映画祭4日目の18日(土)は、一気に空模様が怪しくなり、涼しいを通り越して、土砂降りの雨に見舞われ、非常に肌寒い一日となった。“コンペティション”部門では、フランスのアルノー・デプレシャン監督がアメリカで撮った『ジミー P.』と是枝裕和監督の『そして父になる』が正式上映。“ある視点”部門で2作品、そして招待作品2本が上映された他、“カンヌ・クラシック”部門には、インドのサタジット・レイ監督作『チャルラータ』(1964年)、3D化されたベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』(1987年)、マルコ・フェレーリ監督の『最後の晩餐』(1973年)の3作品が登場。そして“監督週間”では、この部門の今年最大の目玉作2本、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の20数年ぶりの新作『ザ・ダンス・オブ・リアリティー』と、当の監督に関するドキュメンタリー『ホドロフスキーのデューン』が上映!


◆カンヌの常連監督アルノー・デプレシャンの『ジミー P.』は、アメリカを舞台とした英語作品!

 1992年の長編処女作『魂を救え!』、1996年の『そして僕は恋をする』、2000年の『エスター・カーン』、2008年の『クリスマス・ストーリー』に続き、5度目のコンペ参戦となるアルノー・デプレシャン監督。いまだに無冠ではあるが、世界中のシネフィルに愛されているフランスの映画作家だ。彼が監督&脚本した『ジミー P.』は、精神科医ジョルジュ・デヴローの手記「夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録」を原作として、精神疾患を抱えたネイティブ・アメリカンとフランス人の精神科医の治療を通じた交流と友情を描いた英語作品である。
 第二次世界大戦に従軍して負傷し、帰還後も目眩や頭痛、さらには幻聴と幻覚症状に悩まされていたブラックフット族のジミー・ピカード(ベネチオ・デル・トロ)は、脳に障害があるとしてカンサスにある軍病院に収容される。だが、原因不明の症状に手を焼いた病院は、フランス人文化人類学者で、アメリカ先住民のことにも詳しい精神科医デヴロー博士(マチュー・アマルリック)に意見を求め、ジミーを診てもらうことにするが……。

 朝の8時半からの上映に続き、11時から行われた本作の公式記者会見には、アルノー・デプレシャン監督とベネチオ・デル・トロ、マチュー・アマルリック、ジーナ・マッキー、ミスティ・アップハムという国際色豊かなキャストが登壇。
 原作について「書店でこの本を見たとき、これだ!と思いました。デヴロー博士に共感できましたし、彼の功績は精神分析学を大衆のものにしたことですね」と述べたアルノー・デプレシャン監督は、本作で「実際に起きた事柄を可能な限り全て再現するように心がけた」という。そしてデプレシャン監督作の常連俳優であるマチュー・アマルリックは、実在の人物を演じることの難しさについて「今まで精神分析の分野については無知だったので、自分で分析を始めてみました。精神分析の世界はアドベンチャーでした。それは、まるで危険なスキューバダイビングに挑むような感じでした」と返答。一方、デプレシャン監督とは初顔合わせとなったベネチオ・デル・トロは、デプレシャン監督の演出に心底感嘆したとコメント。


◆およそ80点のユーモラスな風刺漫画を映画祭のメイン会場パレ・デ・フェスティバルで展示!

 最悪の天気で、予定していた周辺取材が難しいためメイン会場内のトピックを1つお届け! この映画祭期間中、パレ・デ・フェスティバルの3階を中心に約80点のユーモラスな風刺漫画が展示されている。これは2008年に、アナン国連事務総長(当時)とフランス人イラストレーターのプラントゥ氏によって設立された団体“カトゥーン・フォー・ピース”に参加するイラストレーターの手によるもの。団体の所属メンバーはプラントゥ氏と中東のイラストレーター3人で、作品のモチーフは今年の審査委員長スティーヴン・スピルバーグ、フェデリコ・フェリーニ、イングマール・ベルイマン、ウディ・アレンらの有名監督に新旧の世界的映画スター、そして名作映画にいたるまで映画産業全般に渡っている。毒気の強い作品も多いが、どれもが“映画愛”に満ちたユニークな作品揃いで見応えがある。20日には“カトゥーン・フォー・ピース”の活動への援助を目的とする映画祭共催のオークションが行われ、展示作品のオリジナルが競売にかけられる予定になっている。
(記事構成:Y. KIKKA)