大人も子どもも共有できる優れた作品に送られる文学賞「第28回坪田譲治文学賞」、2013年本屋大賞第4位に輝き、10代からシニアまで幅広い世代の人びとの心を掴んで大きな話題を呼んだ小説「きみはいい子」(著:中脇初枝〈ポプラ社刊〉)が、『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞した呉美保監督によって映画化され、6月27日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー公開となります。モスクワ国際映画祭コンペティション部門への日本唯一の出品も決定した本作の公開に先駆けて、5月31日に渋谷・ユーロライブにてママ限定試写会を行いました。当日は115名に及ぶママが一堂に会し、子どもとおとなの問題を描く本作へのママたちの期待の高さがうかがえました。

日時:2015年5月31日(日) 15:30〜16:00
場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
登壇者:高木さと子(日本ハグ協会会長)(敬称略)

この日、トークイベントのゲストに登場したのは日本ハグ協会の会長で、自らも二人のお子さんのママである高木さと子氏。まずはトークの開始早々、席が隣の方と映画の感想を伝え合うよう促すと、涙で目を赤くした知らない人同士が挨拶を交わし、打ち解け、一気に会場のムードが和やかに。

高木:この作品は群像劇になっているのだけれど、なにか特別偉い人が誰かを救うというわけではないんです。わたしたちって意外と弱い人に助けられることが多いですよね。この映画を観て、わたしたちはそれに気付けているかなと考えさせられます。自分のすぐ隣の人のことを自分は助けられているだろうか、と。

MC:ここで本作の原作者である中脇初枝さんから会場の皆さまへメッセージを頂戴していますので、僭越ながら代読させていただきます。

●原作者の中脇初枝氏から会場のママたちへメッセージ

もうすぐママになるみなさん、そして今まさに子育て真っ最中のみなさん、今日はこの映画を観に来てくださって本当にありがとうございます。実はわたしも二人の子どもを育てています。ただ、わたしの子どもはもうだいぶ大きくて、二人ともわたしの背を越しました。必死で子育てしていた幼い頃が嘘のように、今では子どもたちのほうがわたしを支え、助けてくれています。すべての人は、こども時代を経て、大人になります。
そして、人は、人によってしか、育つことはできません。だから、こどもが幸せであるためには、育てる親が、まず、幸せである必要があります。
 すべてのこどもたちに、幸せなこども時代がありますように。そして、こどもを育てるすべてのお母さん、お父さんが、どうか幸せでありますように。この映画を通して、そういう思いを持ってくださるひとが、ひとりでも増えることを祈っています。
 ありがとうございました。

中脇初枝

MC:まさに高木さんが主宰されているハグ協会と共通するメッセージですね。

高木:私がやっているのは街中でプラカードを掲げながらフリーハグを叫ぶような活動ではなく、一番近くの人を抱きしめましょうという活動です。一番は自分、その次は家族。それが出来た人が、社会、そしてまわりのみんなを抱きしめる活動をするんです。

今作では「抱きしめる」ことの大切さを描いている。企業や学校の講師としても活躍する高木氏も年間4800人に「ハグの宿題」を出していると切り出し、‘ハグニケーション’(ハグ+コミュニケーションの造語)の大事さを唱えた。

MC:この映画の後半でも、子どもたちに「抱きしめられてくること」という宿題を出すシーンがあります。もともと脚本で誰が何を言うか決まっていたものを、監督の提案であえて高良さんから実際に子どもたちに宿題を出してもらったんです。そして実際に子どもたちがやってきた宿題の回答を、リハーサル無しでドキュメンタリー的な手法で撮影しました。高木さんも年間4800人にこの宿題を出してらっしゃるんですよね?

高木:そうですね。企業の方々への研修という形で行う場合もありますし、いろいろな人のお話しや悩みを聞きます。まずは自分自身が幸せになることが大事です。いつも家庭に帰って、奥様やお子さんを抱きしめるように提案します。

MC:自分自身が幸せになるための秘訣は?

高木:緊張したら自分で自分に声をかけるんです。イイ感じだ、頑張れるって。ネガティブな言葉じゃなくて、良い言葉を自分で出す。それを繰り返す。そうすると人からイイネと言われる。その繰り返しです。

MC:子育てにはストレスも付きものですね。

高木:小さなお子さんがいらっしゃる方の一番のストレスは自分の時間が無いことだと思うんです。幼稚園に行っても誰々のお母さんと呼ばれるし。でも子どもが自立していった時に、誰々のお母さんからまた自分自身として生きていくことになります。そんな時、自分にポッカリ穴が空いてしまうって言いますね。良いお母さんだな、と思われるように生きるのではなく、自分という存在がどう在りたいかを思い浮かべてください。想像するのは自由ですから。

MC:小さい子どもはもちろん、大人も優しくされたいし、肯定されたいですよね。

高木:そういう意味でもスキンシップは大切です。ありがとう、助かったわとか、言葉のハグもありますね。それ以上に、ある人はお子さんに「ママの料理は世界一美味しい」って言われたことがとても嬉しかったと言いました。子どもって名言をたくさん持っていると思います。人を喜ばせる言葉って、大人になるとだんだん少なくなってきます。

最後には会場のママたちにハグニケーションを促し、その場でママたちによるハグニケーションが行われた。115名のママが起立してハグをする姿は圧巻! そして高木さんから最後に、会場のママたちへ「宿題」が。

高木:自分のやりたいことを相手に押し付けるコミュニケーションではなくて、相手は今どんな気持ちかなと、察する、気づく、感じる、そして工夫するのが日本流のコミュニケーションです。映画を一緒に観たご縁ということで、隣の方とハグしてみてください。ちょっと照れるけど、ちょっと嬉しいですよね。帰ったら誰かに抱きしめられてきてください。そしてどんなことを感じたか、教えてください。これは宿題です。ハグに必要なのはちょっとした勇気かな。是非この映画を観たみなさん、1人1アクションを起こしてください。