映画祭5日目の19日(日)。“コンペティション”部門では、オランダのアレックス・ファン・ヴァルメルダム監督の『ボーグマン』、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟監督の『インサイド・ルウェイン・デイヴィス』が正式上映。招待部門では著名なドキュメンタリー作家クロード・ランズマン監督の最新作など3作品が、“ある視点”部門では2作品が上映され、“ミッドナイト・スクリーニング”部門には香港の鬼才監督ジョニー・トーの『ブラインド・ディテクティヴ』が登場。“カンヌ・クラシック”部門では、ビリー・ワイルダー監督の『フェドラ・リマスタード』(1978年)とパトリス・シェロー監督の『王妃マルゴ』(1994年)が上映されている。


◆オランダの鬼才のカンヌ初コンペ作『ボーグマン』は、ブラック・ユーモアと不穏な空気に満ちた怪作!

 オランダの演劇畑出身の才人で、独特の乾いたブラック・ユーモアで知られるアレックス・ファン・ヴァルメルダムが監督&脚本&出演したコンペ出品作『ボーグマン』が、朝の8時半から上映された。
 ライフル銃を抱えた神父が、霧深い森の中の地中に隠された小屋に潜む男ボーグマン(ヤン・バイフット)を襲撃しに行く。だが、間一髪で難を逃れた彼は、郊外の住宅地に暮らすブルジョワ家庭を訪れ……。物語は正体不明の男ボーグマンとその仲間を家に招き入れてしまった一家を待ち受ける悪夢のごとき恐怖体験を描いたダークでグロテスクな不条理スリラーなのだが、冒頭シーンから一気に惹き込まれてしまった!
 意表をつくストーリー展開に目が離せない上、ボーグマン一味の悪魔的所業を描写した静謐かつ端正な映像(ヘンリー・フュースリーのゴシック絵画「悪夢」を彷彿とさせる出色のシーン有り!)が素晴らしく、ミヒャエル・ハネケ監督作にも通じる、その“毒気”にゾクゾクとさせられた。

 11時から行われた『ボーグマン』の公式記者会見にはアレックス・ファン・ヴァルメルダム監督、出演したヤン・バイフット(ボーグマン役)、ハデヴィック・ミニス(訪問先の妻役)、イェロン・ペルセヴァル(訪問先の夫役)とプロデューサーのマルク・ファン・ヴァルメルダム(監督の実兄)が出席。タイトルの意味について問われたアレックス・ファン・ヴァルメルダム監督は、「西洋社会の批判のように受け取られるかもしれないが、それは私の意図とは違う。道で会っているような普通の人の振る舞いによる、すぐ側にある“悪”、そして“幸福の破壊”を見せたかったんだ」と語り、絶妙な小物使いに関しては「作品内で携帯電話を使うのは嫌いなんだが、この作品では笑いを取るために登場させたのさ」とコメント。主役にヤン・バイフットを起用した理由は、「オーディションで一番良かったから」だと素っ気なく述べた後、「彼は体は小さいが、演技は本当にビッグなんだよ」とフォローし、会場の笑いを誘った。


◆カンヌの常連、コーエン兄弟監督の『インサイド・ルウェイン・デイヴィス』の記者会見に報道陣が殺到!

 1991年の『バートン・フィンク』でパルムドール&監督賞&男優賞(ジョン・タトゥーロ)の三冠に輝き、1996年の『ファーゴ』と2001年の『バーバー』では監督賞を受賞しているジョエル&イーサン・コーエン兄弟の8度目のコンペ出品作となる『インサイド・ルウェイン・デイヴィス』は、鳴かず飛ばずのシンガー・ソングライターの姿を通して1960年代初頭のフォークシーンを活写したオフビート・コメディの快作で、陰影の深い映像が秀逸だ。
 ボブ・ディラン登場以前の1961年、ニューヨーク、グリニッチビレッジの冬。宿無しのフォーク歌手ルウェイン・デイヴィス(オスカー・アイザック)は情けない日々を送っている。何とか泊まらせてもらった知人宅から逃げ出した飼い猫を追いかけたり、ヘンテコな人々とも交流せざるを得ない彼は……。共演は旬の女優キャリー・マリガン(『華麗なるギャツビー』とは打って変わった黒いロン毛姿で登場し、歌声も披露!)、世界的人気歌手&俳優であるジャスティン・ティンバーレイク、コーエン兄弟作の常連俳優ジョン・グッドマン、注目の若手男優ギャレット・ヘドランドら。
 
 夜の正式上映に先立ち、12時半から行われた公式記者会見には、監督&脚本のコーエン兄弟、出演俳優のオスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジャスティン・ティンバーレイク、ギャレット・ヘドランド、撮影を担当したブリュノ・デルボネル、音楽を担当したT・ボーン・バーネット(グラミー賞受賞者!)が登壇。
 映画で重要な役目を担う“猫”について、兄のジョエル・コーエンは「この映画は本当に物語がなく、筋もない。だからこそ我々は猫を加えた。そうさ、映画は猫を中心に展開するんだよ」と述べ、弟のイーサン・コーエンが「猫は6匹使ってるんだ」と言い添えた。そして「キャスティングが一番重要だった」という兄弟監督は思い通りに出来た俳優の起用に自信を覗かせた。その期待に応え、見事な歌声を披露した俳優陣も歌と演技への思いをそれぞれコメント。驚くべきは当時の風潮を見事に捉えたミュージック・シーンで、楽曲は全てオリジナル曲だという。サントラ発売の予定はないのかと問われたT・ボーン・バーネットは、「全ての音源はバッチリ残してあるので、そのうちね!」と微笑みながら返答。
 その後、19時から行われたソワレ上映のレッドカーペットには、前述した8名に加え、公式記者会見には出席しなかったジョン・グッドマンも登場。メイン会場周辺はジャスティン・ティンバーレイクお目当てのファンで黒山の人だかりとなり、黄色い大歓声が飛び交っていた。
(記事構成:Y. KIKKA)