映画祭2日目の15日(木)。朝晩は冷え込んだものの快晴となった本日、“コンペティション”部門で正式上映されたのは、イギリスのマイク・リー監督の『ミスター・ターナー』と、アフリカのモーリタニアのアブデラフマン・シサコ監督の『ティンブクトゥ』の2作品。“カンヌ・クラシック”部門には、大島渚監督の『青春残酷物語』(1960年)、ジャン=クロード・ローゾン監督の『レオロ』(1992年)、クシシュトフ・キェシロフスキ監督監督の『偶然』(1981年)が登場。
 映画祭の公式部門第2カテゴリーである“ある視点”も開幕し、19時15分(現地時間)から上映会場のドビュッシー・ホールでオープニング・セレモニーが行われた。また、映画祭の併行部門(主催団体が異なる)の“監督週間”と“批評家週間”も本日、開幕!


◆名匠マイク・リー監督の『ミスター・ターナー』は19世紀前半に活躍した風景画家の伝記映画! 

 1993年の『ネイキッド』で監督賞&男優賞(デヴィッド・シューリス)の二冠に輝き、1996年の『秘密と嘘』でパルムドールを受賞、さらには2004年の『ヴェラ・ドレイク』でヴェネツィア映画祭をも制して金獅子賞に輝いたマイク・リー監督のコンペ出品作『ミスター・ターナー』は、英国最大の風景画家の一人で、ロマン主義を代表する巨匠ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775年〜1851年)の後半生の25年間を描いた伝記映画。
 独特な画風が画壇で高く評価され、ロイヤル・アカデミーの教授にまで登り詰めたものの、放埓な日々を送ったターナーの素顔に迫った本作は、ターナーの絵画から着想を得たという美術や光彩が実に秀逸で、趣向を凝らしたオープング&ラスト・クレジットの映像も素晴らしい重厚作だ。タイトルロールを演じたのはイギリスの個性派俳優ティモシー・スポール。日本でも『ハリー・ポッター』シリーズのピーター・ペティグリュー役や『ラスト・サムライ』などでお馴染みの名優で、マイク・リー作品の常連である。
 朝の8時半からの上映に続き、11時半から行われた本作の公式記者会見には、マイク・リー監督、主演のティモシー・スポールの他、共演した2女優マリオン・ベイリーとドロシー・アトキンソン、撮影監督のディック・ポープ、そしてプロデューサーが登壇した。
 本作の構想に10年、リハーサルに6ヶ月を費やしたというマイク・リー監督は、ターナーについて「偉大で崇高で過激な画家だよ。興味深い内容にできたのは、これほどまでに魅惑的な男の人生を取り上げたから。監督はテーマに対して感情移入しなきゃならないんだが、彼の過酷な人生には共感を覚えたよ」と述べた上で、「リサーチにも力を注いだし、素晴らしい参考資料も入手したけれど、これまでの私の作品と同様に、本作にも台本はないんだよ」とコメント。
 精神に異常をきたした母親と惨めな人生を歩んだ父親を持ちながらも芸術に邁進し、死ぬまで絵画に対する情熱を失わなかった巨匠画家を熱演したティモシー・スポールは、役作りについて「スクリーンの上で滑稽に見えないよう2年をかけて、デッサンと絵画を学んだよ。で、画家の心の動きをじっくりと考察した。ターナーと母親との関係は彼の心の傷となり、感情的には機能障害に陥っていたらしい。とりわけ女性関係において、彼には問題が多かったんだ」とコメント。また撮影監督のディック・ポープは美しい映像について「我々は素晴らしい光をコーンウォールで見つけました。夏のことで、そこは作品にうってつけの光彩に包まれていたんです」と語った。


◆“カンヌ・クラシック”部門の開幕を飾ったのは、大島渚監督の『青春残酷物語』のデジタル修正版!

 過去の名作の再発見、修復された偉大な作品のお披露目などを目的とし、2004年に設置された“カンヌ・クラシック”部門は、文化遺産としての“映画”のショーケースとなっており、一昨年は木下惠介監督の『楢山節考』が、昨年は小津安二郎監督の『秋刀魚の味』が上映されて好評を得ている。そして今年は大島渚監督の『青春残酷物語』をフル4K(4Kスキャン、4K修復、4KDCP)でデジタル化した復刻版のワールド・プレミア上映が、15時からパレ・デ・フェスティバル内にある中規模上映会場ブニュエルで行われた。
 本作は大島渚が脚本&監督を担い、松竹大船撮影所のいわゆる“大船調”に真っ向から反撥して撮った青春映画で、当時大ヒットを記録。“松竹ヌーヴェル・ヴァーグ”という言葉を生みだした大島監督の長編第2作目で、出演は桑野みゆき、川津祐介、久我美子、渡辺文雄、田中晋二ら。
 この復刻版の上映時には、本映画祭ディレクターのティエリー・フレモーの挨拶に続き、世界的映画プロデューサーのジェレミー・トーマス(1983年の大島監督作『戦場のメリークリスマス』を製作)と、今年のコンペ審査員の一人で、大島映画を敬愛する中国の映画監督ジャ・ジャンクーが登壇。短い時間ながらも、ともに大島渚監督と『青春残酷物語』に対する想いを語った。なお、4枚目にアップされている写真は、本作の上映前の14時からジャ・ジャンクー監督とジェレミー・トーマスが行った日本人記者向け懇談会の時のもの。
(記事構成:Y. KIKKA)