映画祭も後半戦に突入した7日目の20日(火)。 “コンペティション”部門では、ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の『ツー・デイズ、ワン・ナイト』と河瀬直美監督の『2つ目の窓』が正式上映。中国のチャン・イーモウ監督の『カミング・ホーム』は特別上映で、“ある視点”部門には、人気俳優ライアン・ゴズリングの初監督作『ロスト・リバー』、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースとフランスの気鋭が共同監督したドキュメンタリー『ザ・ソルト・オブ・ジ・アース』、インド人監督による『ティトゥリ』の3作品が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『ああ結婚』(1964年)と、本年の同部門における名誉招待女優ソフィア・ローレンの実息エドアルド・ポンティが監督し、ソフィア・ローレンの女優復帰作となった25分の『ザ・ヒューマン・ボイス』(2014年)が上映されている。


◆オスカー女優、マリオン・コティヤールを主演に迎えたダルデンヌ兄弟の6度目のコンペ作!

 『ロゼッタ』と『ある子供』で2度のパルムドールを、2008年の『ロルナの祈り』では脚本賞を、2011年の『少年と自転車』ではグランプリを受賞したベルギーの名匠ジャン=ピエール・ダルデンヌ(兄)&リュック・ダルデンヌ(弟)。今回で6度目のコンペ参戦となる『ツー・デイズ、ワン・ナイト』は、タイトル通り、失業の危機に陥ったヒロインの“週末”の涙ぐましい奮闘を描いた社会派ドラマだ。
 理解ある夫の助けを得て仕事を続けていたサンドラ(マリオン・コティヤール)だが、鬱病を患って休職した後、復職しようとする。だが、同時期に社内でリストラ計画が持ち上がり、彼女のリストラに同意する代りに各々1000ユーロのボーナスを受け取るか、それとも彼女の復職に同意してボーナスを放棄するかを、職場の同僚たちが投票することに。結果、多数決で彼女のクビが決まる。だが、投票に不正な圧力が掛けられていたことが判明し……。再投票の実施が週明けの月曜日に決まった金曜の夜から始まる本作の物語は、復職すべく意を決したサンドラが、週末の2日間で同僚たちを訪ねて回り、ボーナスを諦めるよう説得を試みる姿を丁寧に追っていく。実にシンプルな設定ながら人間の心理をシビアに描いた秀作で、様々な人間性を露にする同僚たちの人物像も実に興味深かった。共演はファブリツィオ・ロンギオーヌ、オリヴィエ・グルメ、カトリーヌ・サレ、クリステル・コルニルら。

 朝8時半からの上映に続き、11時から始まった公式記者会見には、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督とプロデューサー、そしてマリオン・コティヤールとファブリツィオ・ロンギオーヌ(夫役)が登壇。
 兄弟で行う映画製作について「全てを兄弟2人でやるんだ。とにかく話し合う。共同で執筆する脚本においても、第一稿を読んで意見を出し合い、その後ラインプロデューサーを加えて推敲していく」というジャン=ピエール・ダルデンヌ監督は、本作で「サンドラが体験することになる社会連帯と、夫の支えが彼女をどう変えたかを描きたいと思った」とコメントし、リュック・ダルデンヌ監督も「今日でもまだ、社会連帯の概念は生きていて、それは可能だと思ってるからね」と補足した。
 映画に出ずっぱりで、ほぼスッピン状態&普段着姿で焦燥したヒロインの心情を繊細に演じたマリオン・コティヤールは、スペインの人気女優ペネロペ・クルスが『赤いアモーレ』で肉体的にキツイ役に挑み、素晴らしい演技を披露したことを引き合いに出し、「アクションもコメディも好きなの。女優として色々な役を演じられて嬉しいわ」と語り、本作での即興演技は全くなくかったと明かした。また、兄弟監督の映画は実にファンダメンタルだと述べたファブリツィオ・ロンギオーヌは、何度も繰り返して行われたリハーサルの重要性についてにも言及した。


◆河瀬直美監督の4度目のコンペ作『2つ目の窓』では主要キャスト5人もカンヌ入り!

 『2つ目の窓』(7月26日より日本公開)の舞台は、琉球列島の北端に位置する自然豊かな奄美大島だ。
 この島に暮らす界人(村上虹郎)と杏子(吉永淳)は高校の同級生で、ともに16歳。杏子の母親(松田美由紀)はユタ神様として島の人々の相談にのっていたが、今は大病を患い、余命宣告を受けた身だ。界人は母親(渡辺真起子)の異性関係を穢らわしく思い、東京で暮らす父親(村上淳)に会いにいくが、台風が直撃中の島に戻ると母親が失踪しており…。思春期の少年少女の成長と彼らを取り巻く人々の人間模様を幻想的な水中シーンを始めとする際立った自然描写と共に描写した作品で、常田富士男、榊英雄、杉本哲太らの俳優陣と奄美大島の住人たちが脇を固めている。

 16時半からの正式上映(プレス向け試写は昨夜の19時15分〜と22時〜の2回、上映済み)に先駆け、12時半より本作の公式記者会見が行われた。当初は河瀬直美監督とフレッシュな魅力を放った2人の主演俳優、吉永淳と村上虹郎が登壇しての質疑応答であったが、会見途中で河瀬直美監督が共演者の松田美由紀を壇上にあげて紹介、その後には村上淳と渡辺真起子も登壇し写真撮影の輪に加わった。
 8年前に自身のルーツが奄美大島にあり、曾祖母が島のシャーマン(巫女)的存在だったことを知ったという河瀬直美監督は、「私たちは生まれた瞬間から死ぬ運命にあります。死とは永遠の里帰りなのだと思っています。だからこそ現世を安心のもとに生きていけるのです」と語り、高い技術力(73歳のベテラン撮影監督・山崎裕と編集を担当したフランス人のティナ・バズ両氏の貢献に言及)と強い想いによって成し得た“最高傑作”だと自負していると述べ、パルムドール獲得への強い意気込みを表明した。
 杏子役に抜擢された新進女優の吉永淳は、初のカンヌ入りについて、「まだ実感が湧きません。カンヌは私にとって憧れの地でした。まだその貴重さを知りません。スタッフ全員のおかげで、杏子という人物を生きることが出来ました。スタッフに本当に感謝しています」とコメント。一方、演技初体験の本作で実の父・村上淳との親子共演も果たした村上虹郎は、映画デビューと初のカンヌ入りに対する感想を英語で短くコメントした上で、「自分に起こったことをまだ自問しています。この場にいることは本当に素晴らしいです。撮影はすごく大変で、辛かったですが、今、カンヌにいることを思えば、その価値はありました」と語った。なお、4枚目にアップした写真は、左から村上淳、吉永淳、河瀬直美監督、村上虹郎、松田美由紀、渡辺真起子。
(記事構成:Y. KIKKA)