日本ソムリエ協会認定ソムリエであり、日本ワイン人気の裾野を広げてきた第一人者でもある岩倉久恵氏と大ヒット上映中の映画『ぶどうのなみだ』のプロデューサー 岩浪泰幸のトークイベント。映画『ぶどうのなみだ』の舞台となった空知のワインを試飲しながら映画の成り立ちや今注目を集めている北海道産ワインに関する話で盛り上がりました!

日時:10月16日(木)18:30開演 / 18:10〜マスコミ受付
場所:代官山T-SITE 蔦屋書店(東京都渋谷区猿楽町17-5)

ゲスト:岩倉久恵、映画『ぶどうのなみだ』プロデューサー岩浪泰幸

■北海道を舞台にした映画で「ワイン」を題材にした理由

岩浪:『しあわせのパン』と同じく企画の鈴井亜由美さんと企画しました。『しあわせのパン』のときは北海
道産の小麦粉を使った“パン”を題材にしました。当時、道内ではすでにパンカフェがブームになっていたん
です。その撮影時に映画本編でも登場している月浦ワイナリーに出会い、そのおいしさに驚きました。ちょうど北海道産のワインが力をつけてきている時期で、ちょうどそれ以前に亜由美さんが映画のモデルになった山?ワイナリーさんと出会っていたこともきっかけになり「次は道産ワインをやりたいね」と話すようになりま
した。そして、三島監督とプロデューサー陣で山?ワイナリーさんに取材に行き、東京に戻ってきて映画の内容を詰めていたときに、(プロデュースの)森谷さんが「東京でも北海道のワインが飲める店があるからそこで打ち合わせをしよう」と言って(笑)岩倉さんのお店をご紹介いただきました。お店で飲んだり・食べたり
しながら企画を詰めているときに、岩倉さんからもワインやぶどうの品種の話を聞いて脚本に落とし込んだりしていきました。

■岩倉さんはそんな『ぶどうのなみだ』を実際にご覧になっていかがでしたか?

岩倉:私は2回観させていただいたんですが、ほんとうに色が美しいと思いました。土の茶色、空の青、ぶど
うの木の緑、そしてアオの青い衣装、エリカの赤い衣装、ロクの白い衣装がとても美しいです。北海道をそのまま写したようだと思いました。

■映画の中で描かれていたワイン製造者に関して、思うところはありましたか?

岩倉:(映画のモデルになった)山?ワイナリーは家族5人で経営しているワイナリーです。私が7年前初めて畑にお邪魔した時、雨の中お父様が案内してくださいました。ワイナリーが閉まっている寒い時期だったのですがお母さまもご丁寧に対応してくださいました。その後東京でのワインの勉強会で息子さんとご一緒して恋バナを聞いたりして(笑)、ああ彼らもあのワイン畑の中でいろいろなことを考えながら生きているんだなと思ったりしました。ワインを頼むといつもお母さまが一言メモを添えてくださったり心遣いが素晴らしいんです。ボトルのラベルには5枚の花弁があしらわれているんですけど、「家族でやっていくんだ」という覚悟を
感じます。そんな山?ワイナリーさんの姿が映画の物語の中にもうまくアレンジされていました。

■今日試飲していただいたワインに関して

岩倉:今日皆さんに飲んでいただいているのは「ピノグリ」という品種です。映画に出てくる「ピノノワール
」から派生した品種ですごく繊細でフレッシュで香りが豊かです。

■国産ワインと日本ワインの違い

岩倉:日本で醸造・瓶詰されたワインはすべて国産ワインになります。一方、日本で栽培された生のブドウを醸蔵したものを“日本ワイン”と言って、私も応援しているんですけど、なんとなく使い分けています。国産ワインの中でも20%、日本で流通しているワインの中だと3〜4%しかありません。

■北海道には“日本ワイン”の作り手が多いんですか?

