多くのアニメーションを手掛け、国内外で高い評価を得ている原恵一監督の初実写映画監督ということについて

(原監督)『生誕100年という二度とない年に松竹から木下監督を描くということを聞き、最初は逃げたい気持ちでした。悩みましたが、一向に木下監督の再評価が始まらないことにもどかしさを感じていたし、やるしかないと思いました。最初は脚本の依頼だったんですが、脚本を書いているうちに手ごたえもあったので、最後まで付き合いたいと思い、監督をやりたいと言いました。』

と不安と共にスタートした経緯と木下好きだからこその熱意を話しました。続いて、当日までサプライズだった主演の加瀬亮さんが登場すると、一気に教室も熱狂に包まれ、原監督の初実写ということについてこう語りました。

(加瀬)『原監督が実写撮るけど興味あるか聞かれた時に、すごく興味があると伝えました。僕は実写初監督ということよりも監督の世界観がすごく好きだったので、そちらに興味があり、あまり初監督というところは気にならなかったです。』

そして、新垣プロデューサーも続けて

(新垣P)『オールスタッフミーティングの時に「自分はアニメーションをずっとやってきて、実写は初めてだけど、想いを届けることに変わりはない」と監督が言い放ち、スタッフ全員が監督についていこう!という気持ちになりました。』

と現場の中心に監督がいて和やかに撮影が進んでいった様子も披露。

その後、原監督が描いた絵コンテを見ながら、脚本だけではなく絵コンテ

をもとにシーンを作ったりしたことなど実際の撮影話に入ると、生徒は熱

心にノートを取っていました。

しかし、実際の現場ではアニメと初実写の違いで戸惑った点について

(原監督)『ずっとカット割りをどうやって決めるのか疑問だったんですが、現場で決めるんだということを知ったときはパニックに陥りましたね。まさかここで!?という・・。一度、役者さんに入ってもらってそのシーンを確認したらスタッフが集合してからカット割りを決めるなんて・・・無理だと思いました。絵コンテは、机に向かって時間をかけて決めるので、あまりの違いに驚きました。アニメのカット割りはとても細かく、自分はそれでも長いカットを作る方ですが・・それでもアニメのやり方は持ち込めないと思いました。』

その後、実際のメイキング映像や、木下惠介作品へのオマージュとして今

回盛り込んだシーンを新旧の画像を見比べながら説明。続いて学生からの

質問タイムでは、映画制作において特別にこだわっていることについて問

われると

(原監督)『1本映画が出来た時、周囲に比較できる作品がない、と思えた時にいい作品が出来たかもしれないと思う。似た作品がないということは独特の作品が出来たなと。それは木下監督の作品なんかにも通じるものだと思います。「はじまりのみち」はそうですね。』

(加瀬)『役者という仕事をやるようになってからいろんな考えの受け止め方ができるようになったなというのはありますね。これじゃなきゃ嫌だというのはなるべく思わないようにしています。』

(新垣P)『成し遂げたいという思い、初心をずっとあきらめずに持ち続けることが、映画だったら作品に息吹を吹き込むことができるのではないかと思っています。』

そして最後に映画業界・アニメーション業界・放送業界を目指す生徒に一言ずつ

(原監督)『僕もみなさんと同じような立場だったので、みなさんの将来への不安な気持ちはよくわかります。だからと言って、みんな頑張れば何とかなるとは言えないです。それは嘘だから。でも、これだけは間違いないんですが、全員がなりたい自分になれるわけではないけど、誰かはなれるんですよ。今もそういう人が現場で踏ん張っている。あとは木下監督の映画で描かれているようなことになるかもしれないけど、僕も作りたいものが必ず作れるわけではないんですよね。それはしょうがないです。でも、誰かのせいにはしないことですね。自分の力が足りなかったということだと思ってほしいんですよね。そうやって腐らずにまた新たな挑戦をすればいいと思うんです。どうか本気で、だからと言って頑張りすぎることもないと思いますが、長くやることは大事です。』

(加瀬)『自分で考えたこと、愚直な努力をしたこと、位しか力にならないので、でも逆に言うとその二つは必ず力になるので、どんな方法でもいいし、どんな考え方でもいいんですが、自分がいいと思ったことに突き進んでほしいなと思います。』

(新垣P)この作品は自分を最後まで信じてくれた母と惠介の愛情の話ですが、一方で挫折した若者の再生と、捨てきれない映画への思いを描いています。『みなさんのように何かを目指している人、目指しているけど上手くいかなかったり、失敗したり、打ちひしがれている、でもなんとか一歩前に踏み出したいと思っている人はきっといっぱいいると思います。若い学生だけでなく、社会人でも、何歳になってもそうだと思うのですが、そういう人の背中を押せる作品を届けたいというのが、「はじまりのみち」の企画意図でした。この作品は母と惠介の愛情と、一人の青年の挫折から再生へ向かう岐路を描いた作品なので、ぜひ観ていただきたいです。

最後は生徒との集合写真をパチリ。

将来の夢を描く学生にとっては有意義な1時間30分となりました。

【ワークショップ概要】

日時/5月15日(水)17:30〜19:00

場所/九州ビジュアルアーツB館 地下2Fエスペランサホール

登壇者/原恵一監督 加瀬亮 新垣弘隆(『はじまりのみち』プロデューサー)

九州ビジュアルアーツは九州で唯一、映画学科とアニメーション学科を兼ね備えており、アニメーション監督として手腕を発揮してきた原監督の初実写映画ということで、企画の成り立ち、実写とアニメの相違や映画業界について、映画学科・アニメーション学科・放送学科の学生100名を対象にしたワークショップとなりました。