本年度第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門におきまして日本人初の“監督賞”に輝いた黒沢清監督作品『岸辺の旅』が、遂に10月1日(木)より遂に日本公開となります(テアトル新宿他全国ロードショー)。

黒沢清監督にとっては、初のロードムービー、そして初のメロドラマと言われている本作は、深津絵里と、浅野忠信というまさに国際的にも活躍する日本映画界を代表する2人の実力派が夫婦役で、この“究極のラブストーリー”を演じています。黒沢清監督とは今回が初顔合わせとなる深津絵里と、黒沢清監督作品には映画としては『アカルイミライ』以来12年ぶりの出演となる浅野忠信という最強タッグが話題を呼んでいます。

10月1日からの『岸辺の旅』の公開に先がけて、カンヌに続いて映画人としての栄誉ある賞、川喜多賞も受賞した黒沢監督の作品26本を一挙上映する大レトロスペクティブ(9月12日〜10月9日)がシネマヴェーラ渋谷にて開催されています。連日多くの観客を集める盛況のなか、9月23日(のに木)は柄本佑さんが自身の出演した『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』上映後にトークイベントにゲストとして登場しました。

柄本佑さんは、『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』の試写を観たときには、「黒沢清監督の映画に俺出てる!」と嬉しさのあまりにやにやしてしまって、直視できなかったそうです。お父様の柄本明さんは『ドッペルゲンガー』、安藤サクラさんが『贖罪』、お姉様は『リアル〜完全なる首長竜の日〜』に製作スタッフとして参加するなど、黒沢監督作品とは深い縁がある柄本一家。「柄本家は全員黒沢監督のファンなんですよ。だからうちの姉が製作部で『リアル〜』の現場に入るって聞いたときには、家族で“いいなぁ”とうらやましがって」というエピソードも披露されました。現場での黒沢監督は、俳優にはっきりとした指示を出さないそうで、丁寧な物言いで「こんな風にしてみてもいいですけれども、別にやらなくても良いです」というような演出の仕方をするそうです。柄本さんにも「『勝手にしやがれ』という映画でジャン=ポール・ベルモンドがこんな風に走っていくんですよね」というように指示を出したそうで「そういう風に引き合いに出すので、僕も何か出さないと、と思って「撃たれてはいませんけどね」と返しました」というまさに映画ファン、そして映画人らしい現場のエピソードが次から次へと繰り出され場内からは笑いが起こるシーンも。

いち早く最新作『岸辺の旅』を観たという柄本さんは、関係者でぎゅうぎゅう詰めの試写室でプレッシャーを感じながらだったので、まだ冷静に観られてはいないのですが、と前置きしながらも、「オープニングからなんだか泣けたんです。途中で曲がかかるときにも涙腺が緩みましたが、冒頭からぐっとくるというのは初めてでしたね。いつも黒沢監督の映画は、現実の中の異世界を感じるんですが、今回の『岸辺の旅』は真逆で、異世界の人が普通にいるというか、それがすごく不思議で、幽霊がそもそも異質なものだからなのか、ほかの黒沢監督の作品の中でも普通すぎるほど普通で、それに逆に緊張感を感じましたね」と黒沢監督の新境地を感じたようです。映画好きとしてしられる柄本一家も応援する黒沢清監督の『岸辺の旅』を観ながら、ぜひ黒沢監督の演出ぶりを想像してみてほしい。