本日、ドキュメンタリー映画『台湾アイデンティティー』の酒井充子監督、元キネマ旬報編集長の植草信和氏をお招きし、『GF*BF』のトークショーを行いました。

ヤン・ヤーチェ監督の手腕に太鼓判! 同世代・酒井監督から観た『GF*BF』の魅力

日時:6月23日(月) トークイベント20:53〜
場 所:シネマート六本木 スクリーン2
登壇者:酒井充子、植草信和

植草信和(以下植草):日本の学生運動が盛んな時期に育ち経験した身から見ると、日本映画が学生運動をテーマにしてしまうともっと悲惨になりがちなのですが、この映画はある意味ゆるいと言いますか、ユーモアがあってほのぼのとしていて、日本とは違うなと思いましたね。羨ましかったです。

酒井充子(以下酒井):当時の台湾の空気は、やっと台湾に自由が出来て、初めて学生たちが声を上げる事が出来たという時期だと思います。そこに至るまでに38年間の戒厳令があるわけですけれども、その時期を経たからこそあの明るさがあるのかなと思いました。戒厳令下では言論の自由が奪われていて、映画の中にも「学校に危険分子が隠れている」というセリフがあったのに顕著に表れています。50〜60年代に、共産党のスパイだと疑いを掛けられて拷問を受けたり、無実の罪で処刑をされたりした人たちが沢山いました。その世代の人たちの子どもや孫たちがちょうど主人公たちの世代だと思うのですが、映画の中に日本語がところどころ出てくるのも、ファッションとしてというよりも、台湾の脈々と続く歴史の中で残っている日本語なのだと思います。

酒井:実は最初資料をなにも観ないまま映画を観て、監督に対して「この人は同じ世代の人だ!」と何となく感じたのですが、あとで調べてみるとやっぱり2つ年上の同世代で、80〜90年代に青春時代を過ごした方でした。森進一さんの「港町ブルース」の台湾版が映画の中で使われていますが、あの曲は台湾で大ヒットして、日本の曲だとは知らない人も多いそうです。カラオケなどでもよく歌われてすごく慕われている歌だと聞いた事があります。

植草:僕はホウ・シャオシェンの『悲情城市』が公開されたときに初めて台湾に行って、初めて台湾の空気を吸って、台湾という国を知ったのですが、酒井さんの場合はいかがですか?

酒井:私も初めて見た台湾映画は『悲情城市』でした。色んな人の話を聞いて、自分なりに勉強したので今となってはとっても良く理解できるのですが、当時学生時代に日比谷シャンテで観た時には、この映画で描かれている事が全く分からなくてポカンとしてしまった記憶があります。その後色々と台湾映画を観ましたが、一番印象に残っているのは、ツァイ・ミンリャン監督の『愛情萬歳』です。この映画の中で描かれている台北がとても魅力的で、台湾に行くきっかけをくれた作品ですね。

植草:主人公たちの三角関係もすごく素敵でしたね。

酒井:いや〜切ないですよね…。私は双子を育てる忠良(チョンリャン)に一番感情移入して観ていました。役者さんも本当に素敵で、大人になった彼の佇まいも良かったです。彼を観ていると切なくて…。グイ・ルンメイも『藍色夏恋』という素晴らしい作品がありますが、その頃から変わらなくて凄い女優さんだと思います。

植草:冒頭に双子が出てきて、父親が学校に呼び出されて、その後彼の高校時代になってという展開がミステリアスで、最後まで話の面白さで引っぱっていましたね。演出力が凄くあるなと思いました。

酒井:舞台が高雄から台北にと移っていくのですが、高雄のあの緑が濃い感じとか魅力的に描かれていて、台湾大好きな私としては嬉しかったです。

ヤン・ヤーチェ監督について「2作目とは思えない」と絶賛していた酒井監督。台湾を舞台にした次回作が予定されている事も明かされ、台日実力監督の今後に目が離せない。