映画『HOMESICK』のキーワードは、「昭和」と「成熟」。著書「ネット選挙」で話題・気鋭の若手社会学者・西田亮介氏が、独特の切り口で映画を解説ーー。
若手論客の言葉に触発された廣原監督、今後の映画製作にも意欲を見せる!

西田亮介氏:
『HOMESICK』を三回ほど繰り返し観た。面白かった。僕の中には、2つのキーワード、「昭和の超克」と「成熟の物語」が思い浮かぶ。
「昭和の超克」とは、『HOMESICK』がある意味、昭和をノスタルジックに描いた映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の反転バージョンと見ることが出来る。高度経済成長の中で、貧しくも温かな家族があり、今後の夢がありといった事が描かれていて、さて、その後どうなったか??を、この『HOMESICK』は描いていると思う。
例えば昭和の時代では「家族で食卓を囲んでいた」が、今ここに家族はいない。あるいは、昭和の時代ではたどり着く到達点であったマイホームは、今やその「家」というものが負の資産になっている。昭和の後始末といっていいのだろうか。
ところが映画では、そこに、地元の3人の子供たちがやって来る。彼らの遊び方がゲームや携帯を使う事ではなく、古典的な遊びで主人公に語りかける。そうした意味においても昭和的ニュアンスが残されている。
そして、子供たちと主人公との相互作用のなかで、成熟するのかしないのか、ということがキーワードになっていて、結局のところ、成長といった出口はない。そういう形で物語が終わっていく、昭和の超克をある意味ネガティブに捉えつつも、普遍的な成長譚として結び付けていくことが、とても興味深い作品。
そして、どこにいっても幸せになれない、という映画の描かれ方にも納得。映画の中で、世界中を飛び回っている妹は、今でいう、グローバリストのメタファー。でも、いまいち幸せそうではない。それは、早期退職をしてペンション経営している主人公の父親も、同じくどこかにいて自由に生きているはずの母親も幸せそうではない。この“明るくなさ”が今の社会を切り取っているようにみえます。今の時代の冷たさを象徴しているのかもしれない。
今という時代は若者にとって、しんどい時代だと思う。新入社員のアンケートでも一生勤めたいと希望する人の割合が非常に高くて、起業したいという人の割合はすごく低かったそう。安定したいと思っていても転職せざる得ない現代の状況について、この映画は、出口のなさ、昭和の家族の宴のあとのような感情を、よく表していると思う。

廣原監督:
ばらばらになった家族を描いたのは、映画『ニンゲン合格』を観た時に影響されて、そこに出てくる人たちは父親、母親という役割を演じるわけでなく、みなそれぞれ個人、自由な人生を生きていて、ばらばらな“個”が集まって家族になっている印象をうけ、それが正しいだろうと自分では思っている。
映画はなかなか答えを出してくれずに問題提起ばかりするが、問題を浮き彫りにする役目は大きいと思う。
この映画ではどこかに行くのではなく、留まり続けてそこで何か発見することが、いまの自分たちに近いことだ感じていて、そういった作品を撮りたかった。
主人公は家がなくなり仕事もなくなりといった事に対して、若いのだから大丈夫でしょ、とよく言われるのですが、その先に何があるのかを描くことが出来ない、と率直に思いました。また同じことを繰り返すのか、じゃあ何のために生きているのか、子供みたいな悩みに立ち返るわけですが、その悩みを捨てることができないのです。こういう事を人前で話すのは恥ずかしい(笑)。
自分はこう見えても欲深いと思っている(笑)。映画の主人公は「さとり世代」と言われるが、大人たちに「もういい加減にしなさいよ!」と叱られながらも、こうした映画作りを、こうした生き方を、しぶとく続けていきたい。「幸せはゴールではなくある瞬間に訪れるもの」ではないのかと思っていて、そういう瞬間を映画で撮り続けていきます!

第22回PFFスカラシップ作品 『HOMESICK』 8/10(土)より、オーディトリウム渋谷 他全国順次ロードショー

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