12月13日(土)より角川シネマ有楽町他にて公開となります『おやすみなさいを言いたくて』の公開を記念して、IMA CONCEPT STORE初のトークショー付き特別試写会を開催されました。トークショーのゲストとして、漫画家のしまおまほさん、お父様で写真家の島尾伸三さんが登壇されました。

<イベント概要>
日時:12月8日(月)
登壇者:漫画家 しまおまほ、写真家 島尾伸三
会場:IMA CONCEPT STORE
港区六本木5-17-1 AXISビル3F

<トークショーレポート>
六本木にある写真に特化した商業空間「IMA CONCEPT STORE」にて、ストア初の映画上映会が行われ、上映後に漫画家のしまおまほさんと、お父様で写真家の島尾伸三さんによるトークショーが行われました。エディトリアルディレクターの太田睦子氏がMCを務め、親子ならではの楽しくもユニークな間合いと、深い視点での「会話」で場内はアットホームな雰囲気に包まれました。
Q:映画の感想は?
まほさん:ラストがリアルでいいな、と思いました。主人公の娘たちも可愛くて。ただ感想を一言というのが難しい映画。
伸三さん:(映画を見て)すぐに妻を思い出した。カメラを持つと怖いものがなくなる人で。ヘリコプターに乗っているときも、体を乗り出すものだから、後ろから皆で抑えなきゃいけない(ような人)。マカオでは、叫び声が聞こえて女の人が飛び出してきた時、目の前でベンジンを全身に被って、真っ黒焦げになって倒れるまで、妻は撮り続けた。逆に自分は、どんな事件にあっても、撮らないようにしている。(妻は主人公と同じように)自分の道具を手に取ると、無意識に撮る。
ある時は、昼のっていたバスが夜に爆発するとか、ちょっとの差で飛行機が落ちたりとか、そういうシーンに遭遇したら動物的な反応で撮るのは妻と同じ。
まほさん:映画に抵抗があった。これから死ぬ人を撮るというところが。ただ、報道カメラマンはドライなイメージだったが、主人公が「行っちゃダメ」など感情が入ったりするシーンがあり、こういった気持がリアルなのかなと思えた。
伸三さん:この人が女性で子供がいるからそう思うのかもしれない。ベトナム戦争の枯葉剤で障害を持って生まれてきた赤ちゃんの写真を見た時、(男の自分やその撮影者は)仕事としてその写真を見ていたが、妻は凄く落ち込んでいた。
主人公は自分のやっていくことへの矛盾も含まれている。自己批判が含まれているのは、ヨーロッパ映画では珍しい。凄く良心的だと思った。
ああいう仕事をしている人の夫なら、あんなに反対しないし、むしろ現実はもっと悲惨だと思う。お母さんは死んだもの、とするだろうし、夫婦関係が続かない。

主人公の夫が自然を大事にする考えは、妻の仕事を否定している、という意味合いだと思った。コントラストをつけるための夫の素材だと思う。
まほさん:ラストで主人公は自分に矛盾を感じた時、主人公はつらそうだな、と思った。
伸三さん:写真家は葛藤しながら撮っている。ピュリッツアー賞を取るような人は、良心の呵責なんかなく、持っていたら取れない。いいハートを持っているから、いい仕事ができるわけではない。ハイエナみたいなもの。
まほさん:そういう人もいなくちゃね。
伸三さん:自分の命も含めて、音楽家だって、ヴァイオリン買うために多額のお金がいるし、すべての生活を犠牲にする。人並みでない人は大変。
まほさん:自分はどうですか?
伸三さん:私はラクな人生を選んだよ。警察、軍隊、戦争は撮らない。そういう世界に飛び込むのが嫌。遭遇することはあるが、それは撮らない。面倒くさいから。使命を感じないし、ビビリだし。そういう世界に生きるかは、その人が持っている「何か」だと思う。主人公のレベッカは、どうしようもないから、そうして生きていくしかない、自分の正義を貫くしかない。たぶん、死ぬまで。
まほさん:娘のクライマックスで「自分よりお母さんを必要としている」という言葉があったが、凄く救われる。
お母さんに味方がいなくなるから、味方がいてよかったと。
伸三さん:守る、ということも大事。港というコンディションを整える配慮をした方がいいかも。
仕事は、女性の方のが突進する力が強い。出発力は男性。細かいところまで入って写真を撮るのは女性のが強い。男の頭だけで仕事をすると、大雑把だし、俯瞰図みたいなものばかり。
まほさん:(父と母は)一緒に旅行に行っても、向いている方向が別々。
MC:主人公の娘も絵が上手。表現したいという欲求が主人公の母と同じ。
まほさん:(私も)父のように母を見ている。母の方がストイックで職人。私も戦車を撮らない。
MC:写真に興味を持ったことは?
まほさん:あまりない
伸三さん:私が(主人公の娘の)父なら報道に行かせない。絵を描かせた方がいい。
MC:ご自宅ではいつもこんな会話なんですか?
伸三さん:のんきな人間はいつまでものんき。ストイックな人間はドグマのようにどんどん深みにはまっていく。(夫婦だって)長くいるとウザくなるもの(笑)。ある一定の(被写体の)死の数を超えると、ショックを超えてくる。人の死に対して、どこか冷淡にならなければならなくなる、やってられなくなるから。
まほさん:最後は人間の気持ちがあってよかった。
伸三さん:簡単には取り戻せないと思う。自分の気持ちは自然には変えられない。無意識で撮っているのだから。