「ほしのこえ」で鮮烈なデビューを飾りアニメーション業界に衝撃を与え、前作「星を追う子ども」(2011)が日本国内だけでなく韓国で異例の100館以上での公開を果たし、次世代を担うアニメーション監督として国内外で高い評価を受けている新海誠の待望の新作「言の葉の庭」が、いよいよ完成しました。“デジタル時代の映像文学”で世界を魅了する新海誠が2013年に描くのは、万葉集の一篇から始まる“孤悲”の物語。テーマは、靴、万葉集、日本庭園、雨——。雨の季節に日本庭園で出会った、靴職人を目指す少年と歩き方を忘れた女性の、現代の東京を舞台にした「恋の物語」を描きます。
この作品の公開を記念し、本日5月10日(金)19:00よりアップルストア銀座にて新海誠監督のトークショーが行われ、約80人の定員である会場には100人以上の新海ファンが押し寄せました。トーク内容は作品についてのみならず、会場に因みテクノロジーにまつわる監督の制作観にまで及び、ファンは普段なかなか聞けない貴重な話に耳を傾けました。

<以下、新海誠監督のコメント抜粋です>
『言の葉の庭』には絵としての見どころがたくさんあって、「発明」と言えるような表現技術も盛り込まれています。そもそも僕は初めから、制作動機として〈技術〉がありました。パソコンがなければ、映画は作っていないです。今回の作品は〈雨〉がテーマだから、デジタル技術で雨を作っています。キャラクターなんかは最初に紙に書くんです。それで、「1カットに100枚だとさすがに多いな」となると、カット毎の枚数を減らしていく。それなのに、デジタルで作った雨は10万粒あったりするんです。「もう2万粒 足すか」とか言ったり (笑)。
『彼女と彼女の猫』(1999年制作)で使っていたMacintoshと比べると、パソコンのスペックはこの10年間で本当に上がった。だけど、制作のスピードは一向に上がりません(笑)。求められるスペックが上がってきているんですね。フレームレートもそうです。1秒15コマで作った『彼女と彼女の猫』は今でも問題なく見られるし、最近採用している1秒24コマにも多くの利点がある。とは言え、現状のフレームレートに留まっていては、将来的に日本のアニメだけがカクカクしてしまう可能性もあるから、踏み止まるわけにはいかない。これからはテクノロジーの進化も含めて、ますますアニメの将来を考えなくてはならないと思うし、『言の葉の庭』はそういう風に考えるきっかけになりました。ソフトをはじめとする便利なツールのおかげで、アニメの設計図であるビデオコンテは作るのが楽しくなりましたね。「作ることを楽しくしてくれる」というのが、僕が技術に求めるところです。

僕は、今あるものをどういう風に噛み砕こうか、という気持ちの方が大きいんです。将来どうなるかを考えてもしかたない。「次回作がどうなるか」とうことをよく聞かれるけれど、『言の葉の庭』が公開してみないと、次にどこに進むかは分かりません。Twitterでもメールでも、観ていただいた方に声を上げてもらえれば、次に進む道が明確になっていくと思います。とは言え、「良いものができた」という今の満足感を抱えたまま、人生を終えたい気もしますけどね(笑)。