映画祭3日目の16日(金)も快晴! “コンペティション”部門では、カナダのアトム・エゴヤン監督の『ザ・キャプティヴ』とトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作『ウィンター・スリープ』が正式上映。招待部門では大ヒットした3Dアニメ『ヒックとドラゴン』の続編など3本を上映。“ある視点”部門には、フランスの人気俳優マチュー・アマルリックが監督した『ザ・ブルー・ルーム』、オーストリアのジェシカ・ハウスナー監督の『アモーレ・フォウ』が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、キン・フー監督の『残酷ドラゴン 血斗!竜門の宿』(1967年)とマルセル・カルネ監督の『陽は昇る』(1939年)、そしてドキュメンタリー1本が上映されている。


◆カンヌの常連監督アトム・エゴヤンの『ザ・キャプティヴ』は、少女拉致誘拐事件を描いた人間ドラマ!

 ラッセル・バンクスの小説「この世を離れて」をアトム・エゴヤン監督自らが脚色して映画化し、グランプリを受賞した『スイート ヒアアフター』(1997年)から17年。鬼才監督の6度目のコンペ参戦となる『ザ・キャプティヴ』が朝の8時半から“リュミエール”で上映された。
 厳寒のカナダ、オンタリオ州。父親(ライアン・レイノルズ)が厚い雪に覆われたダイナーで買い物をしている隙に、駐車場に止めていた車の後部座席で待っていたはずの9歳の娘が忽然と姿を消した。警察が懸命に捜索するも、娘の安否はようとして知れず、ただただ時が過ぎ、残された家族や周囲の人々の間に軋轢を生んでいく。だが、事件から8年後、娘の生存を示す証拠が出てきたことで……。娘の失踪後に生じる両親の間の亀裂や、他者依存などの心理面など、被害者家族と警察官たちの長年に渡る苦悩を描写した痛ましいドラマで、『スイート ヒアアフター』に通じる悲劇を扱った意欲作なのだが、本作上映後の会場の反応はいま一つで、ブーイングと拍手が半々であった。

 11時から行われた公式記者会見にはアトム・エゴヤン監督と脚本家のデイヴィッド・フレーザー、プロデューサー、そして主要キャストのライアン・レイノルズ、ロザリオ・ドーソン、スコット・スピードマン、ミレイユ・イーノス、ケヴィン・デュランドが登壇した。
 作品の製作経緯を問われたアトム・エゴヤン監督は「カナダの西海岸にいた時に作品のアイデアが浮かんだんだ。実は、ある少年が近所の公園で行方不明になっていてね。公園には、ずっと尋ね人のポスターが貼られたままで、何年も前から行方が判らず探され続けていた。で、この悲劇的な事件のことが頭の中をぐるぐる廻って離れなくてね、それが本作のストーリーへと繋がっていったわけなんだ」とコメント。
 これまでのイメージを本作で覆し、地味な父親役を熱演したライアン・レイノルズは、「脚本を読んで、同種の悲劇的な事件について書かれた大量の記事を読みあさり、出来る限りの情報を集めたよ。それらの事件は大概、家族崩壊という結果を招き、特に両親の仲が拗れることを思い知らされたね。実は、僕の兄弟がカナダの警察で、これらの被害者を支援する部署にいるんだ。そんなこともあり、この信じがたい物語にはとても心を動かされたよ」と語った。


◆今年の“ある視点”部門には人気俳優が監督を務めた注目作が続々登場!

 ドビュッシー・ホールを上映会場とする“ある視点”部門だが、今年は人気俳優の監督作3本が登場する。
 トップバッターは、毎年のように出演作が複数カンヌで上映されているフランスの売れっ子俳優で、国際的にも活躍するマチュー・アマルリックだ。11時と17時の2度上映された『ザ・ブルー・ルーム』は長編監督4作目だが、コンペ部門に選出された前作『さすらいの女神たち』(2010年)で監督賞を受賞している実力派監督である(元々、彼は監督志望で、ルイ・マル監督作の助監督を務めた経験もある)。
 そんな彼の3年振りの監督作となる『ザ・ブルー・ルーム』は、推理小説「メグレ警視」シリーズで有名な作家ジョルジュ・シムノンの「青の寝室 激情に憑かれた愛人たち」を自ら脚色&主演し、スタンダードサイズで映画化した76分の中編で、終盤に流れるピアノ曲がとても印象に残るスリラーだ。
 ジュリアンとデルフィーヌはともに伴侶のある身ながら愛人関係にあり、ホテルの青い部屋で情事を重ねていた。だが、それぞれの配偶者の死体が相次いで発見され、容疑者として逮捕されたジュリアンは激しく責め立てられた末……。マチュー・アマルリックは本作で事件の当事者でありながら、事件に巻き込まれてしまった感を漂わせる主人公ジュリアンを全裸を厭わずに熱演。愛人役でステファニー・クレオ(アマルリックの現在の恋人で、本作も共同で脚色!)が、妻役でレア・ドリュッケールが共演している。17時の回の上映前に舞台挨拶をしたマチュー・アマルリックは、登壇した共演者たちをにこやかに紹介した。
 なお、ハリウッドで活躍するカナダ出身の人気男優ライアン・ゴズリングの初監督作『ロスト・リバー』は20日(火)に、イタリアの女優アーシア・アルジェント(ホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントの愛娘)の監督作『ミスアンダーストゥッド』は22日(木)に、それぞれ正式上映される予定だ。
(記事構成:Y. KIKKA)