5/23(土)、第七藝術劇場にて映画『がむしゃら』の初日舞台挨拶が行われ、高原秀和監督、安川惡斗さんが登壇した。

 この作品は女子プロレスラーの安川惡斗さん/安川結花さんの壮絶な人生を追いかけたドキュメンタリー。学生時代のいじめ、レイプ、自殺未遂と生きる希望を見失った安川さんが、信頼の置ける医師に出会ったことで生きる力を取り戻していく。演劇の道に進み、やがて女子プロレスラー、しかもヒール(悪役)としてデビューという驚きの転換が成功し活躍するようになるが、白内障、バセドウ病、頸椎椎間板ヘルニアといった病気や怪我との闘いを余儀なくされる。それでもあきらめず、一歩一歩歩んできた体験を自分の言葉で語っていく。

●行き場がない子供達に
見せたいと映画制作を承諾

━━━━━━━━━━━━━━
 がむしゃらTシャツ姿の高原監督とストライプのワンピースにレースのカーディガン姿の安川さんは、作品を観終えたばかりの観客から大きな拍手を受けた。

 2005年に映画学校の講師と生徒として安川さんに出会った高原監督。当時の印象を「人と上手く付き合えない、人の目が見れない、挙動不審な18、9だった」と語る。高原監督の劇団にも参加した安川さんだったが、途中付き合いが途切れた時期を経て、プロレスデビューするという話が聞こえて来て驚いたという。デビュー戦から安川さんを見守って来た高原監督は、
「プロレスって相手の技を受けなきゃいけない。彼女の成長がすごく見えてきた」
そんな安川さんの姿が作品になると感じた高原監督。過去のことを含めて全部さらけ出して、撮らせてほしいと持ちかけたという。

 安川さん自身、今までの出来事を赤裸々に語ることに躊躇はなかったか。最初は自分の話など面白くないと断りかけたという。完成した映画を持って学校に行けない子供達に観せたり、施設を回りたいという監督の話がフリースクールを卒業している安川さんの心に響き、出演を決めた。
「最初に見せたのは母親と父親で、二人とも泣かせてしまいましたが、好きな道なら頑張りなさいと言ってくれたので、この映画を出す決断ができました」

 高原監督は、前作のドキュメンタリー『セックスの向こう側 AV男優という生き方』で、AV男優という仕事に携わる男たちの生き方を通して、現代社会の価値観の多様性を映し出し好評を博した。本作『がむしゃら』では、不器用でもがむしゃらに生きて来た安川さんに対して“こうあるべきだ”と押し付けるのではなく、寄り添うことによって安川さんの真情を引き出すことに成功している。

●人との付き合いを考えるヒントにして欲しい
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「この作品に何か答えがあるということじゃなくて、これを観て人とのコミュニケーションの仕方を考えて欲しいし、どうやって他者との距離を保てばいいのか。自分と照らし合わせるヒントになればいい」
と、熱く語る高原監督。途中
「オレまた語ってる?」と安川さんに確認する場面も。

「高原さん節がいい感じで出てますね(笑)」とおっとりと笑う安川さん。
「きっといじめ、家庭環境、人間不信、来て下さってる皆さん、みんな経験あることじゃないかなって思ってます。ちょっと重たいかもしれないけど、特に学生さんに観てほしいです」

 安川さんが手にしていたスティック付きのアメを取り落とすというハプニングが。
「アメ持ってくんなよ!舞台に(笑)」叱咤する高原監督。全く動じない安川さん。観客に向かって、居酒屋でお子様用のアメをもらったと、おっとりとした笑顔で解説。
「さっき自分でイチゴは食べたんですけど、“スターダム”(所属団体)で“星”だから。なっ(笑)」
 これには高原監督も笑うしかない。
「“なっ”じゃねーよ(笑)」
コントのような絶妙のやりとりに観客も爆笑となった。

●『がむしゃら』グッズは今後の上映の活動費用に
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 学校上映、地方上映など、作品を持って全国を回りたいという思いがある高原監督と安川さん。その活動費用になると松村支配人から物販の案内があった。

「ちっちゃい映画なんでそんなに宣伝費も掛けられないし…」と具体的な例を挙げようとする高原監督。安川さんから
「お金の話をしないの!(笑)」
と逆に怒られることに。
『がむしゃら』公式サイトでは、自主上映でかかる費用案内の掲載を始めた。
「我々に来てほしいとなれば、できる限り行きたいと思っています。広めてもられえば」

●何があっても生きていれば
━━━━━━━━━━━━━
 最後に高原監督から、大阪で一言言いたかったと、2012年に起こった心斎橋の通り魔事件のことが語られた。音楽プロデューサーだった友人が凶行に合い、理不尽に人が死んでしまうやり切れなさ、ショックからなかなか立ち直れなかったという。
「この映画でも本当にこいつが死ななくて良かったなって思っています。出会えて作品も作れた。それは本当に幸せなことです」
「生きていれば面白いことがある。こいつも生きてて良かったって言ってるし。良かったなって思ってます」

 最後に締めの一言を振られた安川さん。
「安川惡斗だ!てめえらよく聴け!今回は私の姉の作品だけどな。てめえら今日はTシャツヨロシク」
思わぬ惡斗さん降臨に観客は大いに沸いた。
大拍手で舞台から送られた安川さんと高原監督。Tシャツ、CD、ポスターを買い求め、サイン会の列に並ぶ観客で長蛇の列が出来る。
順番が来た観客には「お待たせしました」と、おっとりした笑顔で丁寧に対応する安川さんの姿が印象的だった。

 映画『がむしゃら』は第七藝術劇場では、5/23(土)〜6/5(金)まで連日20:15より上映。その後関西では、京都みなみ会館、神戸/元町映画館にて6/13(土)〜6/26(金)の上映、6/21(日)は高原秀和監督、安川惡斗さん舞台挨拶予定となっている。

 その他、愛知/豊川コロナシネマワールド、広島/福山コロナシネマワールド、神奈川/小田原コロナシネマワールド、愛媛/松山 シネマルナティック、福岡/中洲大洋映画劇場にて現在上映中。
6/16(土)より愛知/半田コロナシネマワールド、6/23(土)より青森/シネマ・ディクト、7/25(土)より香川 /ソレイユにて上映予定。神奈川/シネマ・ジャック&ベティ、広島/横川シネマも現在調整中となっている。

 最新の上映情報は公式サイトにてご確認を!

(Report:デューイ松田)