辛酸:メールだけで恋愛している感じですよね。
中井:そう、人が人に恋するのと同じなんですよね。
辛酸:映画を観ていると、実際に生きてるんじゃないかなと感じてしまいます。
松崎:実生活でもスマホでリコメンドとかされると特に思いませんか?
辛酸:ありますね!送信しているはずのメールが届かないときなんかは、この人とは縁がないんだよ、とOSに選別されているんじゃないかと思っちゃいますよね(会場笑)
松崎:普通恋愛するときって相手の事を知りたいと色々分析するじゃないですか。それってこの映画で描く人間とOSの恋愛と変わらないですよね。そうすると人を好きになるって何だろう、物質的なことなのか?それを問うている映画でもありますよね。
あと、僕は試写で観たときに、音が真ん中から聞こえた気がしたんです。サマンサの声ってモノラルじゃないかと感じました。スマホを見るとき僕らはスマホを正面にして見ます。それを意識しているのではないかと。この点、劇場でもう一度観るときに確認したいポイントですね。人の生活を感じさせながらもその中にAI(の声)がいても全然違和感がない音の使い方でしたね。
中井:サマンサが実体をもたないところがポイントなのはもちろんですが、やりとりが声だけという上で、「沈黙」を上手く使っていますよね。対人のときは表情など「沈黙」と言っても色々と情報が得られるけれど、OSとはそうはいかない。サマンサがヒューマニティを高めるにつれて「沈黙」が増えていきます。声だけの関係性の中で、聞いても答えてくれない「沈黙」=余白の使い方が演出的にすごく効いています。
辛酸:あのセックスシーン・・・あれってアリですか?(笑)
中井:どうですか?皆さん?・・・あの描写はきちんと心の交流が出来ているという事を表現するために敢えて入れているのかなと。サマンサのことが好きだということを描写していると思いますよ。
松崎:観客はあのセックスシーンが成り立つのか考える=その時点でこの映画にハマっているという証拠だと思いますよ。それだけのめり込んでいて、彼女がしっかりと恋愛の対象になっている、サマンサに対して疑問をもたなくなる、それがこの映画の特異なところですね。人間が好きになるものって実体がなくても良くて、かたちを変えて、完全に普通の恋愛映画になっていますよね。
辛酸:デートシーンなんかも本当に違和感ないですよね。
中井:普通に考えたらこの人大丈夫かな?って人なんですけどね(笑)
松崎:あとこの映画には繰り返される台詞がありますよね。何度か繰り返されるうちに、深層心理に刷り込まれて行く、観ている側もそう理解していくと。
辛酸:サマンサは急に下ネタも入れてきますよね(笑)
中井:カップルの間でああいうくだらない事言うじゃないですか。あれですよね。
松崎:OSは自分の過去のデータをもとに返答しますから、つまりは自分が望んでいることを話して、それに対して望んでいるレスポンスが返ってくる。そうなると、独り語りをしていることにしか過ぎない映画なのかもしれないですね。解釈はいろいろとあるかもしれないけれど。
辛酸:つまりは自分の脳内語ですもんね。
中井:印象的な台詞で「恋は社会に許容されている狂気」とありましたが、言えて妙で、本当に好きなると周りが見えなくなるってありますね。この映画は、そういう哲学的な要素をたくさん含んでいると思います。誰かと付き合うことに対して、監督自身がどういう風に感じているか、台詞の端々に忍ばせているんじゃないかな。もう一度改めて劇場で観て、台詞を読み解く楽しさもありますよね。
それでは最後に一言ずつお願いします。
辛酸:人工知能の容量ってどのくらいあるんだろうと怖くなりました。今でさえ日々何度もMacのOSをアップデートしているのに、人間はどれだけ容量を用意してマシンを強化すればいいのと途方に暮れたりもしました。何ギガ用意すれば良いの?と。(会場笑) 私はPCが友人以上の存在になっているので、この映画を観て私がOSに追いついていかなければと思いました。
松崎:このポスターのビジュアルを見ても分かるとおり、撮影もこの映画のポイントです。ロスと上海で撮影されましたが、画のトーンを合わせなければならないわけで、その中でスモッグや浮遊物がうまく使われています。そういった効果で全体のトーンを整えながら、もや=はっきりしないことの表現にもなっています。それでいて光自体は自然光をつかっているので、撮る側は相当考えて撮影していますね。中井:人間の恋愛でも、女の子が人として成長してどんどん先にいってしまって・・・ということがありますよね。この映画のサマンサの言動はそれを極大化して表現しているのではと。もちろん設定的には極端な描写ではあるけれど、日常性を高次化したファンタジーとして、エンターテイメントに仕上げていますね。
辛酸:すごく普遍的な内容ですよね。