本作は、1983年に実際に起きた大ビール企業「ハイネケン」の経営者誘拐事件の真相を追ったエミー賞受賞の犯罪ジャーナリスト、ピーター・R・デ・ヴリーズのベストセラー本を基に映画化。
世界屈指の大富豪フレディ・ハイネケンが、犯罪経験のない幼なじみの5人組に誘拐され、巨額の身代金が要求された事件。奪われた身代金の大半の行方が解明されていないなど、多くの謎を残しているこの事件の≪裏≫で、いったい何が起きていたのか?
大胆不敵な計画を実行した犯人たちだが、次第に人質であるハイネケンに翻弄され、歯車が狂っていく様が描かれます。

この度、劇場公開に先立ち、犯罪ジャーナリストで元神奈川県警刑事の小川泰平さんと映画評論家の松崎健夫さんをお呼びして公開記念トークイベントを実施いたしました。

『ハイネケン誘拐の代償』公開記念トークショーイベント 概要
■日程:6月3日(水)
■登壇ゲスト:小川泰平(犯罪ジャーナリスト) 、松崎健夫(映画評論家)
■会場: アスミック・エース試写室 (港区六本木6-1-24 ラピロス六本木3F)

<イベントの様子>
元刑事で犯罪ジャーナリストである小川さんと、映画評論家の松崎さんが犯罪心理や映画的観点から本作の魅力を語ったトークショーイベント。
本作は誘拐犯の目線で事件が描かれていて、「警察の活躍が全くなかった!」と残念がる小川さんでしたが、犯罪のプロではない犯罪経験のない青年たちが起こした事件がゆえに、素人である彼らの心理の揺れ動きがとてもリアルだったと大絶賛!

また犯罪映画や刑事ものドラマをほとんど見ているという小川さんは、昔に比べて最近の作品はより現実に近いと分析。
人気TVドラマ「踊る大捜査線」以降、よりリアルになったと言い、「“レインボーブリッジ、封鎖できません!”とか言ってけど、実は簡単に封鎖できちゃうんですけどね。笑」と暴露、会場のお客さんは驚いている様子でしたが、笑いも沸き起こっていました。
知られざる犯罪捜査の裏側が次々と明かされる中、お客さんたちは小川さんの話を興味深そうに聞き入っていました。

<質問内容>
Q:映画はどうでしたか?

【小川さん】
映画、ドラマを含めて誘拐ものの作品で、警察の活躍が全くないのは非常に珍しいなぁと思いましたね。(笑)
もう少し事件後のことが知りたかったですね。
もし『ハイネケン誘拐の代償 Part2』なんかがあれば、いいですよね。
犯人と警察との戦いが全くなく終わってしまいましたし、犯人の逃亡劇が見たかったです。
ただ犯人が逃亡中、奥さんに電話をかけて逮捕されるきっかけを作ってしまいましたよね、普通だったら絶対しないようなことをしてしまうところにリアルさを感じましたね。

【松崎さん】
95分間の映画なんですが、あっという間に終わってしまいました。
犯人の視点から描かれていて、警察がどんな風に動いていたかが描かれていないからなんですよね。

Q:映画では描かれていませんが、実際警察はどんな捜査をしていたんでしょうか。

【小川さん】
映画の最後に字幕で、事件に関する匿名の情報が寄せられたと出てきますが、実際、たくさんの情報があったと思いますし、情報収集していたと思います。
今回のケースは、(ハイネケンを誘拐する前に)強盗をしていますよね、だから警察はこの2つの事件のつながりや、同じ地域で類似するような事件、人数、手口といったことを調べていたと思います。
これはオランダで起きた事件ですが、日本の場合だったら短期間で同じような事件が2回起こるなんてことはないので、そいうった点を注目していくんじゃないかと思いますね。

日本だけじゃなく、海外でも言えることですが、いろんな種類の事件がありますよね。
その中で警察が一番慎重に捜査を行わなくてはいけないのが身代金目的の誘拐事件と言われています。
殺人事件というのは、すでに人が亡くなっていますよね、強盗事件は、人が傷つけられてお金が取られています。
身代金目的の誘拐事件は、被害者がどんな状態かわからないし、もしかしたら殺されてしまうかもしれない、無事に解放されるかもしれない、だから警察は勝負ができないんですね。

