中井:こういう映像美って、観ている最中にこれスゴいよなぁと思われたらもう自然ではなくなってしまいますよね。後から気付いたときにしみじみスゴいなぁと感じるのが重要かと。

松崎:後は、通常演奏や歌の撮影は、曲が流れているところに口パクなどで後から演技をあてるけれど、最後のバンドバトルでの演奏シーンはその場で演奏して歌ってと、全て同時に撮っていますね。あれは相当難しいことです。

添野:あれは完全にジャムセッション。あの場でしかできない音と画になっているんですよね。この映画はジャック・ブラックのための企画として書かれたもので、つまりジャックが演奏ができるというところからスタートしています。子供は全員オーディションで選ばれていて、バンドの子たちは演技経験ゼロだけれど、演奏ができることがメインで選ばれています。誰かの音に演技を合わせるという思考は全くなかったんですね。バンドメンバー以外のクラスの子たちは完全にプロの俳優です。その中にミランダ・コスグローヴがいましたね。この映画で注目されて、その後シチュエーション・コメディ「アイ・カーリー」の主役に抜擢され有名になっていきます。歌が下手な役でしたが、実は上手いんですよ。CDも出しているくらい。

中井:ジャック・ブラックは本作の日本公開時、ベースとギターの子と一緒に来日して、インタビューもさせてもらいました。来日キャンペーンの最後にZEPP東京でイベントがあったのですが、あれはもう最高でした!シーナ&ザ・ロケッツがライブ演奏をして、最高に盛り上がったところに来日メンバーが登場してセッション!当初は演奏できればしてほしいというリクエストだったようですが、裏でシーナ&ザ・ロケッツを聴いていたらジャック・ブラックたちのテンションも上がって演奏することになったようですよ。子どもたちもちゃんと弾けるんだ、とその時知りました。

添野:ベースは女の子だけど、ジェフ・ベックのベーシストに少し似てるよね。

松崎:女の子のベーシストって、なんかセクシーですよね(笑)

中井:楽器の話をすると、ジャック・ブラックが使っているのはギブソン・SG。これもアンガス・ヤングへのオマージュですよね。ロック愛がなければ描けない。

松崎:音声ガイダンスによると、黒板に書くロックヒストリーは、スタッフが3週間くらい協議しながらつくったとありましたね。

中井:人によっていろいろ解釈ができますもんね。

松崎:それ以外にもタペストリー、ポスターとか、映画中にロックへの愛があふれてますよね。

添野:美術、気合が入っててすごいですよね。

中井:日本語訳されていないところでも、音楽を知っていれば知っているほどにやりとするシーンがちょこちょことありますよね。

松崎:ロックヒストリーに少し話を戻すと、僕はいつも映画を観るときひとつの点でみるより線でみたいと言っているのですが、音楽もそうですよね。クラプトンもヤードバーズやクリームというバンド・ギタリスト時代があって、ジミー・ヘンドリックスがいて、ニュー・ヤードバーズは後にレッド・ツェッペリンになって・・・というロックの系統図って流れがある。元を知っているから面白いんですよね。ところが90年代から昔ほどバンドを離れたり新しく結成したりというのが減った気がしますね。その人間的な面白さが減ったことが、ロックを聴く人が減った原因のひとつかも、なんて思ったりします。その点『スクール・オブ・ロック』は良いと思った曲についてはそれがどういう人によるものなのかを知ろうとするから良いですよね。

中井:当然ながらサントラも聴いていますが、まさにロックの教科書的な要素がありますね。昔のロックを素直に学べる。

添野:マニアックな雰囲気はあるんですが、この映画は誰が見てもシンプルに良さが分かるんですよね。ロック映画ってただマニアックなだけのものもたくさんあるんです。でも小学生にロックをやらせる、しかもシンプルな4ピースで。いろんなロックがある中で、できるだけシンプルなロックをちゃんとやろう、フォーカスしていこうという意気込みが見えます。これって音楽のことがよく分かってないとできないことだし、わき目も振らずそこに注力したのが、この映画の成功の要因だと思う。

中井:マニアックな人って、枝葉に偏り易いですからね。映画も音楽も、本作は非常に客観的にできていると思います。

添野:ジャック・ブラック自体はフォークギターのイメージなのに、あえてロックギターを選択してる点もそのためだと思いますよ。

中井:映画にも通じますよね。これを観ておけばカッコイイんじゃないか、というものを選択してしまいがちなんですが、王道と呼ばれるものを観て比較しないと、なぜそれがカッコイイか分からない。両方を観て相対的に見えるものがありますよね。『スクール・オブ・ロック』は王道エンタメとしての要素も大きいし、音楽好きがマニアックな話をしたくなる部分もあるし、両面を持っている映画とも言えます。

