ドリアン助川の原作「あん」をもとに、河瀬直美監督が手掛けたエンターテイメント・ドラマであり、監督初の原作からの映画化作品である『あん』。ハンセン病をわずらった主人公・徳江という難しい役を、日本を代表する大女優・樹木希林が演じます。とある街にひっそりとただずむどら焼き屋「どら春」を舞台に、しがない雇われ店長・千太郎と、近所に住む家庭の愛に飢えた少女・ワカナ、どこからともなく「どら春」に現れた徳江の作る絶品アンコを通して、様々な人間ドラマが紡がれていくー。本作のメガホンを取った河瀬監督がこの度、フランス芸術文化勲章シュバリエを受章し、7日(水)にフランス大使館公邸にて行われた叙勲式に出席いたしました。

初の劇場映画『萌の朱雀』(1997)でカンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少で受賞し、『殯の森』(2007)で同映画祭にてグランプリを受賞するなど、世界で活躍している河瀬直美監督がフランス芸術文化勲章のシュバリエを受章するとだけあって、会場には多くのマスコミだけでなく、河瀬監督の最新作『あん』で主演を務める樹木希林や原作者のドリアン助川、女優の浅田美代子や渡辺真起子、松田美由紀といった豪華な顔ぶれが祝福のため集まった。
シュバリエとはフランス文化の発展に寄与する人々にフランス政府から与えられる勲章の一つで、日本ではかつては川端康成、近年では映画監督の北野武や歌舞伎役者の11代目市川海老蔵らなどが受賞している。
フランス大使は「本日お集まりした主旨はその世代の中で最も優秀だと言われている河瀬監督に勲章を受章すること。日本とフランスの友好、とりわけ“映画”が一つの媒体となっていることを示す良い機会。」と挨拶した。続けて河瀬監督作品がフランス国民に愛されている理由を「河瀬さんは(作品に)情緒的なものを入れることができるからではないか。」と紹介し、熱いハグとともに勲章を授与し、固い握手を交わした。

日本人女性監督初の文化勲章受章という快挙を果たした河瀬監督は、故郷である奈良県とゆかりの深い万葉集の大伴家持(おおとものやかもち)の言葉を用いて「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事。新春に降る雪とはとても縁起のいいもの。それが沢山重なって降ってきたらいいなと詠ったもの。奈良で元旦の日に家持が見たのと同じ風景を見た。そんな2015年の幕開けにこんな素晴らしい勲章をいただけることを大変嬉しく思います。」と喜びを語った。また祝福に駆けつけた多くの女優や俳優たちを見渡し、「支えて下さった出来事を一つ一つ思い出して感無量です。」と涙ぐむ姿も見せた。

その後の乾杯では、監督最新作『あん』で主演を務める樹木希林が、「日本では70歳過ぎで勲章もらえるけど、フランスではこんなに若くからくれるなんて懐が深いですね。(監督の息子・光祈(みつき)(10)君の代弁とし、)お母さん、僕のそばにいてくれなきゃ、ダメよ〜、ダメダメ。」と日本エレキテル連合の住まいと『あん』の舞台が同じ東村山市であることにかけてか、希林節炸裂の音頭をとり会場を沸かした。

その後の囲み取材でカンヌでの受賞とシュバリエ受章の違いを聞かれ、「野球だとホームラン一つで評価されるのではなく、シーズン通して評価されたよう」と心情を明かした。フランスとの共同制作でもある最新作『あん』については「出資を含め、フランスの方々には支援してもらっている。国境のボーダーラインを越えて一つの作品が出来上がっていくんだなと感じている。」とフランスへの感謝を語った。
河瀬監督最新作『あん』は6月に全国公開される。