29日、大分県由布市で開催された第40回湯布院映画祭特別上映作品『この国の空』シンポジウムに、『この国の空』の脚本・監督の荒井晴彦、森重晃プロデューサー、撮影の川上皓市氏、編集の洲崎恵子氏、音楽の下田逸郎氏が出席。湯布院映画祭の常連という荒井は、大きな歓声を浴び、観客からの熱心な質問にこたえた。湯布院映画祭といえば、観客からは歯に衣着せぬ感想が飛び交うことで有名で、その点をスタッフたちも楽しみにしていたが、今回は「傑作だ」「非の打ち所がない」と絶賛の声が多く、逆に戸惑ってしまった荒井監督。その中でも議論の大きなポイントになったのは、映画のラストで二階堂ふみさん演じる里子が朗読する茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」という詩についてだった。

「あの詩で、それまでに映画で描いてきた里子の感情をすべて語ってしまっている。観客の理解力を馬鹿にしているのではないか。映画の格が下がってしまうのではないか。」「日露戦争の映画で、“君死にたもうことなかれ”が使われるようなものではないか」という言葉に対しては、「それはさすがに言い過ぎでしょう(笑)」と苦笑しながらも、「確かにあの詩についての意見はたくさんあったが、往々にしてあの詩があってよかったという意見が本当に多かった。また、バジェットが今回大きかったので、今までよりも、わかりやすさは意識した。皆がみな、映画に対して高級志向をしているわけではない。」と反論。さらに、「原作も読んだが、ほとんど変わらない印象。あまり荒井晴彦ならではの演出を感じなかった」という発言に対して、荒井監督より先に各スタッフがそれぞれの持論を次のように披露した。

プロデューサーの森重氏は、「いい脚本をそのまま演出して何が悪いのか。セットを動かす、役者の演技に物申す、という特異なことがなくても、出来上がるすべての映画の進行は監督の演出に基づいているもの」と語り、撮影の川上氏は「ロケハンの時から、スタッフに対して色々なアイディアを話していましたし、帰りの新幹線の時に、茨木のり子の詩のことを提案された。普段から監督の言葉に耳を傾けていないといけなかった。撮影中は、宿舎の私の部屋に訪れて、絵コンテのカットの相談をしにきたりね」とその熱心さについて語りました。さらに荒井監督から「ラッシュを見るたびに肩を落としていた僕を唯一励ましてくれた」と紹介された編集の洲崎氏からは、「脚本と原作を徹底的に分析したが、描くところと描かないのセレクトが絶妙でしたし、地の文にあるところが里子の言葉になっていたり、本当に見事な構成になっていました」と答え、音楽の下田氏からは、「音楽を依頼された時、荒井の父親がバイオリンを引いていて、そのエピソードを入れると聞いた時、舌を巻いた」と、それぞれの立場から監督・荒井晴彦について語った。

映画『この国の空』は全国にて絶賛公開中。