●ギリシャの気鋭監督ヨルゴス・ランティモスのコンペ初参戦作『ザ・ロブスター』が審査員賞を受賞!

 映画祭序盤の15日(金)に正式上映された『ザ・ロブスター』は、〈カンヌ国際映画祭便り5〉でお伝えした通り、独身者は“動物”の姿に変えられてしまう奇想天外なディストピア的未来社会を描いた異色作だ。
 ヨルゴス・ランティモス監督は、授賞式で脚本を担当したエフティミス・フィリップに言及し、感謝した上で「カンヌ映画祭と審査員メンバー、この作品の製作を支援してくださった方々にお礼を申し上げます。俳優陣にとって、この映画は解釈が難しい作品だったはずです。彼らは否定するかもしれませんが、それを理解してくれた彼らにも感謝をいたします」とコメント。
 受賞会見では、「私たちは常に、作品の中で全く異なる事、新しい事をやってみようと試みます。その場合、全員一致には至らなぬことが多いのですが、賞をいただけるのは、本当に素晴らしいことです」と喜びを語った。

●脚本賞は、メキシコのミシェル・フランコ監督が自ら脚本を手掛けた『クロニク』で受賞!

 映画祭終盤の22日(金)に正式上映された(〈カンヌ国際映画祭便り14〉)『クロニク』は、終末医療をテーマに据え、ティム・ロスが主演した英語作品で、介護士が辿る皮肉な運命が意表をつく物語だ。
 コンペ初参戦作で受賞したミシェル・フランコは、授賞式で「『クロニク』はティム・ロスの手から賞を受け取った3年前に、ここカンヌで生まれたんです。その時に、是非一緒に映画を作ろうという話になり、それが本作のスタートとなりました。これは2年かけて執筆した脚本です。監督するために書いたもので、撮影は1年。3年に1本のペースですが、また此処に戻ってきたいので作品の執筆に励みます」と決意表明し、名優とコラボレーションできた喜びを語った。
 その後の受賞者会見にティム・ロスを伴って登壇したミシェル・フランコ監督は「個人的な話から脚本を書きました。毎日これほどまでに重大な問題を抱えた人の人生というのは、どういうものになるのかと、自問自答ながら。この賞は私の祖母に捧げたいです」とコメント。

●男優賞は、『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』で素人俳優を牽引しつつ熱演したヴァンサン・ランドンが順等に受賞!

 男優賞は、映画祭中盤の18日(月)に正式上映された(〈カンヌ国際映画祭便り9〉)ステファヌ・ブリゼ監督の社会派ドラマ『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』(原題は「市場の掟」)に主演したヴァンサン・ランドンが獲得。1959年生まれの彼はコメディからシリアスドラマ、アクションにいたるまで幅広く活躍するフランスの人気俳優で、『ザ・メイジャー・オブ・ア・マン』はステファヌ・ブリゼ監督との3度目のコラボ作品だ。ヴァンサン・ランドンは本作で、長い失業の末に職を得たものの、道徳的ジレンマに悩む中年男を熱演した。
 授賞式において、一際盛大な拍手で迎えられたヴァンサン・ランドンは、登壇するやいなや審査員たちのもとに歩み寄り、1人1人と抱擁と握手を交わした後、涙を浮かべながら「こんなに大きな賞は初めてだ。審査員に感謝、共演者たちに感謝、スタッフに感謝したい。特に感謝したいのは監督で、彼は僕のものだ。この作品は政治的メッセージがあり、現代社会を描いている。この映画を正当に評価されない全ての人々に捧げたい」と語り、さらには他界した両親に向けて「2人に認めてもらいたくて努力してきたんだよ」と天を仰ぎながら述べている。
 その後の受賞者会見で、ヴァンサン・ランドンは「自分の中にある、本当に秘められた部分を表出するためには、誰かの手が必要なんだ。ステファヌ・ブリゼ監督は僕自身が知らなかった“何か”を詳らかにしてくれた。今までやってきた役柄全てが、この役を演じるために収斂されたような気がするよ」 と監督に謝意を表した。

●女優賞は、『モン・ロワ』のエマニュエル・ベルコと『キャロル』のルーニー・マーラが同時受賞!

 女優賞は、奇しくも映画祭5日目の17日(日)が正式上映日だった(〈カンヌ国際映画祭便り8〉)2作品に出演した2人の女優の同時受賞となった。
 1人目の受賞者エマニュエル・ベルコ(1967年生まれ)は、今年の開幕作品に選ばれた『スタンディング・トール』の監督であり、脚本家としても活躍するフランス女優だ。彼女は、本作『モン・ロワ』の監督マイウェンが監督&共同脚本&出演を兼ねた前作『パリ警視庁:未成年保護部隊』(2011年の審査員賞受賞作)の共同脚本家であり、主要人物も演じている才女だ。
 授賞式で、エマニュエル・ベルコは「この喜びを共有できて嬉しいです。1人で受け取るには荷が重過ぎますから。受賞は、自由なセンスを持つマイウェンのおかげです。ヴァンサン、貴方は作品同様、“私の大様”よ。勇気をくれた息子ネモに、そして審査員団にも感謝します。今夜、夢に描いていたこと以上のことが実現してしまいました」と感動的なスピーチを行った。
 受賞者会見では「同時受賞したことでは肩の荷が若干軽く感じます。今回、カンヌで賞をもらうのは、3回目になりますが、毎回同時受賞です。私は気に入ってます。今回のような素晴らしい役をまた演じてみたいです。中々ないとは思いますがね」 とコメントした。
(記事構成:Y. KIKKA)