京都で独自企画の映画製作や配給を手掛けるシマフィルムの京都連続第3弾作品『太秦ヤコペッティ』の大阪公開が、5/11(土)よりシネ・ヌーヴォにてスタートした。

愛する家族のために磁石の家を作り、資材用に牛を捌く省二。警官・小早川に持ちかけられた裏家業に踏み込んだことから事態は思わぬ展開に…。『太秦ヤコペッティ』は、京都・太秦を舞台に自分の法則に従って生きる暖かい家族の姿を血飛沫とユーモア溢れる語り口で描いた作品。

初日舞台挨拶に立った宮本監督は
「四年前に『尻舟』という長編をシネ・ヌーヴォでやっていただきました。今回プロダクションが付いて初めて公開する映画が、大阪でこの映画館というのがめっちゃ嬉しいです」と喜びを語った。

主演の北原雅樹さんは、衝撃的なシーンも多い本作に対して
「作品を観たのは今日で二回目。一回目はおおっという感じ。二回目はクスクス笑えた。皆さんぜひ二回観てください」と観客にアピールした。

本作を太秦で撮るきっかけについて、五歳まで太秦に住んでいたという宮本監督は、大映通り商店街の中に8ミリで撮影した映像をテレシネ(デジタルに変換)してくれる店があり、約二十年ぶりに訪れたことからだと言う。
「大映通り商店街で覚えている場所があって、住んでいたアパートの辺りまで歩いてみたんです。子供の時の記憶と比べて、保育園がこんなに小さかったのかと驚いたり、うるさかった近所のおっさんの家が綺麗になっていたり。その時僕が27、8で当時の親父の年齢になっていたから、親父の気持ちにもなれたんです。それで家族の映画をいつか太秦で撮りたいと思いました」。

北原さんが演じたのは正義感が高じて主人公に裏稼業の依頼をする派出所勤務の警官・小早川という複雑なキャラクター。
「気のいい兄ちゃんを演じることが多く、ダークな側面を持った人を演じるのはなかなか楽しかったですね。主役の和田晋侍さんは自然体ですが、僕が同じようにしてもおかしいし、かといってガチガチに演じて浮いてしまうのも心配だったので、ナチュラルと芝居をどの位の加減で行こうかと監督とディスカッションしながらやりました」
小早川は公衆トイレの掃除が趣味。
「1番の思い出は臭かったこと。何回公衆トイレで撮影したことか(笑)」
と撮影時の苦労を語った。

司会を務めた宣伝の田辺ユウキさんから
「たまに“本当に牛を殺してるんですか”っていう人がいます(笑)」と、観客が注目する牛殺しのシーンの撮影について質問が投げかけられた。

宮本監督は
「牛怖いですよ。なめてたら、いつもと違って人が多いから牛も興奮して猛り狂ってるし(笑)。言葉通じへんし(笑)。最低限の人数で牛がいる柵の中に入ることにしました。和田くんはプロの俳優の前で「ミュージシャンはあんなもんか」と思われるのが嫌やから平気な顔して牛を触っていました(笑)。
僕は撮影も担当していたんですけど、カメラは柵の中に置きたくて。何があってもカメラだけは死守しなければと、柵の外に撮影助手を待機させてカメラの受け渡しを練習してから撮りました(笑)」
また、磁石の家を建てる空き地のロケでは、ロケハン時には何ともなかったのに撮影で訪れると3方向でマンションの工事が始まっていて一同唖然とした。ところが工事業者の好意で本番時は工事を止めてもらえたという奇跡のエピソードや、猛り狂う蝉を黙らせる苦労話などを披露し、会場は爆笑につつまれた。

オープニングから印象的な音楽で幕を開ける本作。主演の和田晋侍さんが音楽も担当している。
「和田くんの音楽は、初めてライブを観た時からかっこいいと思っていたので心配はしてなくて、ある程度お任せにしたいと思っていました。抽象的ですが“ヒリヒリした感じ”の音楽が欲しいということ、あとは女性ボーカルでベタに綺麗なものを一曲お願いしました。
劇中では一部しか流れませんが、サントラを作ってくれたので毎日聴いています」
宮本監督を夢中にさせた和田さんの音楽にもぜひ注目していただきたい。

北原さんは宮本監督の演出について
「ストライクゾーンが広いですね。意図はしっかり持っているので、違うところについてははっきり指導が入りました。役者としてすべてボツにされるとしんどい部分もありますが、そこはいいバランスでさせてもらいました。また機会があれば泳がせてもらいたいです(笑)」
「すき焼きに入れるふをふやかしてコーヒーと混ぜると例のブツができます(笑)。実はコーヒーのいい匂いがするんです」と撮影秘話も披露。例のブツとはどのシーンで登場するものか、映画を観る際にはぜひ探して欲しい。

『太秦ヤコペッティ』は5/24(金)までシネ・ヌーヴォにて公開。
同時に『太秦ヤコペッティ』公開記念【宮本杜朗とシマフィルム】と題して同じく5/24(金)まで京都連続第1弾の『堀川中立売』(柴田剛監督)、京都連続第2弾『天使突抜六丁目』(山田雅史監督)、シマフィルム配給『尻舟』(宮本杜朗監督)も公開中。各作品はソフト化されておらず、劇場でしか出会えない稀有な作品となっている。この機会にぜひシマフィルム関連作品の魅力に触れていただきたい。

5/25(土)から6/7(金)までは第七藝術劇場にて公開予定となっている。

(Report:デューイ松田)