岩浪:映画の舞台にもなった空知地方には特に多いと思います。山?ワイナリーや映画のロケ地として貸していただいた宝水ワイナリーも空知ですし。

岩倉:NAKAZAWAヴィンヤード、KONDO、TAKIZAWA、10R(トワール)など。元々炭鉱だった土地がワイナリーへと姿を変えています。そのほかの地域ですと今話題になっている余市、余市は果物の産地として有名なところでもあります。あとは先ほども出た月浦や奥尻などもあります。

■北海道のワイナリーの特徴

岩倉:とにかく畑の大きさが広大です。外国にいるみたいに感じるまさに夢の世界です。フランスにいるイメ
ージですよね。

岩浪:空知のぶどう畑を見てその美しさを「この景色を映画にして皆さんに届けたい」と思ったんです。

■岩倉さんが注目しているワインの作り手の方を教えてください。

岩倉:ブルース・ガットラブさんです。彼は栃木県のココ・ファームでブドウの栽培担当をしていたんですが
、栽培するだけでなくワインづくりをするためにトワールをはじめました。北海道のぶどうを育てている人た
ちの委託醸造も行っているんです。そこの人たちは体調の悪い人がいたら自分の畑作業を休みにしてその人の畑を手伝ったり、近隣のぶどう農家同士が助け合いながらワインを作っているんです。そんな空知の中でも山?ワイナリーさんは日本で初めて100%ドメーヌ(自分の畑で作ったぶどうだけでワインを作る)を行おうとした画期的なワイナリーですが、空知は炭鉱に代わる産業をということで行政が後押しをしていたワイン造りが“町おこし”になっているという側面もあります。

■ぶどうと日本の土地との相性はどうなんですか

岩浪:なんかワインの専門家みたいになっていますが…(笑)。空知は北海道の中でも豪雪地帯なんですが、世界的に見ても豪雪地帯のワイナリーというのは稀なんです。冬になるとぶどうの木を雪の中にあえて埋もれさせます。これは世界にもないやり方だそうです。先ほどのブルースのようにこの土地に可能性を感じて移住してきた人もいます。春先雪解けの頃にぶどうの木は雪解け水をぐんぐん吸収して、剪定されたぶどうの木の枝からしずくが落ちるんです。そのしずくが「ぶどうのなみだ」と言われていて今回の映画のタイトルにもなりました。

■ほかにこの映画の作り手だから知っている豆知識はあったりしますか?

岩浪:先ほどもありましたが空知は昔炭鉱で栄えていた地域で、みなさんもよくご存じの夕張が極端な例で炭鉱がダメになり市が破綻してしまったほどです。だから北海道の皆さんは自虐的に「空知=カラチ」なんて言っていたりするんです。そんな中で空知の新たらしいあり方としてみなさんがワインに力を入れています。昔石炭が黒いダイヤと言われていましたが、これからはワインがひいてはピノ・ノアールが黒いダイヤになると言っていました。それもあって映画ではピノ・ノワールを使っているんです。とにかく空知では行政も含めてワインを盛り上げようとしている最中ですね。

岩倉:映画を見て頂くとピノ・ノワールが出てくるんですけど、昔、石炭が黒いダイヤと呼ばれこれをとれば
すべてお金に変わるとみんなが思っていました。ピノ・ノワールはちょっと違うと思うんです。見えないダイ
ヤでみんなが夢を追い求めている。もしかしたらこれによって財産を食いつぶすかもしれない。方や、すごい
ものになるかもしれないっていう憂いを持っている気がします。それなのにどうしても人を惹きつけるものが
あって、飲む方も育てる方もピノ・ノワールに夢を持って追い求めてしまう傾向があります。それが物語にも
出ていると思います。すごい夢がありながら怖いぶどうです。

■空知にはもともとそこに住んでいた人と移住してきた人両方いらっしゃるんですね。

岩浪:山?や宝水は元々空知に住んで農業をやっていた人たちですね。山?さんの家は元々農家をやっていていろいろ悩んでいたときにある意味での天命というか、出会いがあってぶどうの栽培を始めそうです。息子さんたちに話を聞くと本当に当時はビックリしたし家族会議が毎晩繰り広げられたようです。さきほど言った中澤さんとかは移住組だそうです。

岩倉:そうですね。元々東京でサラリーマンをされていて農業をしたいと思って移り住んで、最初は違うとこ
ろで修業をしていたんですがやはりぶどうは自分で作らなければいけないなと思って岩見沢に土地を買ったところがスタートです。近藤さんもそうですね。

岩浪:そういう意味では移住組と元々住んでいる人たちが良いバランスでいるのかもしれないです。余市のドメーヌタカヒコさんも移住ですよね。

岩倉:そうですね。最初はブルースさんの畑にいましたが余市で畑をやっていて。元々長野の小布施ワイナリーの次男の方なんですが兄弟とは違う畑を持ちたいピノ・ノワールにこだわって栽培したいということで余市に移り住んで今まさに自営のナナツモリという畑のピノ・ノワールがリリースになってもう完売しました。北海道はやはり土地が買えるということで移住しやすさもあったと思います。