の下高井戸シネマ、広島の横川シネマでの公開や広島国際映画祭などを経て、撮影が行われた関西にて4年後の公開が実現した。

多くの観客の心を捉えた『Dressing Up』は、亡くなった母親の日記をきっかけに、母親の中にあった破壊衝動に魅了されていく中学生の育美の姿を描いたダーク・ファンタジー。
ヒロイン・育美を柴田剛監督の『堀川中立売』、神聖かまってちゃんのPV『夕方のピアノ』への出演で知られる祷キララさんが圧倒的な存在感を見せた。
娘の接し方に迷い続ける父親役は、俳優でもあり監督として『ゲゲゲの女房』『楽隊のうさぎ』などを手がけ新作の『ジョギング渡り鳥』が3月公開予定の鈴木卓爾さんが演じた。

公開にあたっては安川監督が自ら宣伝も務め、二人の協力者と共に動いた。
関西の劇場は、京都/立誠シネマプロジェクト、大阪/第七藝術劇場、神戸/元町映画館の三館。
公開初日は立誠シネマプロジェクトにて鈴木卓爾さんと映画評論家の北小路隆志さんのトーク、第七藝術劇場と元町映画館にて安川有果監督と祷キララさんの舞台挨拶が行われた。

第七藝術劇場の舞台挨拶に登壇した安川監督は、
「4年かけて関西で公開出来ることになっており嬉しく思っております。ありがとうございます」
夏休みの一週間で撮影に臨んだキララさんは、
「『Dressing Up』の撮影時、小学校6年生だったんですけど高校生になりました。物凄く嬉しいです。ありがとうございました」と喜びを語った。

■あえて“見せる演出”にした訳は
『Dressing Up』を観た感想を聞かれたキララさんは、
森の中の小屋で怪物化したお母さんと会うシーンを挙げ
「撮影の時はお母さん役の方が優しくしてくださるので怖くはなかったけど、何回観ても怪物が出てくるシーンは迫力があって怖いなと思っています」

司会の松村支配人から、あえて”見せる演出”をしたことについて質問を受けた安川監督。
元々は見せない派だと思うと前置きしながら、
「人間ではなくなるというメッセージを残してお母さんがいなくなってるんですけど、彼女が上手く想像出来なくて、彼女の想像の中で怪物化していることを視覚的に見せた方が楽しんで観てもらえるんじゃないかということでこの様にしました。
キララちゃんは怖くなかったって言ってたけど、記憶してる限りでは現場では怖がっていて、それが演技にも反映されていて、お母さんに会いたい気持ちと怪物が怖いという気持ちが素直に出るいいシーンになったと思います」
と語った。

■あまりガツガツしないでこのまま素敵に
今後の活動についてキララさんは
「この映画を観て下さったり、評判を聞いた映画関係者の方からお話を頂いたり、この映画をきっかけとして色々な現場に行くことが出来たり広がって行ったので凄く感謝しています。
女優として今後どうしていくかはまだはっきりと決めてなくて…」と語った。
バレーボール部に所属し高校生活も楽しむ傍ら、昨年は濱口竜介監督の『ハッピーアワー』にも出演した。

1年前、14歳のキララさん主演で短編『pray』を撮り、この正月明けにもキララさんで企業のWeb CMを撮ったという安川監督。毎年1本のペースでキララさんを撮りたいと思っていると明かし、
「今は縁がある作品に出るというスタンスを取られてるんですけど、こういう感じが素敵なので、あまりガツガツしないでこのまま素敵にいてくれたらなと思っています(笑)」と語った。

安川監督の次回作については、短編映画のクランクインを予定している他、長編映画の企画も幾つか進行中とのこと。
「女性の主人公で厭世的な…世の中がキライみたいな(笑)恋愛が主軸になっている作品で新しいところを目指したいです」と意欲を見せた。

最後に安川監督は「なかなか宣伝も難しいところがありまして、気に入って頂け方がいらっしゃいましたら周りの方に話して頂けてたら嬉しいです」と観客にアピール。
キララさんは「今日は寒い中お越し頂きありがとうございました」と心遣いを見せた。

■舞台挨拶が終わって
舞台挨拶の終了後は劇場前のフロアにて、たくさんの観客たちと会話を楽しんだ安川監督とキララさん。

キララさんに『Dressing Up』で特に印象的なラストシーンの表情について尋ねてみた。
「あのシーンは一番最後の撮影で撮ったんです。安川監督が声を掛けてくださったら、撮影の色々なことが一斉に浮かんできて、あんな表情になりました」
と、はにかんだような笑顔で答えてくれた。
自分なりの闘いを続けた育美がたどり着いた答えと、主演として現場で闘ったキララさんの感情がシンクロしたラストシーンは必見だ。

安川監督には編集し直したことで作品がどう変化したか尋ねてみると、音楽の挿入箇所を絞ったり説明的なシーンを省くことで作品が4分短くなったという。
「編集を変えたことで、よりキララちゃんが主役だということがはっきりしたと思います」

『Dressing Up』撮影当時と現在のキララさんの印象は変わっただろうか?
「撮影当時は鋭い表情が印象的でしたが、今は柔らかさのようなものが出てきて、カメラの前で自然に微笑んだりできるようになっていたことに変化を感じましたね」
舞台挨拶で話題に上った企業のWeb CMは1月末には公開される予定とのこと。成長したキララさんの魅力を安川監督がどう切り取ったか期待したい。

最後に宣伝も自分で手がけた感想を聞いてみた。
「宣伝は二人の方にご協力いただいたんですが、やっぱり人に任せたいなと思いました(笑)。どう売るかという部分は、客観的な目があったほうがよいと思います。でもデザインを考えたり、どこの劇場がいいか考えたりするのは楽しかったですし、勉強になりました」
“キララちゃんを追って行きさえすれば大丈夫”と安川監督が言うように主題が明確になった作品同様、真面目でどこか自信なさげに見えた安川監督自身も4年前に比べて少しタフになった印象だった。

『Dressing Up』は第七藝術劇場と元町映画館が1/22(金)まで、立誠シネマプロジェクトは1/29(金)まで上映。
山口県・山口情報芸術センター[YCAM]の『金曜夜のYCAMシネクラブ vol.9』では、“日本各地で生まれるインディペンデント映画特集”として『新しき民』(山崎樹一郎監督)、『堀川中立売』(柴田剛監督)と共にピックアップされた。『Dressing Up』の次回予定は1/31(日)。1/15(金)、1/31(日)は『堀川中立売』の上映があり、キララさん映画初出演作と合わせて鑑賞できるチャンス。1/31(日)は三人の監督のトークイベント』も開催される。
広島県では福山駅前シネマモードにて1/30(土)〜2/5(金)、シネマ尾道にて2/6(土)〜2/12(金)まで上映予定となっている。

(Report:デューイ松田)