第67回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2014】5
映画祭4日目の17日(土)。“コンペティション”部門では、フランスのベルトラン・ボネロ監督の『サンローラン』とアルゼンチンのダミアン・ジフロン監督の『ワイルド・テイルズ』が正式上映。“ある視点”部門で3作品、そして招待作品2本が上映された他、“カンヌ・クラシック”部門には、フランソワ・トリュフォー監督作『終電車』(1980年)、フランク・キャプラ監督の『失はれた地平線』(1937年)、レイモン・ベルナール監督の『ザ・ウッデン・クロセス』(1932年)の3作品が登場!
◆『メゾン ある娼館の記憶』で知られるベルトラン・ボネロ監督の3度目のコンペ参戦作『サンローラン』!
『サンローラン』は、フランスが世界に誇る伝説的なファッションデザイナー、イヴ・サン=ローラン(1936年8月1日〜2008年6月1日)が、“モードの帝王”として絶頂を極め始めた1965年から1976年までを物語の核にして描いた伝記映画で、華やかな活躍の裏側で、ドラッグとアルコールに依存して苦しんでいたサン=ローランの影の部分がリアルに表現されている。
タイトルロールは『ハンニバル・ライジング』のギャスパー・ウリエル。共演にジェレミー・レニエ(公私に渡るパートナーとしてサン=ローランを支えた実業家ピエール・ベルジェ役)、レア・セドゥ(公爵令嬢でモデルのルル・ド・ラ・ファレーズ役)、ルイ・ガレル(ダンディで名高いフランス貴族役)ら、フランスの人気若手俳優が集結したことも大きな話題となっている作品だが、個人的には往年の美男俳優&美人女優、ヘルムート・バーガーとドミニク・サンダの登場シーンが印象深かった。
朝の8時半からの上映に続き、11時半から行われた本作の公式記者会見には、ベルトラン・ボネロ監督、共同脚本家のトーマス・ビドガン、プロデューサー2名、そして俳優陣のギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、レア・セドゥ、アミラ・カザール、エムリン・ヴァラドゥが登壇した。
自ら脚本も手掛け、雑誌社の記者役でカメオ出演もしているベルトラン・ボネロ監督は、「拘ったことは35mmフィルムで撮影すること。デジタルでは表現できない優しさや豊かなテクスチャーを出せからね。そして照明や編集など全てにおいてコントラストをつけようと意図したんだ」と語り、路上で撮られた有名な広告写真の撮影シーンの演出(著名写真家ヘルムート・ニュートンの指示する声だけが聞こえる)にも言及した。
タイトルロールを熱演し、劇中でフルヌードも披露したギャスパー・ウリエルは「俳優は新しい作品のたびに、自分の限界に挑戦するものだと思っている。なので裸になることには、あまり抵抗はなかった」と述べたが、同性愛の側面を描くために、恋人役の男性と演じたキスシーンに関しては「経験がなかったから、裸になることよりもずっと動揺したよ」と打ち明けた。また、凝ったメイクで果敢にベルジェ役に挑んだジェレミー・レニエは、「僕の仕事はギャスパーが演じるのを観察し、奨励することだった。彼がイヴになっていくのを目の当たりにしたよ」とコメント。
◆気鋭監督の初参戦作『ワイルド・テイルズ』は、実に個性的かつ過激なオムニバス・ムービー!
夜の正式上映に先立ち、13時から『ワイルド・テイルズ』の公式記者会見が行われた。アルゼンチン生まれの38歳の気鋭監督ダミアン・ジフロンが、スティーヴン・スピルバーグ監督のTVドラマシリーズ「世にも不思議なアメージング・ストーリー」にオマージュを捧げて撮ったというアルゼンチン・スペイン合作の本作は、ブラックかつシニカルな6つの物語で構成したオムニバスのバイオレンス・コメディで、昨夜のプレス向け上映では大爆笑と喝采が巻き起こった快作(怪作!? )だ。
様々な野生動物のアグレッシブな表情を捉えたオープニングのタイトルバックから既に才気の迸りをビンビンと感じさせる出来で、続く6つのエピソードも実に強烈だった。
公式記者会見には、ダミアン・ジフロン監督と製作者2人、出演俳優のリカルド・ダリン、オスカル・マルティネス、レオナルド・スバラグリア、エリカ・リヴァス、マリア・マルルが登壇、作品と同様にユーモラスな返答が続いた。
実に饒舌なダミアン・ジフロン監督は素性を問われるや、「父方がポーランド系でね、ナチスを逃れてイタリアに渡った後、イスラエルに移り……」とアルゼンチンへ辿り着くまでの変遷を猛烈なマシンガントークで披露!
本作の脚本も自ら手掛けたジフロン監督は、エピソード数について「最初の構想での数はもっと多く、正確には12の物語があったんだ。最終的には、よりワイルドな6話を選び出し、それが作品のタイトルにもなった。順番に関しては、ジェットコースターで興奮が高まっていくような順番に並べたつもりなんだけど、実際はチャンとした理由はないんだよ」とコメント。
だが、アドリブはほとんどなく、セリフについては一言一句非常に厳格だったというジフロン監督について、高級車を転がし、壮絶な運命が待ち受けている男を演じた人気俳優のレオナルド・スバラグリアは「まるで、オーケストラの指揮者のようだったよ」と評した。
その後、22時から行われた正式上映“ソワレ”のレッドカーペットには、公式記者会見には出席しなかったスペインの鬼才監督ペドロ・アルモドバル(弟のアグスティンと共に設立した製作会社で本作を製作)も登場し、大歓声を浴びていた。
(記事構成:Y. KIKKA)