先行公開されたスペインでは『007 スカイフォール』を破り、5週連続の興収第1位を獲得。さらに歴代興収でも『アバター』に次ぐ第2位(※第3位は『タイタニック』)となる大ヒットを記録致した映画『インポッシブル』2004年のスマトラ島沖地震で被災した家族の奇跡の実話をもとに描かれたこの作品は、世界中から比類なき称賛を浴び、主人公マリアを演じたナオミ・ワッツのアカデミー賞主演女優賞ノミネートを筆頭に、共演のユアン・マクレガー、監督のJ.A.バヨナ(『永遠のこどもたち』)らと共に数多の受賞・ノミネートを記録しました。

そしてこの度、作中でナオミ・ワッツが演じる主人公マリアのモデルとなったスペイン人女性マリア・ベロンさんが来日いたしました。

ご自身が経験したありのままの真実と思いを伝えるため、スタッフ、キャストと共に、脚本の段階から撮影まで映画製作に関わったマリアさん。
映画づくりにあたり、被災地のタイを訪れ、実際に被災された方々ともたくさんの言葉を交わされました。

【イベント概要:“こころの復興”を考える】

■日時:5月17日(金) 11:00〜
■会場:パークハイアット東京(新宿区西新宿3-7-1)
■登壇者

マリア・ベロン(本作主人公ナオミ*ワッツモデル)
大谷昭宏(ジャーナリスト)
浅野史郎(神奈川大学教授・前宮城県知事)
槙島敏治(日本赤十字社医療センター国際医療救援部長)

【トーク・イベント内容】

MC:
約2年前に日本でも東日本大震災が起こり、甚大な被害と、多くの犠牲者が生まれました。今なお、物理的にも、精神的にもまだまだ復興の途中です。
現実をどう受け入れるべきか心の整理がつかない方もいることと思います。
本日は、マリアさんの他にもゲスト3名をお迎えしまして、「心のケア」についてディスカッションをしていただきたいと思います。

それではお呼びします。ジャーナリストの大谷明宏さん、神奈川大学教授・前宮城県知事の浅野史郎さん、日本赤十字社医療センター国際救援部長の槙島敏治さん、そして本作の主人公モデルのマリア・ベロンさんです。

MC:
一言ご挨拶をいただけますでしょうか?

大谷明宏さん:
本作を拝見して、大変感銘を受けました。
二年前に東日本大震災で被災したからこそ、より多くの人に見て欲しい、そしてそこから多くの事を学んでいきたいと思います。

マリア・ベロンさん:
昔横浜で暮らしていた事があったので、日本に戻って来られて嬉しいです。
この話は一つの家族の話というよりは、津波の中で立ち上がった人たち一人一人の話です。
津波の中で立ち上がった、そんな誇りを感じていただける作品なので、今、津波の被害の中、立ち上がった日本の皆様にも誇りを感じていただいた上で、たくさんの人に見て欲しいと思っています。

浅野史郎さん:
前宮城県知事の浅野です。
私は今白血病の治療で、免疫力が回復していないため、実は被災地に足を踏み入れる事ができません。
なので、今日はこの場で色々なお話ができればと思っています。

槙島敏治さん:
私は赤十字で災害救援を30年間やってきました。
その中で心のケアの重要性というものを認識して、今、国際赤十字の心のケアを国内の災害救援、災害医療に生かそうという事で活動しております。
東日本大震災では岩手県を中心に5ヶ月間心のケアのコーディネータをやってきました。
映画を拝見して、普段は救援者の立場から見ているのですが、この映画では実際に自分が津波に巻き込まれたかのような体験をして本当に感銘を受けました。

MC:
進行役を大谷昭宏さん、お願いいたします。

大谷さん:
本日はよくマリアさんご本人が来てくださったと思っています。
マリアさん、自らが被災した身でありながら、なぜこの映画に協力しようと思ったのでしょうか?どうしてそんな決断をしたのでしょう?

マリアさん:
勇気があるような行為ではなく、監督に私たちの物語を伝えたいと言われた時に、たくさんの亡くなった方々は自分でその時の気持ちを説明したくても、説明する事が出来ないとするならば、ここで私たちの経験を隠してもしょうがないと思いました。
正直いって辛かったですが、言葉にする事で初めてそんな辛い気持ちを乗り越えていけると思いました。
なので、映画化するにあたり、監督には条件をつけて、人間ではなく津波を主人公にして描いて欲しいといいました。

大谷さん:
完成した映画を見ていかがでしたか?

マリアさん:
俳優も、監督もとても良く描いてくれたと思っています。
しっかりと痛みを描いてくれたと思っています。
そして、人間はなんて強いんだろうと、見てくれた人が強さを感じてくれたらと思っています。

大谷さん:
ありがとうございます。ここで、槙島さんにお伺いします。
マリアさんが乗り越えられたように、「心のケア」ということが重要になって来るかと思いますが、これまでの支援活動でどのようなことをされてきましたか?そして、どんなことが大切だと思われますか?

槙島さん:
災害へのストレスに対するというところで、一人一人の心の強さも必要ですが、家族の結びつきが大きいという事が言われています。愛が生きる力をくれるという話をよく聞きます。
一方で家族を失ってしまうと、その分受ける衝撃はもっともっと大きくなってしまう。
いかに家族との結びつきを維持して行けるのかが大きな要素になってくるかと思います。
自分の経験した事を話すまでには時間がかかるので、話せるような環境作りも必要です。
マリアさんはそれが出来たという事は、復興への一歩を踏み出されたのだと思います。

マリアさん:
私も始めは話しても誰もわかってくれない、興味を持ってもらえないだろうと思っていました。
しかし実際に話してみたら、多くの人が興味を持って聞いてくれて、自分にとっても話す事が重要な体験になっていました。
多くの人は被災した体験を隠そうとしますが、話そうとする事が重要だと思いました。

大谷さん:
映画製作に参加した事は心のケアになりましたか?

マリアさん:
結果的に非常に役に立ちました。
撮影中はPTSDの症状が出て来てつらい事もありました。
その痛みが映画にも表れているのではないかと思います。
この行為は出産に似ていると思いました。
生まれるまでは非常に辛いのですが、生まれた後はとても良かったと思えます。

大谷さん:
マリアさんにとっては4人目の子供のようなものですね。

マリアさん:
その通りです。人の役に立つ事のできるとても良い息子です。

大谷さん:
ありがとうございます。浅野さんにお伺いします。
1993年から2005年まで宮城県知事を務めていらっしゃった浅野さんにとっては、被災地の状況を見ても色々とお考えのことかと思います。

浅野さん:
私は初めて病気の告知を受けた時、一時間は心が震えましたが、でも一時間後には、戦う決心がついて心が楽になりました。怖い気持ちがなくなると同時に「根拠なき成功への確信」を感じたのですが、マリアさんも震災と戦っている時に助かる確信を感じたのではないかと思うのですがいかがでしょうか?

マリアさん:
私も同じ気持ちです。監督にも「思い込んだらすごい」と言われました。
皆さん、大なり、小なり、同じような経験をしているのではないでしょうか。
私は、震災の中、息子の姿を見つけた時、少しずつ自分の力が増していくのを感じました。
彼のところに行くという強い意思が持てました。彼に対する愛で生き残ったと思います。