■映画の中で食事が印象的に出てきますね

岩浪:僕も亜由美さんも飲むのも食べるのも大好きで、東京でも札幌でも夜な夜な美味しいものを食べたり飲んだりしながら企画を作っていくというところはあります。ただ、前回の『しあわせのパン』もそうなんです
がある種の嘘はつかずにやっていこうという思いがありまして、出てきてる料理に使われている食材は全部道産です。しかも、地元の生産者さんの元に足を運んでこの映画の経緯や思いを伝えて分けてもらったものです。チラシにも載っているんですが、安藤裕子さんが持っているトウモロコシ、見て頂くと皆さんが知っているトウモロコシより細長いんですね。空知の三笠市にある原種のトウモロコシで八列とうきびというトウモロコシです。実が八列しかないとうきびなんですね。これは映画が空知を舞台にするならぜひ入れたいということで、撮影をした去年の9月がちょうど収穫が終わった時期でなかなかなくて手に入れるのに苦労しました。原種って結構北海道にあるんですよね。出てくるカボチャもまさかりカボチャだったり。他にもポトフに入っているソーセージもエゾジカのソーセージだったりとか、地元の食材で作っています。

岩倉:とにかく全部おいしそうなんですよ。トウモロコシも蒸し焼きで皮をむくと綺麗な黄色が出てきて。羊の肉も骨付きのまま焼いているんですけど本当においしそう。あと豚肉を切るシーンも。

岩浪:役者たちは演技が終わると本当に食べられるので、ある役者さんはすごく太って帰ったりしてますね(笑)

岩倉:東京でやるのは本当に難しいですが、北海道は海もあるし山もあるし、放牧している牛とか羊とかを食べられるというのはある意味うらやましいというところがありますね。

■やっぱり北海道のワインといっしょにいただくのが美味しいですか

岩倉:1番最高なのは畑を眺めながらその畑で育ったワインを飲むという映画のような感じが理想だと思いますが、同じ土壌同じ水で育ったものというのはどこか共通点があると思います。北海道のワインもそうですが無理なことはしない、ぶどうに逆らったことをしている人っていうのが本当に少ないのでやはり優しいあじわいになっていると思いますしその土地で育てられているお肉とかも優しい味をしていると思います。合わせるとわかると思うのでうんちくなどなくシンプルに土地のワインと食べ物をいっしょにいただくのがよいと思い
ます。

岩浪:羊は東京では独特の匂いがあるイメージありますが北海道で食べるとそんなことないんですよね。映画の中にラムチョップも出てきますし。ある意味で映画自体も地産地消の1つというとらえ方で北海道で作っているという思いもありまして、それも含めてテロワール(気候と土壌)的なものになるといいなという思いがあります。

岩倉:すごく印象的なシーンがあって、みずならの樽っていうのが出てくるんですね。北海道に原生している
木なんですけど、それをワインの樽にするというシーンがあります。本来私たちが知っているのはフレンチオ
ークという木の樽で熟成させて作るんです。映画の中で日本のみずならの木で樽を作ることにより複雑味が出てピノ・ノワールが変身していくシーンがあります。日本でも実際みずならの木で樽を作っている人はいるんですが、まだ私もみずならの木の樽で熟成されたピノ・ノワールは飲んだことないです。もし、そのシーンのように実現したら面白いなと思いました。

▼以下質疑応答

■みずならの木の樽は三島監督のアイデアですか?

岩浪:先ほどの話にもありましたが水がそろっていると相性がいいという話を現場で聞きまして、映画の中では空知で育ったみずならという設定なので、空知で育ったみずならと空知で育ったぶどうで美味しいワインをつくってねというイメージであのシーンになりました。そういう元ネタがあり監督とみんなでアイデアを出し
ました。

■ワインのおいしさを決める構成要素はなんだと思いますが?

岩倉:なかなか難しいですね。よく言われるのは先ほどテロワール(気候と土壌)とかですが、私はワインと
いうのは人の力が加わるものだと思っています。山?さんのワインを飲むと″酸“というものを感じるんです
ね。そしてそこに意志を持って作っているというのが感じられるんです。そうすると品種というものが関係な
くなり、その人がどんな思いで作っているかでぶどうもワインもすごく変わると思います。だから人がすごく
影響すると思います。

■トマトソース以外でピノ・ノワールに合うもの

岩倉:ピノ・ノワールにはチャーミングな酸味があって味覚を刺激するような味わいです。それがトマトと合
うと思ってお店ではドライトマトといっしょに飲んでいただいたりするんですね。ピノ・ノワールのもう1つ
の特徴は力強さです。どうしても、最初の飲み口は樽の香りがぶわっとついていて果実が出にくい、酸が出ても果実が出にくいというのがあります。そういうときにいつも試すのが珈琲塩というものですね。コーヒーの
豆をすごく細かくすり潰してそこに塩を混ぜるんです。それをなめてワインを飲むと酸味と樽の香りが抑えら
れて、そのワインの果実がよく出てくることがあります。100%ではないんですけど。

■さきほどの食材の話ではないが安いものと地産地消にこだわったものの2極化が進んでいることをどう思うか

岩浪:そんなに難しいことは考えていなくて、映画で地産地消をやりたいと思ったので食材にこだわったんで
す。なかなかあり得ないんですが、究極な話北海道内だけでも映画がビジネスとして成立すればよいなと思っています。北海道産の映画を東京でやるというイメージです。最近ご当地映画というのがよくありますが、大半がロケ地というだけです。それとは違いオール北海道で0から立ち上げるという思いでやっています。そういう意味では自分たちだけでなくて他の皆さんが同じ思いで北海道での映画作りをしてもらえればいいと思います。

■北海道のワインはなかなか手に入りずらいですが、どうすればよいですか。

岩倉:まだ本数が少ないんですよね。私が“日本ワイン”を始めた8年前はまだ売れ残りを集めるような状況でした。そんなワインたちが今やシンデレラワインになってしまいました。皆が手に入れようとやっきになっ
ています。私はワインを作っている人も飲む人も皆幸せになるのが理想だと思います。そのためには独り占めして飲むのではなくみんなでわけあって飲むのがよいと思います。少しの量でもみんなで楽しめば幸せは広がっていきます!