5/18(土)、大阪市淀川区の第七藝術劇場にて『暗闇から手をのばせ』が関西公開初日を迎えた。
障害者専門デリヘル嬢となったヒロインが、顧客である個性豊かな障害者との本音のぶつかり合いを通して悩みながらも成長する姿を率直なユーモアで描いた作品。東京の公開では、ユーロスペース、新宿K’sシネマの各劇場とも上映延長のヒットとなった。

ヒロイン沙織を体当たりで演じるのは、グラビアアイドルとして活躍し、映画『エレクトロニックガール』の主演を務めた小泉麻耶。津田寛治、ホーキング青山、森山昌之、モロ師岡といった個性的なキャストが脇を固める。人気アーティスト“転校生”が手掛けた劇中歌・主題歌は作品を包むような余韻をもたらしている。

第七藝術劇場の舞台挨拶に登場したのは戸田幸宏監督。
書籍・雑誌の編集者、漫画原作者(『暴力の都』<画・中祥人>、『キマイラ』<画・八坂考訓>)、フリーライター、WOWOWにて映画『理由』(宮部みゆき原作/大林宣彦監督)などを企画・製作。2012年度のテレビ朝日新人シナリオ大賞を受賞、現在はNHKエンタープライズに所属しディレクターやプロデューサーを務めている、といったユニークな経歴を持つ。

自身で監督を務めての映画製作は今回が初。長編映画デビューにして、今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2013/ファンタスティック・オフシアター部門にてグランプリとシネガー・アワードをW受賞した戸田監督。
舞台挨拶は苦手とのこと。初めからQ&A形式での進行となり、控えめな物腰ながら、ユーモア溢れる率直トークに会場からはたくさんの質問が上がった。

Q:映画を製作したきっかけについて

元々NHKの番組として、大阪で障害者専門の風俗店経営者を取材したのがきっかけだった。ドキュメンタリーとして企画したが、NHKからは了解が得らなかったという。

戸田「映画ではドラマぽく描いているんですけど、取材では人生観が変わるような様々な話を伺って感銘を受けました。企画は通らなかったけど、自己資金でフィクションとして映画にすれば、取材で受け取ったことを観客の皆さんにお伝えできるんじゃないかと思いました」

Q:何故企画が通らなかったのか?

戸田「障害者の性を取り上げるのはいいが、風俗業、それが正式な許可を得たのものであっても賛美するような撮られ方をするとNHKとしてどうなのか?という反応でした」

Q:上映時間が68分と短いが、完全版はあるのか?

戸田「お金を返せと言う反応はあると思います(笑)。障害者の方々が抱えている問題はさわりしか描いていません。深く掘り下げると深い闇があって簡単に描き切れることではないため、コンパクトに“こういうことが世の中にはあります”ということを肯定も否定せず差し出すのがよいと思ったんです。それには68分という時間が適していました」

Q:続編はあるのか?

戸田「次回作では、同じようにタブー視されているテーマに挑みたいと思っています。安易な続編や、皆さんに興味を持って頂けた題材だったから同じようなものという気持ちは全くなく、全然違うアプローチで向き合うつもりです。
僕はアマチュア時代も含めて自主制作映画をとったことが一度もなく、俳優の演出したのもこれが初めて。何でこんなに下手くそなんだと思うし、この題材にしても、もう少しちゃんと描けたという反省点があります。いずれ時間を掛けてこの題材でもう一度勝負したいとは思っています。

次回作については、ゆうばりファンタでグランプリを受賞したことで制作支援金が支給されるとのこと。

Q:タイトル『暗闇に手をのばせ』は、どの立場の方に向けてのものか?

小沢健二さんの曲と同じタイトル『暗闇から手をのばせ』を配給会社の方が提案し、作品に合っていることから決定に至った。挑発的な『車椅子でセックス』といった案もあったとのこと。

戸田「この作品は障害者の性がテーマではありますが、風俗嬢であるヒロインの中にある暗闇を表しています。彼女はある理由で絶望していて、障害者の方々と接する職業にたまたまついて、そこで変化が生じて生き延びるための理由を見出したんです」

「セリフで「障害者と健常者の違いはない」と出てきますがその通りの考え方で、また風俗嬢という仕事を否定も肯定もしない そういうスタンスです。
ラストの展開についてプロデューサーから反対意見が出ましたが、ラストは障害を克服するとか、風俗嬢をやめてOLになるということではない
人生には困難なことが大なり小なり降りかかって来ます。それをやり過ごしたり乗り越えたりすることで生き延びることができる。これが映画のテーマです。
それには、微かな希望かもしれないし、希望でないかもしれない光を頼りにすることで生き延びられるかもしれない。それがこのタイトルに繋がっています」

劇中、沙織とホーキング青山さんとのユーモラスなやり取りで、障害者に対する無自覚な沙織の偏見を変えていく様子が印象的だ。自称“身障芸人”のホーキング青山さんがタイトルについて

戸田「“俺は手がないから手をのばせない。俺に対する嫌味か!”なんてギャグで言われて(笑)。 どう返せばいいんだろうってことがありました(笑)」

実際に障害者の施設に勤めているという方から
「凄くいい映画。自然と映画に入り込みました。風俗嬢の彼女も私たちと地続きの人ですから」という意見が上がったり、観客の中に、この映画のきっかけになった大阪で取材した障害者専門の風俗店経営者を見つけ、感激の面持ちの戸田監督が印象的だった。

第七藝術劇場では5/31(金)まで上映予定。名古屋・シネマスコーレは5/24(金)まで。札幌・蠍座では6/18(火)〜6/24(月)。
関西では京都シネマ、神戸アートヴィレッジセンターでの上映も予定されている。

(Report:デューイ松田)