添野:子供が観ても面白いですよね。それに黒人音楽にもちゃんと触れていて、それがロックのルーツだということにもちゃんと描いている。リスペクトを込めて。

松崎:知らず知らすのうちに子供たちが成長しているんですよね。音楽のことを知って、世の中には多様性があるということを自然に学んでいく。このメッセージはいろんな人に向けられる要素ですね。

添野:子供たちが学んでいるという設定の映画なんですけど、実はデューイ(ジャック・ブラック)が学習していく映画なんですよね。最初はすごく嫌なやつで、子供に教える気なんてないし。でも子供たちと付き合っていくうちに変わっていく…中年親父としてはグっとくる部分ですよね。

中井:僕の中ではジャック・ブラックの2大映画があって、それは『スクール・オブ・ロック』と『ハイ・フィデリティ』なんですよね。ジョン・キューザックが主演で中古レコード店の店長を演じているんですが、この作品もジャック・ブラックの特性を非常に活かしていますよね。よくいる音楽オタクが成長していく…という。

松崎:音楽映画で言うと、『フラッシュダンス』『フットルース』という大ヒット作で大きく変わった点があって。それはサウンドトラックというものがオムニバスみたいになったんですよね。「この曲を聴いたらこの映画」というテーマ曲がなくなって、「こんな豪華なミュージシャンたちがたくさん参加してます」というイメージが大きくなって。タイアップ感や映画会社の傘下のレコード会社だから〜なんてことが見え隠れし始めちゃったんですよね。
『スクール・オブ・ロック』のサントラは古いロックを集めたオムニバス的になっているけれど、だけど一曲一曲いちいち意味がある。オムニバスだけどやりようによっては意図があるものになるんだよということを証明しています。ちなみにツェッペリンの曲は使わせてもらえないというのは有名な話なんですが、ジャック・ブラックが自らツェッペリンにプロポーズするための映像を撮って、それを見たツェッペリンがOKを出したそうですね。音楽に対しての愛が選曲にも表れてますよね。それまでのオムニバス版サントラに対するカウンターになるんじゃないかな。

添野:音楽は音楽として受け止めようという動きがゼロ年代に入ってからあるような気がします。僕はジャンルに分けて好き嫌いをするのはすごくもったいないと思っていて。昔はハードロックを毛嫌いしていたし、ディープ・パープルを聴いてるヤツなんて本気で頭が悪いと思ってたんですが、でも今は聴いてます。クラシックロックを聴いてるヤツはバカだと思っていたけど、でも今は聴いてます。バカにしたいと思っている何かって、後々反動がくるんだな、と50年間の人生で学んだところです(笑)。自分が好きなもの・惚れ込んだものは絶対にあきらめるな、友達がどんなに馬鹿にしようと自分で見つけたものは簡単に諦めちゃだめ。自分はなんでこれが好きなんだろうって、何度も聴いてみる、それが大事なんじゃないかなとすごくそう思いますね。

中井:そうですね。僕はこれが好きだ!というのはありつつ、でも一方で嫌いにならないということも大事だと思うんです。昔分からなかったものでも、時が経つと面白いと思えるものもあるし。自分の中で否定してしまう、壁をつくってしまうのはやめたほうが良いと思います。前出のオシャレなものしか観ずにハリウッドのど真ん中をみない、というのも同じことですね。もったいない。

松崎:映画は評論家がどう言ったとか、アメリカでコケたとか、あんまり気にしないほうが良いです。『ブレードランナー』なんて、公開時は殆どの人が観ていなかったのに、ちゃんと観ると面白い。何かの情報による先入観をあてにしないで、自分の信じたものを突き通して観たほうが良いですよ。

中井:ナカメキノでもそういう視点を入れていくので、今後楽しみにしてほしいところですね。名前は知っているけど実は観てないっていう映画もたくさんでてきますよ。

添野:ちなみに「映画秘宝」という雑誌で連載していまして、映画の中で使われている音楽の歌詞をピックアップして紹介しているんですが、今月号では『オブリビオン』のツェッペリンを取り上げていますので、ぜひ読んでみてください。