アフガニスタンの最前線アルマジロ基地に、国際平和活動(PSO)という名の下に派兵されたデンマークの若い兵士たちを追ったドキュメンタリー映画『アルマジロ』。1月19日(土)より公開となる本作の公開直前となる1月15日(火)、映画監督・森達也さんと、同じく映画監督でありながら自衛隊員としてイラク復興人道支援活動の経験のある佐野伸寿さんが試写会に登壇。当日参加した観客とともに、それぞれの立場から『アルマジロ』をテーマに、今作で描かれる戦場でのジャーナリズム、そしてドキュメンタリー論が語られた。

森監督は「日本は営利企業であるメディアとジャーナリズムが不可分になっていることにより、ジャーナリズムの論理がメディアの論理に負けてしまい、みんなが興味を持ってくれるものだけしか取り上げない。日本のメディアが窒息しかけているな、と感じているときにこの作品を観たので、より一層びっくりした」と今作を観た驚きについて最初に語った。さらに「こうした戦場での取材にあたり政府の許可が必要なのであれば、日本のメディアは、そこでかけあってでも取材する、という気概がデンマークに比べて全く低い」と、日本のメディアの意識について苦言を呈した。

一方、佐野さんは実際に自衛隊員としてイラクに赴いた経験をふまえ、アフガンの現地の人の心情は無視されている部分はあるものの、「兵隊さんのたちの実際の生活や心の動きがよく伝わってくる」と語り、「撮る側と取られる側、信頼関係ができている。それがあるから撮られることに抵抗がないし、兵隊さんたちも自由にしゃべっている」と戦地でこうした映像を撮りきった今作について、ドキュメンタリー作家としての立場からも評価した。

そんな佐野さんに対して、森監督は「もし佐野さんが自衛隊の広報担当として、僕が今作のような自衛隊のドキュメンタリーを撮りたいとしたらどうしますか?隊員が現地でエロサイトを見ているところとか、敵兵を撃ち殺してして『スカッとしたぜ』というシーンを撮影したら?」と質問。佐野さんは「隊員の身分を守らなければいけないし、その映像が出たことで本来の作戦意図が曲げられることがあってはいけない。イラクの場合は、人道支援がいちばんの目的なので、それ以外の部分を強調されたり、現地の伝統文化をないがしろにしていると見られる素材に関しては出せないと思います」と答えた。

後半では客席の参加者とのQ&Aも行われ、半年間の密着でどんなストーリー性を持って表現しようとしていたと思うか、という質問に対して森監督は「単純な反戦というメッセージではない。究極的な状況にいる兵士たちが、普通に笑ったり泣いたりする。こんなにありふれた存在であるはずの彼らが壊れてしまう、人間という存在の不可思議さを出したかったのではないか」と述べた。ヤヌス・メッツ監督は今作について「この企画を立ち上げたころ、デンマークのメディアはほとんどアフガニスタンに注目していなかった」とコメントしているが、佐野さんは「アフガニスタンに行っている兵隊さんは、デンマークとすごい距離が離れているところで戦っていることを誰も知らないなかで、自分たちの存在を知ってもらいたかったんだと思います。そこで監督たちは『あなたたちの存在を世に知らせてあげる』ことで、信頼関係を作っていくしかなかったんじゃないでしょうか」と指摘した。

他にも日本のドキュメンタリーとは異なる色調や演出について「ハリウッド映画のようにみえる」と観客からの感想が寄せられるなど、様々な角度から疑問を投げかける映画『アルマジロ』について、関心の高さが伺えるイベントとなった。