6/6(土)十三の第七藝術劇場にて映画『乃梨子の場合』関西公開初日舞台挨拶が行われた。本作で5年ぶりの新作となった老舗映画会社の国映でピンク映画最後の世代として活躍した“ピンク七福神”最年少の坂本礼監督と、坂本監督と『ふ・た・ま・た』(05)『ながされて 淫情』(07)でコンビを組んだ脚本の尾上史高さんが登壇した。

 保育園に通う娘と警察に務める夫を持つ平凡な主婦の乃梨子。ある日夫・響一から1年前に退職していたことを告白され、生活のためにパート先の出入り業者の戸高と援助交際を始めるが…。

 出演は『へばの』(09)『新しき民』(14)の西山真来さん、『たまもの』(04)『なにもこわいことはない』(13)の吉岡睦雄さん、『さよなら歌舞伎町』(14)『ローリング』(15)の川瀬陽太さんという実力派が揃った。

 夫の退職手当も底を付きた状態でパートだけでは生活費を賄えない主婦の援交。ストーリーラインは週刊誌の事件記事の見出しを連想させても、そんな予想を軽く超えるシンプルなようで惹きつけられるセリフの数々。ありがちな女性像を当てはめようとしても、乃梨子の表情には想像するような絶望も投げやりも写っていない。アップになった時の動物のような目。長身の乃梨子の無防備な腕の動き。言葉と乃梨子の内面がどこかで断絶しているような不思議な感覚に陥る。
 乃梨子、響一、戸高、それぞれの日常の軌道が静かに横滑りしていく様に目が離せなくなる。

 現実を振り返った時に、どんなに親しい友人・パートナーであっても、それぞれが“個”である以上、何割かの理解で合格点とするしかないのは当然のことだ。だがしかし自分の行動も、自分の中では言い訳を尽くして整合性の元動いているつもりが、外から見るとあの乃梨子のような目をしているのではという不思議な余韻が残る。

●映画『乃梨子の場合』が完成して
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 国映がピンク映画の製作を止めて5、6年。国映製作の新プロジェクトの3本めになるという本作。坂本監督が尾上さんにシナリオを依頼したのが5年前。シナリオは気に入っていたが、成人映画館で掛かるような映画で子供が出てくるのはどうかと棚上げにしていた。本作はR15指定の予定だったため、それならと制作に取り組んだという。

 出来上がった作品を観ての尾上さんの感想は
「ホンの破綻しているようなところも、役者さんと現場の力技で成立させてもらったって感じでしたね。
現場の力が凄いんだなってことは、今回は改めて思いました。嬉しかったです」
作品として気に入っていると笑顔を見せる。

 尾上さんと坂本監督の出会いは10年前。雑誌『月刊シナリオ』にてピンク映画のシナリオ公募に応募したことだった。尾上さんは『草叢 KUSAMURA』にて準グランプリを受賞。選考の一員だった坂本監督は、
「尾上くんの人生を若干歪めてると思うんだけど(笑)」
 その後、坂本監督に誘われ上京した尾上さんはピンク映画やOVの脚本を手掛けていく。

●出来事ではなく人物から発想する
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 シナリオを書き始めた当初は楽しいことは何もなかったという尾上さん。
「最近ちょっとだけ面白くなってきた感じで。自分の出来るものがだんだん見えて来て。ちょっとずつ引き出しが増えてるのかな?今回これでやってみようというのが出てきたから、ちょっと面白くなって来ました」

 書く前の段階で俯瞰して見ることが出来るようになったことで面白さが分かって来たという。シナリオはどのように書き始めるのか?
尾上「出来事からではなく人物の言葉遣い、人物の過去のようなものからぼくは発想するんだってことが段々わかってきて。人物の物語と僕は呼んでるんですけど。人から入る時に、演技って僕の言葉遣いなんですけど、演技がどうなるか。一貫するのか変化するのか、変化するなら何を置かなければならないのかとか」

坂本「そのシナリオ(次回作)僕はあまり気に入っていなくて。尾上くんにさっきそれを言ったら“本当ですか!?”って感じで(笑)。この後どういう風な形になるかわからないですけど」

 坂本・尾上コンビの次回作の続報をぜひお待ちいただきたい。

●思い付いた事を批判し破綻を見つけていくシナリオ前
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 坂本監督からシナリオにかかる時間について質問が。
「どれくらい掛かってるの?実質、書くまでと書いてる最中で時間軸が2つあると思うけど」

尾上「書く前の方がずっと長くて、考えていることをずっとノートにする。それが大半ですね」

坂本「呪文みたいな文章の?」

尾上「(笑)流れですね。自分の中で思いついたことを、どういう話なのか自分で批評して、ずっと書いていく。そうしていくと破綻が見えてくる。続けてどうなるかとか、これは続けなきゃならないパターンなのか、色んな角度からノートにしていって。他の仕事もしているから中断しながらやってると多少時間はかかるんですけど。本稿になると一週間あれば修復しながらシナリオにしていく感じです」

坂本「分量的にはペラで100枚くらい。僕らが作っているのは普通に皆さんが見る映画を基準にすると中編くらいの分量です」

尾上「遅筆っていうんですか?基本ものすごい遅い。余計なことを考えているから、それを省きたいけど省けない。基本、プロのライターは3日でやるというし」

坂本「しようがないんじゃないの。知り合って10年くらいたって、自分たちができる物差しも大体決まっている。今更変えるのは無理でしょう。僕も出来ることはある程度決まっているし」

 正確な自己分析と、出来る中で出来る事をやっていこうという気負いのない誠実さが坂本監督の良さなのだろう。過酷な制作条件の中で作品を作って来た監督の姿が伺えた。

 その後のQ&Aでは観客の皆さんから本作のシナリオについて質問が続出し、作品の魅力の大きさが伺えた。入場整理券による抽選のプレゼント大会では、出演者のサイン入りポスターや坂本監督、尾上さん関連作品のDVDが大盤振る舞いされた。

坂本「今回ナナゲイさんで上映して頂くことになって本当に嬉しく思ってます。国映という会社でこの先も映画を作り続けていくと思いますので、僕自身が撮るのものがあれば、僕の友達や後輩たちが撮ったりするものもありますので劇場に来て映画を観てて頂けたらと思います」

尾上「大阪にいた時分はナナゲイさんによく来ていたので上映してもらえて本当に嬉しいです。
少人数ですけど色々なことやりながら今後盛り上げていきたいと思っているのでよろしくお願いします」

 第七藝術劇場では6/12(金)まで上映。
4月に上映が終わった名古屋・シネマスコーレにて開催された<第3回 ニューインディーズ映画総選挙>では、『乃梨子の場合』がグランプリを受賞。2015年夏に再映予定となっている。

(Report:デューイ松田)