大震災後の世界を生きぬく幼い姉妹の7日間の心の旅路を描いた映画『シロナガスクジラに捧げるバレエ』が19日(土)、渋谷のユーロスペースにて公開初日を迎え、出演者とスタッフが登壇し、挨拶をした。
 実母の老いの絶望と希望を4年間撮影したドキュメンタリー映画『抱擁』がこのたび2015年度文化庁映画賞文化記録映画部門優秀賞に決定した坂口香津美監督は冒頭、ユーロスペースが「映画監督になるきっかけを作ってくれた場所」と初めて語った。
 1999年8月、当時、渋谷の桜丘町にあったユーロスペースで公開していたデンマーク映画「セレブレーション」を観て、5ヶ月後、最初の映画「青の塔」の撮影にとりかかったという。「セレブレーション」はデンマークで起こった映画運動「ドグマ95」の手法を使っている。坂口監督にとって6作目となる本作では、この「ドグマ95」の精神に立ち返り、2人の少人数スタッフで撮影したという。「ユーロスペースがなければ映画監督になっていなかったかもしれません」と語った。

本作は、音楽を「おくりびと」などに参加のチェリスト海野幹雄と、今最も有名な作曲家であり現代音楽の旗手である作曲家の新垣隆が共同で作曲したことでも話題の、台詞なしで全編に音楽が流れるサイレント映画だ。
この日は海野幹雄がチェロを持って登壇。
「坂口監督から最初に僕に作曲をと声がかかりました。今では有名になった新垣隆さんに声をかけて、二人で共同で作曲して演奏しました」と、20秒のメロディーをもとに即興で72分の映画音楽を録音したことを明かし、テーマ曲を披露した。

登壇した出演者とスタッフもそれぞれ挨拶をした。
大久保妃織(主演の三女役)
「千葉のロケの撮影(2013年)は大変だったけど、東京でのロケ(2015年6月)の方が精神的にははるかに大変だった。7日間のなかで、姉妹の関係がどのように変化していくかを楽しんでいただけたらなと思います」
新倉真由美(母親役)
「砂の上で踊ったバレエが印象に残っている。サイレント映画ですが73分間、それぞれが自分の思いをのせて坂口監督の世界にひたっていただけたら」
橘春花(次女役)
「この映画で伝えたいのは、亡くなった方は近くで見守っていてくれるんだなということと、言葉は聞こえたり、通じ合えないかもしれないけど見守っていてくださっているんだな、言葉は交わせないかもしれないけれど、心は通じ合えるんだなと…」
山下直(祖父役)
「おぼれるシーンがありますが、もうちょっと本当におぼれるのではと不安に思いました(笑)。そんな迫力のシーンをみなさん見てください」
藤原舞子(宣伝メインビジュアル画)
「まさか自分の描いた絵が映画のチラシやポスターになるとは夢にも思わず嬉しかった。「帰巣」というこの絵は使命を果たした少女があるべき場所に帰っていくというのがテーマです。映画の少女も、強い使命を果たそうとしています。絵画と映画と、二つの少女が重ね合わせて観ていただけたら」

最後に、落合篤子プロデューサーが「サイレント映画を初めてご覧になるかたも多いのではないかと思います。この映画はセリフがなくあえて説明的な演出をしていないので、観る人の感性やこころに自由に委ねられる部分が大きい作品です。普段あまり使わない心の筋肉を、バレエを踊るように、自由に動かして、72分間の旅を堪能していただけたらと思います」と本作の楽しみ方を披露した。