8月2日、十三・第七藝術劇場にて『マリアの乳房』の関西公開初日舞台挨拶が行われた。
『ヘブンズ・ストーリー』(11)で映画祭国際批評家連盟賞&最優秀アジア映画賞を受賞し、常に新作が注目される瀬々敬久監督と、『フィギュアなあなた』(13/石井隆監督)、『裸のいとこ』(13/大鶴義丹監督)、『パズル』(14/内藤瑛亮監督)などで活躍される佐々木心音さんが来館。

 第七藝術劇場には作品公開の度に舞台挨拶で訪れる瀬々監督。
「今日はありがとうございました。僕はこのナナゲイが意外と大好きな映画館なのでここで上映させてもらえることを嬉しく思っております」
と挨拶した。

●作品の背景について
━━━━━━━━━━
 『マリアの乳房』は新しい「LOVE」の形を6人の監督が描くレジェンド・ピクチャーズ製作の“ラブストーリーズ ”の第1作目。瀬々監督はレジェンド・ピクチャーズの前シリーズ“Love and Eros”でも『愛するとき、愛されるとき』(10)を監督。
2000年には小島聖さん、千原浩史さん主演の『HYSTERIC』を監督している。
「エロスなんだけど、題材を一つ自由に選んで出来るということで作らせてもらった映画です」

●役を演じて・演出して
━━━━━━━━━━━
 低所得者の住む地方都市の一角で売春婦として街角に立つ真生(佐々木心音)。触れた人間の死期が分かる彼女は、彼らの死の恐怖を取り除くため、自ら身体を差し出している。ある日、真生の前にかつて真生から死を予告され自殺した女性の夫・立花(大西信満)が現れる。

 超能力のある売春婦役について佐々木さんは、意外に苦労はなかったと語る。
「 瀬々監督が“そこにいて、そこで感じたままでいいよ”と言って下さったので、そう言う意味では楽にやらせて頂いたのかなと思います」

 佐々木さんについて瀬々監督は、
「キャッチするのが上手いですね。空間に馴染み良くて、この空間だとこういう芝居とすぐに出てくる。大西信満さんが相手ならこうと即座に反応的に出来るというか。
勘がいいというより天性なもので、遠い職業でもすぐにその場に馴染めるのはすごい」
と評価。
「調子乗ります(笑)」
と笑顔を見せる佐々木さん。

 大西さんについて瀬々監督は
「いい意味で不器用な人だと思いました。役になりきろうとは敢えてやらないというか。役を引き寄せる感じ。逆に僕はその不器用な感じが好きでした。
あんまり器用にやられても面白くないんで。そういう意味では素晴らしい役者だなと思います」

 複雑な関係から大西さん演じる立花に徐々に惹かれていく役を演じた佐々木さんは、
「大先輩に当たります。ずっとコミニケーションを取ってくださって。外に貼るか中に張るかで“前張り”“中張り”って名前が変わるんだって話をずっとしてましたね(笑)」
と撮影現場を振り返った。

 瀬々監督は佐々木さんの出演作『フィギュアなあなた』に触れ、
「石井隆組では中張りをやらされたと。中張りは石井隆監督の発明じゃないでしょうか?(笑)」

●愛のかたちとは
━━━━━━━━
 “ラブストーリー”と冠しながら、これまでも独特のストーリー展開で社会的問題を基盤にしたエロティック作品を数多く手掛けてきた瀬々監督の作品だけあり、一筋縄ではいかない『マリアの乳房』。どういった形で愛を提示しようと考えたのか?と司会の松村支配人の質問に
「そうね(笑)。僕はピンク映画ばかり撮ってたんであまりラブはなかったんで」
「ピンク映画、ラブはあるでしょう?」
「まあ、ちっちゃいラブしかないですね。作品では大体レイプとかそんなことばっかりで、女の人には本当悪いことしたなと(笑)。
人生懺悔ですよ。懺悔で54歳になりました(笑)」
この返答に場内は爆笑となった。

佐々木さんは真生という役について、
「大西信満さんに会って、初めて人を愛するということを知った女の子。って言う感じでしょうか」

作品の中で中心に観て欲しいところは?という質問に瀬々監督は
「やっぱり佐々木さんのスプーン曲げですね(笑)」
反応に困った松村支配人。
「実際曲げたんですか?どういう風に?」
「CGという超能力で(笑)」と煙に巻いたが、これがまんざら冗談でなかったことはこの後明らかに。

●突然Q&A!
━━━━━━
 この日、場内には同じく“ラブストーリーズ ”の第4作目『妻が恋した夏』を担当したいまおかしんじ監督が来館。瀬々監督は
「あんなところにいまおかしんじ監督がいますね。わざわざ東京からこの映画を観るために(笑)」

 シリーズ4作目のライバルとしていまおか監督に質問を求めたところ
「今回超能力を題材にしようと思ったんですか?」

 超能力は約10年程前に「トーキョー×エロティカ」で題材としている瀬々監督。
「その時、森達也さんのフジテレビ「NONFIX」でのドキュメンタリー番組『職業欄はエスパー』を参考にしたんですね。それが超能力者にも日常生活があるという視点で作られたもので凄く面白くて。
それで最近森さんが『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』(角川書店)という本を出した。この10年がどう変わったかを超能力で描こうという本。オウム真理教と超能力について書かれている。
僕自身もオウム的なことを調べたり、今このご時世で、本当の超能力者というのはどういう感じなのかを考えようと思って作ったんです。そこにラブを重ねてね(笑)」

 整理番号1番の観客に質問権が委ねらた。東京上映も鑑賞し、今回で3回目という大西さんファンの女性は、
「大西さん、街の番人さんたちが人間に見えない。
大西さんの立花は真生ちゃんの良心の呵責を具現化したような感じに見える」と指摘。

「さすが3回目だと観るところが深いね!
途中で出てくる悪の三人組みたいな奴らも神出鬼没の悪魔みたいな感じで描こうと思った。
仰る通り人間じゃない。真生さんの裏側を背負っているというか。
さすが3回見てくれた人は違うな(笑)」
と絶賛。
「大人のグリム童話を目指したんです。
また観に来てくださいね。新しい謎が発見できるかもしれないです」

●今後の作品について
━━━━━━━━━━
 佐々木さんの出演作『裸のいとこ』(大鶴義丹監督)は2013年にナナゲイで上映されている。その時は来館を果たせなったという佐々木さん。
「第七藝術劇場の話はずっと聞いていて」

 瀬々監督が
「悪い噂じゃないの?」
と突っ込みを入れると
「悪くない悪くない(笑)。ずっと来たかったのでやっと来れました」

 今後の出演作については、
「園子温監督の『TOKYO TRIBE』でも脱ぎ倒してますけど、ぜひ観てやってください」

 瀬々監督はWOWOW連続ドラマW『罪人の嘘』(伊藤英明さん主演・全5話)が8月31日から放送となる。
「第一回目は無料なんで観れる人は観てください。僕はCSが見れる環境が全くないんで観れないんですけど(笑)」

 舞台挨拶後は瀬々監督と佐々木さんのサイン会が行われ、ノリの良い佐々木さんの気さくな一面を覗かせていた。
『マリアの乳房』の上映は第七藝術劇場にて8月8日(金)まで。どうぞお見逃しなく!

(Report:デューイ松田)