この度、第40回ブリュッセル国際映画祭のコンペティション部門に出品されておりました、朝原雄三監督『愛を積むひと』(英題:The Pearls of The Stone Man)で、出演の樋口可南子(ひぐちかなこ・56歳)が最優秀女優賞の<Prix de la meilleure ACTRICE>を受賞いたしました。現地時間11月21日午後7:00(日本時間11月22日午前3:00)から行われました、第40回ブリュッセル国際映画祭の授賞式にて発表となりました。
12月4日現在、テロ脅威度は3に下がっており、落ち着きを取り戻しつつあるブリュッセルより、当時の様子を含めた現地レポートが到着いたしました!

第40回ブリュッセル国際映画祭 現地レポート (文:記者 Jenna Park/ジェナ•パーク)

今年で第40回目を迎えるブリュッセル国際映画祭(通称FIFB)が11月17日から21日まで開催された。日本映画として初の国際コンペティション部門に招待された朝原雄三監督の『愛を積むひと』(The Pearls of The Stone Man)から、女優の樋口可南子さんが「Prix de la meilleure actrice」(最優秀女優賞)を受賞した。同作はエドワード・ムーニー・Jr.氏の小説を映画化したもので舞台は「丘のまち」で知られる北海道の美瑛町。熟年夫婦の愛と寛容さをテーマにした感動作品だ。

ブリュッセルには「ファンタステイック国際映画祭」や「アニマ国際映画祭」などジャンルの違う映画祭が集まっている。「ブリュッセル国際映画祭」は、これまで続いたインディペンデント映画を拡大し、40周年記念として盛大に開催される予定だった。しかし直前にパリでテロ事件が発生し、オープニングと同時に厳戒態勢が敷かれた。19日の『愛を積むひと』の上映も心配されたが、日本映画を求めるファンが続々と来場し、開場前には長蛇の列ができた。

●非常事態のブリュッセルにて〜「美しい」日本映画に感涙

そんな厳しい状況の中、日本からプロデューサーの小松貴子が出席し、上映前に英語で舞台挨拶をした。北海道の雄大な映像の中、主人公を含む登場人物全員のストーリーが、パズルを合わせるような形で展開する映画。佐藤浩市さんは不器用な性格の夫で、樋口可南子さんはそんな夫の孤立を心配し手紙によって支える。朝原雄三監督が描く「良子」は、小津安次郎監督映画の原節子さんのような、控えめだが芯の強さのある日本女性だ。

ヤジが多いと定評のあるベルギー人の観客だが、上映中は静かですすり泣きが多く聞こえた。エンドクレジットが流れると大きな拍手がわき、ハンカチを手にした中年女性が「C’est très beau」、とても美しい映画だと話した。出口付近で小松に記念撮影をねだる観客もいて確かな手応えを感じさせた。

●樋口可南子×国際的女優たちとの激戦!

21日の映画祭最終日は、ブリュッセルの警戒レベルが最高値の4に引き上げられ軍隊も市内に配備された。地下鉄が止まり市外からの通行が全てストップ。当初予定されていたクロージング•セレモニーが中止となり、極秘の夕食会で賞の結果発表と授与式が行われた。最優秀女優カテゴリは、アレッサンドラ・デ・ロッシやマチルド•ビゾンなど映画祭開幕前から注目されていた女優たちの激戦だったが、最終的に国際部門の審査員全員一致で樋口可南子さんが選ばれた。

●受賞の理由〜審査員長インタビュー

国際部門の審査員長で米俳優のホルト・マッキャラニーさんはインタビューで「樋口可南子さんの演技は美しく非常に深い感動を与えました。彼女には自然の暖かさ、知性、優しさがあり、笑顔はスクリーン全体をも明るくしました。また佐藤浩市さんも素晴らしく最優秀男優賞のトップ候補でした。妻の声で読まれる手紙が夫を救い、また観ていた私たちの心に何度も何度も触れました。長い女優歴で築いた樋口さんの才能は評価されるにふさわしく、ここで選出できたことを光栄に思います」と語った。

本作の原作者である米カリフォルニア州の大学教授である作家のムーニー氏も「僕の原作が基になった日本映画『愛を積むひと』を見てくれてありがとう。壁、真珠、手紙など原作にもあるストーリー要素に気がついてくれましたか? 主人公『アン』である『良子』を演じてくれた樋口可南子さんがベルギーで最優秀女優賞に選ばれました。可南子さん、本当におめでとう」と祝福のメッセージを綴った。

●ベルギー人の心に届いた日本映画

映画の劇中曲はあのチャーリー•チャップリンが作曲し、ナット•キング•コールが甘く歌う『スマイル」。「笑顔でいれば、人生はまだまだ素晴らしいってわかるから」と歌う声、カメラが上から捉える佐藤浩市さんの空を見上げた切ない映像、そして姿が見えなくても雰囲気で感じ取れる樋口可南子さんの存在など全てにバランスが取れた演出。そして「許す」ということが自分の未来への幸せに繋がるという、今の時代にふさわしいメッサージを届けてくれた朝原監督。この数日間、国家の緊急事態に遭遇し戦争介入への緊迫感を目の当たりにしたベルギー人。「人は生きなければ」という美しい光が大きく灯されたようなプレミアは、彼らの心を癒すのにふさわしく、最も美しい感動作品として「ブリュッセル国際映画祭」の歴史に残るだろう。