●MC:
最後に、「人は誰の為に世界を変えるのでしょうか」という質問がきています。
逆に学生の皆さんにお聞きして、それに対して阪本監督、福井さん、古市さんにお話しをお伺い出来ればと思います。

●女子大学生:
私はこの映画をみて、まず自分が世界を変えるために何ができるのかということを考えました。そうしたときに、今までは、靴が欲しい、服が欲しい、と自分のために使うことばかりを考えていたお金というものを、もっと誰かの為に使いたいと思いました。タイやフィリピンの貧しい人々の暮らしを見て、やはり心が痛みますし、お金の使い方を変えていきたいなと思います。

●男子大学生:
これは僕が出した質問なので、みなさんを苦しめる前に自分が当たって良かったです(笑)。この質問をした時に僕が思ったのは、世界を変えようと思う人たちが好きなように変えてしまった世界は、果たしてみんなにとって良い世界なのか、ということです。人は自分のために世界を変えようとするんじゃないかと思うんですが、そうすると、そこに我侭のようなものが生じてしまうと思うんです。「世界を変える」ということと、「世界を変えようとするする人の我侭」、「受け手とのギャップ」についてどう考えるか、教えていただきたいです。

●福井晴敏さん:
先ほど阪本監督が言ったように、ルールというのはそれを作った人間に合わせてできあがってしまうという、それは本当だと思うんですよね。
たぶん誰がやっても、何かしらのエゴは入ってきてしまうと思うんです。
例えば、「国の為」というとすごく全体的なことのように聞こえるんだけれど、それはその国のエゴになってしまう。だからと言って「全体がある程度のレベルにまで達する」という事を共通の利益に置き換えるのが、果たして人間の性として可能なのかどうか。今回の映画では、善意に期待してそういうシステムをこれから作っていこう、ということを森山未來くんが演説しているわけなんですが、それが可能かどうかということは我々も確証がないんです。
観た人たちが、今質問をしてくれた彼のように、そういうことを考えるきっかけになればいいなと思っています。

●阪本順治監督;
これは、自分と世界というものが、別々に2つあるというような言い方ですよね。
でも、これだけ経済の相互依存とか、ギリシャの破綻と自分のポケットの札がつながっているかも知れないというような状況の中で、自分と世界っていう分け方はもうないんじゃないかなと思うんです。どこかで大きな変化があって、何かの破綻があったときに、自分にもそれが降りかかってくるわけです。
だから、誰の為に世界を変えるかって、それは世界の為と、自分の為。
そう思います。

●福井晴敏さん:
自分も世界の一部っていうことですね。

●阪本順治監督:
原作にも出てくる言葉ですが、「人の欲の中には人として良くありたいという欲もある」んです。それは東北のボランティアに行っ人たちの中にもきっとあって、終わった後に「すごく良いことをした」っていうのが最初の感想ですよ。人のためにもなったけど、自分の快楽にもなる。
その辺の自問自答からしか始まらない。タイやフィリピンに来た日本人のボランティアに「なんで来たの?」って聞くと、「自分探しを含めて」と答えるんです。

映画を作るときに、救うという行為にいろんな感情が沸くんです。
上から目線じゃないかとか、強者の論理じゃないかとか。
それでも今救わなければならない事柄がたくさんあるっていうのはわかってる。
ひとつひとつの事象が育っていくのを待っていても構わないんだけれど、この映画は、例えば十兆円使って一気に変えてみようという話なんです。
小説の中にはPDAを配り終わったあとに起こりうる弊害も描かれると思うんですが、映画で描くのは、そこのロマンと夢物語。
それを観た人が夢物語と思うかどうかは、みなさんにお任せしたい。
僕は、普段だとアイロニカルな展開だったり、希望で終わるべき物語を絶望で終らせることが多いんですが、今回はそうしなかった。
今、オリンピックが決まってバブルが始まる瞬間に見てもらうんだったら、ロマンも含めて見て欲しいという思いです。

●古市憲寿さん:
ウィン・ウィンになること、お互いが得をすることを諦めてはいけないと思います。様々な社会運動が、この2年間日本では盛り上がってましたが、例えば脱原発が達成されたとして、運動している人と、その周りの人が幸せじゃなかったら意味がないと思うんです。
お互いが得をすることを諦める必要はないと思うんです。

これは経済のロジックに載せることもできて、この映画で描かれていることがこの先実現するかもしれません。途上国であっても先進国であっても、どんな人であってもアイフォンを持っている。
それは搾取されることであると同時に、世界にアクセスできるネットワークを手にすることでもある。つながりになる。お互いがお互いに得をするギリギリの点がみつけられるはずなんです。
その点をさがしていくということが、誰の為に世界を変えるのか?という問いのヒントになるんじゃないかなと思います。

●MC:
ありがとうございました。今日は予想以上に、とても深い話になりました。
予定の時間をすっかり過ぎてしまいましたので、ここまでとさせてください。
福井先生、阪本監督、古市さん、そして、大学生のみなさん、今日は本当にありがとうございました。
映画「人類資金」は、今日のトークセッションで交わされた問題提起もあれば、ぐいぐいと引き込まれていくエンタテインメント要素もあわせ持つ作品です。
公開は10月19日全国ロードショーです。原作の文庫全7巻もも順次発売中です。
ぜひとも、まわりの方にもおすすめください!

以上。