Q:いろんな映画を見ていてもわかるのですが、誘拐事件は成功率が低い気がするんですが、日本での検挙率が97%だというデータがあります。実際はどうなんでしょうか。

【小川さん】
実際は、検挙率としては97%なんですが、成功したケースは1件もありません!
逃げられてしまった未解決の事件はあるのですが、未解決というのは身代金は払われていないという意味ですね。
世界で見てみると、個人の誘拐と何百億もの大金を要求される政治的な誘拐があるんですが、犯人が複数いるような集団で誘拐をするのはなかなか難しいですね。
映画の中でもありましたが、誘拐するのは意外と簡単でお金を要求することもできますが、お金を受け取って自分のものにするかが難しいんです。

Q:誘拐事件でいうと昔、グリコ森永事件があって不手際があって犯人にお金が渡ってしまったと言われていますよね。
それは、犯人に接触するから危ないんでしょうか。

【小川さん】
そうですね、接触もそうですが大金なので大きなリスクが伴います。
もっと古い事件でいうと、3億円強奪事件というのがありますが、あの事件も結局、お金は使われていません。
お金を盗むまでは誰も傷つけず、華麗に行うんです。
なので3億円強奪事件と言われていますが、実は誰も怪我をいていない窃盗事件で、プロ中のプロの仕業と言われていますが、お金は奪ったけれど結局お金は使われていません。

この映画でも盗んだお金は埋められていまだに見つかっていないと言われていますが、実際にお金が使われたのかわからないんですね。
事件後、5人の犯人グループの中から有名なマフィアが生まれますし、被害者のハイネケン氏は、この事件をきっかけに警備会社を設立したというのは有名な話ですよね。

Q:映画の中で誘拐するための準備にかなりお金をかけていますよね。
犯人心理から見て、彼らは多額の準備金を投じてまで巨額の大金がほしいものなんでしょうか。

【小川さん】
そうですね、僕も同じことを思いました。
強盗がうまくいったんだから、強盗を月に1回、半年に1回くらいのように繰り返せば、1回で数億円手に入れるのは難しいですが、犯人は5人いますから、5回繰り返したら1人ずつ十分なお金を手にできるんじゃないかっ思いしたね。(笑)

犯人たちは幼馴染の素人5人組ですが、綿密な計画を立ていました。
これが犯罪組織、プロ集団だったら、個々の意見もバラバラだと思うんですが、素人がゆえに彼らは団結して、意思の疎通が図れていて、誘拐まではうまくいってもお金が手に入るまで、入った後の行動を見ると、やはり彼らは素人だったんだと感じましたね。

Q:小川さんの話にもありましたが、犯人グループの1人がオランダを代表するマフィアになりますよね。
実際、再犯率というのはどのくらいなんでしょうか。

【小川さん】
実際どれだけ割りに合わないかということもあり、日本では誘拐事件の再犯率は低いですね。

Q:警察の方は犯罪映画を観る時、どういった気持ちでご覧になるんですか。

【小川さん】
個人差はあると思いますが、私は映画に限らずドラマもほとんど見ています。
特に最近感じるのは、「踊る大捜査線」というドラマ以降、刑事ドラマの内容が結構リアルになってきたんですね。
「レインボーブリッチが閉鎖できません!」とか言ってましたけど、本当は簡単にできるんすよ。もちろんできないこと言ってますけど、いかりや長介さんが出てきて我々が普段言っているようなことを言っていたりして、非常にリアルになってきています。
だから昔と比べて、視聴者の目が肥えているんですね、どちらかというと映画よりドラマの方が敷居が低いので、昔は「えー!」と驚かれたものが、今は思われなくなっていると思うので(犯罪ものの)映画を作るのは非常に大変だろうなと感じます。
そう考えると、『ハイネケン誘拐の代償』はとても斬新な映画でしたね。